第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 668
―――レイ・ロッドマン大尉たちは、幾度か帝国軍の小部隊と遭遇した。
プレイガストとレビン大尉を探していた部隊であり、その規模はおかげで小さなものさ。
散発的な戦闘になるけれど、勝負は最初から分かっている。
戦いと呼べるほど、競り合うこともやれないよ……。
「学生たち、矢を撃ちまくれ!!まともに戦わなくてもいいぞ!!接近戦なんて、絶対やるな!!」
「了解です、ロッドマン大尉!!」
「あいつらを、物量で倒す!!」
「そうだ!!追い散らせ!!おびき寄せられるのら、それはそれでありだ!!」
「……私の故郷を、気にしてくれているんですね」
「そういう人道的な感傷だけじゃない。むしろ、もっとドライな理由からだな」
「ええ。船で上陸できる、最良のポイントですから」
「深さもある。いい港だ」
―――帝国軍の捜索部隊を蹴散らしながら、レイ・ロッドマン大尉は進軍を続ける。
鋼を振るって戦うなんて真似は、まだせずに済んでいたけれど。
働いていないわけじゃない、むしろ異常に忙しいほどだったね。
歩きながら手紙まで書いている、暗号文字で助かったよ……。
―――帝国式の暗号文字さ、線の組み合わせだけで構成されている。
すべてが真っ直ぐな線と、意味を持たせた『途切れ』の組み合わせ。
歩きながらのブレた文字であっても、ちゃんと意味は通じた。
識字率の高さで有名な帝国軍だが、傭兵たちは事情が違っている……。
「シンプルな、暗号ですね」
「雑兵には、学が足りねえバカも多いからな。とくに傭兵はひどい。文字が読めるヤツだらけってのは、奇跡よりもお目にかかったことがない。どこの傭兵団にも、誰かひとりは、読み書きが出来ないヤツが混じっている」
―――我が『パンジャール猟兵団』も、例外には漏れていない。
ジャンは最近まで読み書きが出来なかった、最近は本も読めるようになったけれどね。
傭兵という生き方をする者は、やはり豊かではない者も多かった。
学問はパンと同じで、金を出して買うものさ……。
「貧乏人は、マジでアホだからな。地頭がいいぐらいじゃ、克服不可能な深刻さというものがある」
―――伝書鳩をやり取りしながらの進軍、暗号文字は有効だった。
『漁村を確保、有効な上陸地点である』。
そのメッセージを、『自由同盟』側に送り届けたんだ。
大学半島からこちらに向かっている船に、鳩は遠からずたどり着く……。
「あんたの故郷を、兵士でいっぱいにするんだ。腹が立つことも起きるだろうし、若くて武装したヤツは、無礼な真似もしがちだ」
「そう、でしょうね。それでも、村の総意ですよ」
「ありがたい犠牲だ。こんな戦がなければ、いいや、乱世でなければ、君らの村を部外者の足が踏むことはなかっただろうに」
「……そうでしょうね。でも、そうだったら。私は、外の世界とつながれなかった」
「田舎のエルフにすれば、珍しいヤツみたいだな、ロックよ。外の世界に興味津々というわけか」
「ええ。知識欲もあるので」
「そいつは、いいことだ。オレは、自分の子供たちには。大学半島の学校に通って欲しいと思っている」
「ご自身は、どうなんですか?」
「寝耳に水とは、このことだぜ」
「意外だとは、思いませんよ。私も、大学に通ってみたい。妻子がいても、学問をあきらめる理由にはならない。年を、取っていてもです」
「……そいつは、うん。たしかに、その通りじゃある。だが、オレはムリだな。勉強そのものが、まず好きじゃねえから。好きじゃねえことを、自分の子供にやらせようってのは、虫が良すぎるか……」
「そんなものです。親は、それでも言うべきでしょう。「勉強をしろ」と」
「まあ、賢くて損することはねえ」
「そう思います。それに、楽しいので」
「同意しかねるが、そういう方々がこの世にいてくれたおかげで、文明ってのは進む」
「ですね。たくさんの先人の知恵に、感謝です」
―――妻子持ちだからか、この二人は馬が合うようだ。
レビン大尉をお供につけたりしなくて、大正解だったね。
口答えるするレビン大尉を、威圧で押さえつけるだけの行軍になっただろうから。
レビン大尉も深刻なレベルで悪いヤツではないが、凡庸な人物でしかない……。
―――それでも有能ではあるのさ、このあたりにいる帝国軍に比べれば。
彼はプレイガストと学生たちと共に、村の守りを固めている。
その指示は実に妥当なものだ、良くも悪く六十点。
及第点でしかないが、こちらの主力が学生というのも大きいよね……。
「シンプルな戦術で、十分だ。難しい戦術が、若いお前らにやれるわけもない」
「大学半島の戦士たちを、軽んじない方がいいですよ」
「口答えは許さん。そういう結束を乱す発言は、弱さを招く。大学じゃない。戦場では、議論なんて持ち出すなよ。最善策よりも、一致団結の方が、守るときは強いんだ!覚えておけ、アタマでっかちども!」
「なるほど。貴重なご意見ですね」
「マジで貴重なご意見を、くれてやっているんだ。考えれば、遅くなる。守るときは、ひたすらに反応しろ。過度に動き過ぎず、瞬間的に一気に動け」
「了解。参考になります。帝国軍の言葉とはいえ」
「差別はするなが、君らのテーマだろうが。知識だけは、人種も何もない」
「それも、心に刺さってしまう言葉です」
「大学半島じゃ、亜人種も人間族とつるむらしいが……」
「ええ。それでも、これまでは、卒業してからの絆なんて皆無でした。でも、今は、違っている。変えますので」
「……鼻につく自信だ。楽観的過ぎるだろ」
「レビン大尉、若者の言葉をもっと素直に信じてやれ」
「教師じゃないんだ、オレは」
「ならば。文句ではなく、より若者たちに教えておくべき教訓を話してくれるといい。そちらの方が、彼らも喜ぶだろう。君の言う一致団結の結束を維持するためにも、尊敬してやれる発言をしてくれたまえ」
「……敵と出会ったら、右か左か、どっちでもいいから全力で走れ!!敵の群れに、突っ込む形になっても、サイアク構わん!!迷ってしまい、その場に立ち止まることは破滅だとしれ!!動けば、死ににくい!!緊急事態には、素早く反応するんだ!!生き延びて、頭数が維持していられる限り、守る戦いってのは負けるもんじゃない!!」
「わかりました。参考にさせていただきます」
「これで、いいか?」
「いいさ。戦士をやれなくなったら、教官でも目指すといい」
「無理だな。ガキのお守りは、大金がかかっていないと」
「そうかね。そのうち歪んだ金銭欲から解き放たれて、若者への教育の魅力に気づくかもしれないよ?」
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