第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その615
―――ボクたちは、そこまで遠い『未来』を考えてはいないけれど。
錬金術師という学問分野の天才たちの時間感覚って、戦士や軍人や貴族よりも長大だった。
ルクレツィア・クライス『長老』は、自分の村民である『メルカ・コルン』に指示を出す。
『二世紀先で必要になるかもしれない数学の研究と、三世紀先と四世紀先のものだ』……。
「今の技術や知識では、ちょっと無理だろうけれど。『そのうち』、錬金術の基礎的な能力はそこらまで発展するわ。だから、あらかじめ用意しておけばいい。物質や魔力の、『究極に小さな単位』まで見通せる能力は、今の時代じゃ天才の感覚頼みだけれど。技術が成長すれば、数式で把握するようになっていくでしょう」
―――おそらくは、古代の賢者たちも同じような思考をしていたんだろうね。
千年前の古王朝の学問が、今でも有用な建築だとか錬金術や冶金を知識的に支えている。
何も感覚と経験値だけで、世の中は出来ちゃいないんだから。
はるか先の『未来』のために、大昔の賢者たちは数学をしていてくれたわけさ……。
―――古代に思いを馳せられて、いい体験ではあるよね。
ルクレツィア・クライスのように、過去の偉大な賢者たちと同レベルの人物がいるとさ。
『長老』と呼びたくなってしまうよ、アラサー女性にそんな発言をしないけれど。
『メルカ・コルン』の一部は、数学の研究を始めている……。
「錬金術の知識は、一定以上に蓄積されると飛躍的に進化するはず。呪術錬金術という分野も、おそらく急激に。これは、戦士たちを喜ばせるものだから。何せ、『兵器』を創れるんですからね。人類が今まで対面したことのない、想定外の強力な『兵器』が。それは、おそらく神々の力さえ、はるかに飛び越えるもの」
「数学的なフォローがあれば、それらの『兵器』に対しての開発をフォローできる。とてつもなく破壊力のある爆弾だとか……空間や、時間に対して働きかけるものだとか。ああ、数学は、本当に面白いわよね。『今はまだありえない発明の予想だってやれる』んだから」
―――研究者と発明家には、大きな違いがあるように思えるよ。
圧倒的に後者であるギンドウ・アーヴィングは、現代では無理な技術に興味を持てない。
「ねえもん考えても、使えないから意味がないすわ」。
そんな言葉を吐きそうだし、遠い『未来』の同類なんて意識しないだろうね……。
―――あくまでも現代ある方法で、どうにかしようとするだろう。
でも、『メルカ』の方々に聞いていないのは問題かもしれないね。
彼の夢である『飛行機械』を創る方法を、いっしょに考えてくれないかだとか。
戦争で有利な兵器にもなるのは、ゼファーがすでに嫌というほど証明済みだから……。
―――具体的なロードマップが見えたりすれば、ルード王国も研究資金を出すのに。
だれだけ出しても、惜しまないよ。
まあ、すぐに叶えられそうにないからクラリスの財布のひもは固いんだけれど。
数学だとか物理学の研究について、ギンドウが論文を書いたこともない……。
「ギンドウ・アーヴィング氏にも、会ってみたいところね。面白い発想をする。飛行機械。古来ある夢ではあるけれど、まだ叶えた者はいない……まあ、何よりも、協力して欲しいのは、各種の実験道具の洗練なんだけれどね。こんなに高精度の時計、他の時計と比べてみても、一線を画した天才性がある。高度な数学を、現実の設計として再現可能な賢さは、ある意味で私たちよりも上でしょうね」
―――実験道具の開発者になってくれ、それは錬金術の発展に大きく寄与するから。
「金次第っすわ。面白みもなさそうだからねえ」。
ギンドウはそんな発言をするのは、目に見えてはいるんだけれど。
「もうからなさそう、大学や研究者なんて世にも珍しい数しかいないんだ」……。
―――そうも言いそうだね、実際のところその通りじゃある。
ギンドウでしか作れそうにない高度な実験道具が必要な方々は、大陸に何人いるのか。
ギンドウが大学教授だったりすれば、引っ張りだこだったろう。
おそらく欲しい実験道具を口で説明したら、数日のうちに作ってくれそうだから……。
―――高度な数学を、実際の世界に形にする。
それはたしかに高度なアイデアを考え出すよりも、ずっと難しい行いだった。
職人的な技巧が、不可能を可能の領域へと引きずり込んでくれるケースもあるのさ。
ギンドウは戦争がない時代だったら、『大学半島』あたりに閉じ込めておくといいかも……。
―――恐ろしいほど、学問の発展に貢献するんじゃないだろうか。
手癖の悪い彼が、大学の金庫を攻撃しないとも限らないけれど。
そのリスクに目をつむりたくなるほど、いい仕事をしそうだよね。
ギンドウも『飛行機械』の実験を分析してくれる、賢い学生たちがいて損はしない……。
「完璧な時を刻む時計があれば、やってみたい研究がいくつもあるのに。そう考えている学者は、まあ、大陸のあちこちにいるでしょうね。『未来』が、ちょっとうらやましいと思うわ。『呪術錬金術』の研究だって、好き放題にやっているでしょうに。ああ、そのときのために。『発明のママ』が、たくさんの論文を残しておいてやるとしましょう!」
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