第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その658
―――メイウェイから言わせれば、これは『内政』であり『外交』でもあった。
苛烈なまでの進軍速度で、撤退する帝国兵どもを追い回しながら血祭りにあげていく。
まともに戦うよりは疲弊しないうえに、帝国兵どもも逃亡で疲れ果てていた。
戦闘するも多かったが、降伏して捕虜になりたがる者も大勢いたんだよ……。
―――歴史的な勝利の多くが、おそらくこんな形で成されたのだろう。
合戦だけで圧倒的な勝利を得られるとは考えにくいからね、実際はこんなものさ。
逃げ惑う敵を追い散らしてながら、組み伏せていった。
メイウェイは前進し続け、帝国兵どもは押し迫るメイウェイ軍の数に圧倒され逃げた……。
―――小規模な警備隊がそこらにいたが、その数ではどうにもならない。
この警備隊の連中も、抱え込んでいる物資が豊富ではなかったのさ。
今までは第九師団から、マイク・クーガーからの補給に依存していた地域だからね。
西部の駐屯軍の首領どもと、大して絆が無かったりもする……。
「これだけの兵に、食わせるほどのメシはないぞ!」
「……あいつら、オレたちから奪うかもしれない」
―――どんなに優秀な兵士でも、やはり食料は要求してくるからね。
兵站というものの大切さが、ここでも証明された。
メイウェイの読み通りでもある、西部に引きこもりたい敵の備蓄が多いはずもない。
飢えた兵士が強いはずもない、食料があるならば選択肢はただひとつ……。
「西に、下がるぞ!」
「南にもだ。敵を、分散させなければ……」
「メイウェイに、どこまでも明け渡すというのかよ」
「嫌なら戦えよ。好きにしてくれて構わねぞ」
―――完全に崩壊した軍勢を目の当たりにして、戦いを継続したい兵士は少ないものだ。
自然な選択により、メイウェイは戦わずして進軍を続けられた。
歴史的な殺りく数とまでは言えないが、エリート部隊でもない混成軍の進軍距離では。
すでにこの時点で、歴史的な距離だったのは確かだ……。
「敵はおびえるだろう。あるいは、味方も」
「……ドゥーニア姫が、来るってか」
「伝書鳩は送っているからね。返事はないが、間違いない。イルカルラにいる私の兵力も動きやすくなる。私が帝国軍を襲撃しまくっているのであれば、彼らも裏切れない立場だ」
「アンタを裏切るとは、思わないのか?」
「裏切りそうな若手には、もう裏切られている。ベテランは、私への忠誠心というよりも、アインウルフ将軍への忠誠心が分厚いからね。裏切るなど、考えられないさ」
「長く戦った仲間は、そうだよな」
「ああ。まだまだ、進むぞ」
「……さすがに、兵士に疲れが見えるが……」
「進めばいい。レイ・ロッドマン大尉と、合流だってやれる」
「エルフの漁村に、上陸してくれると?」
「してくれるさ。私の援護をしたがっている」
「……娘が、『狭間』だから」
「歴史を変える戦いに参加していたい。父親になったことは、まだないが。彼の気持ちは分かってやれるつもりだ。私は出世に飢えているが、彼は、もっと個人的な願いのために戦っている」
「進軍する余裕はあるが、あまりに進みすぎれば……補給だって」
「奪えばいい。民からではなく、帝国軍からな。追い回せば、何を放棄して逃げると思う?」
「食料。なるほど。追いはぎの要領か」
「言い方は良くないが、まさにそれをやる。兵士には、報奨として差し出しやすい」
「毒を、盛られるかもしれないが……」
「それを実行するための時間さえ、削ってしまえばいい。捕虜を使えば、毒を検知するのも容易いものだ」
「えぐいな。そういうの、マジでやるなよ」
「それでいい。倫理観を保ちたまえ。私の発言に問題点を感じたときは、そっちょくな言葉で意見をする権利を君にあげよう。それは私のためでも、君のためでもない。我々、全員のためになる。指揮官が腐れば、その軍勢は弱くなり、死傷者を増やすのだから」
「マジメ野郎だ。まあ、悪くない」
―――出世の道に、引きずり込みたがっているようだ。
アーベルは理想的な兵士の質を、多く持っていたからしょうがない。
戦術理解もそうだし、倫理観も高かった。
第六師団が最強の攻撃者だった理由は、モラルの高さだとメイウェイは理解している……。
―――他種族が混在する軍勢や同盟において、モラルというのは大切だ。
種族と出身国が異なれば、価値観はずいぶんと違うわけだけど。
戦場でのモラルは、非常に分かりやすい部分がある。
捕虜を虐待するな、民衆から略奪を働くな……。
―――命令に背くな、背きたくなる命令をするな。
それらの全てを守れる軍事組織は、極めて少ないものだけど。
それゆえに大きな価値があって、モラルを保てる軍事組織は名誉を得るものさ。
メイウェイの副官として、古い騎士道を理解するアーベルを据えるには名案だよ……。
―――メイウェイの軍勢の進撃は、加速的に早まっていく。
歴史上最長の前進/ロンゲスト・ゲイン、それを成し遂げる可能性はあった。
ドゥーニア姫が謀殺の達人だったりすれば、ここまでは進めなかっただろう。
有能な軍人は、その有能さが死因に直結するなんてあるあるだからね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます