第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その612
―――寝耳に水、そんな状況に遭遇するときも多いよ。
自分だけでは、あるいは自分が所属している集団だけでは。
どうにもこうにも、想像力が及ばないところもあってね。
まっすぐな人物であるパロムと、相棒である『曙』も目と口を大きく開いた……。
「そ、そんな考え!?じゃ、邪道だけど、いや、でも!!つ、強そう!!」
『ひ、ひひいいいんん!!』
「え、ええ。強いのは、強いんだと思うわよ。だって、ストラウス卿とゼファーは、それを使って、各地で帝国軍に打ち勝っているわけだから」
「やらねば!!呪術、呪術の練習も必要だ!!いい呪術師、いませんか!?」
「いや、そういうの……あまり、いないというか」
「うう。そうなんですね……っ。呪術なんて……錬金術しか、私たちディアロスはやっていませんし……」
「……まあ、南のエルフにも、呪術そのものはあるわ」
「つ、使えるんですか!?」
「私たちは、『ゴーレム』を創れるの」
「ゴーレム!?大きな、岩の人形的な!?」
「そうね。戦士を、生贄にする、祭祀呪術よ」
「そ、それは……なんとも、大変そうな」
「うん。生贄になったら、けっきょくは死んでしまうから。でも、英雄ではあるの。何十年も、何百年も、岩で作られた大人形として部族を守る。もしも敵が強大であったときは、ゴーレムを推奨で動かし、戦士たちと共にゴーレムも戦うの」
「死したあとでも、仲間を守るのですね」
「ええ。今回も、それをしてくれた戦士がいる。昔はね、そいつ、すごく嫌なヤツだったけれど、最期はカッコ良かった」
「そうでしょうとも。とても、大きな貢献。ヒトがやれる、最大の貢献のひとつだと思います。英雄に、槍を、捧げます!!」
―――敬礼代わりの文化だよ、夏の星空に突き立てるような勢いで。
パロムは槍を伸ばして、『曙』は『水晶の角』を空に向けた。
純粋な敬意が、ルチア・クローナーにとっても心地良い。
キーヴィーの人生は善良とは言い難いけれど、命で清算して彼は英雄になった……。
「……ありがとう。キーヴィーも、彼の兄も喜ぶ。弟分もね」
「みんな、星になられた!」
「い、いえ。弟分のケーンは生きているわよ。ミアに、骨を折られたけれど」
「ふ、ふむ。みなさま、なかなかにワイルドというか」
「数日前まで、仲間ってわけじゃなかったからね。対立していたの、キーヴィーとケーンともだし……人間族とだって。『ルファード』は敵だったし、『オルテガ』は帝国軍の支配下にあった」
「おいそがしい。戦いの連続であったのですね」
「そうよ。本当に、戦いの連続で……」
「楽しかったのでしょう。不謹慎な意味ではなく、ただ、純粋に。戦士として」
「ええ。そうよ。ストラウス卿も一緒だったしね」
「素晴らしい英雄であり、猟兵の長ですからね!」
「そういう意味だけじゃない。男性として、意識していたの」
「……な、な、何と!?その、あの。社長は、副社長の夫で……っ。ああ、でも、何人か妻がいるのがガルーナ貴族なら、純愛判定で問題ないわけですね!?」
「純愛かどうかは、私たちの価値観だと、ちょっと違うかもだけれど」
「ま、まあ。私、恋愛に対しては優等生ではございません。というか、お付き合いした方もおらないので、よく分かりませんが。一般的に、男女、一対一が恋愛なのかと」
「ストラウス卿たちは、幸せなんでしょうけれど」
「……では、ルチア殿は、社長の数ある女のひとりにはなりたくない……?」
「その言い方は、露骨に聞こえちゃうけれど。でも、そうだ。そういう恋愛は、私は受け入れられないかも。アタマが、硬いのかなあ」
「ヒトは、良くも悪くも変わるので。未来においては、その認識のままとは、限らないと思います」
「ま、まあ。そうね。でも、今は……」
「え、ええ。そうですね。ちょっと、社長の夫婦観は独特な気がするので。それは、置いておきましょう。我々のような若者が、立ち入るには闇深い気もすると、『曙』も言っているのです」
『ぶふ、ううう!?』
「多分だけど、貴方だけの意見で、『曙』は違ったんじゃないかしら」
「ま、まあ。ちょっとは。『曙』も素直ではなく……」
「今、通じているのね。ストラウス卿の呪術と同じく、魔眼の代わりを」
「この『水晶の角』が、果たしているのです!ディアロスの戦士と、『ユニコーン』をつないでいる!」
「それは、おそらく呪術の一種でしょうね。私たちが、水晶でゴーレムをあやつれるのと似ているかも」
「まあ。呪術なのかもしれません。後天的に錬金術で作った『水晶の角』を、私たちディアロスは付け替える時期があるのですが、かつて使っていた角を、『ユニコーン』に移植しているのです」
「なかなか、独特な行為よね」
「他の種族には、ないようですね」
「それは特殊な呪術だから、もしかしたら、応用が利くかもしれない」
「……応用、ですか。ガンコで猪突猛進な私とは、ちょっと合わない分野かも」
「ストラウス卿は、魔眼という感覚器官を呪術の触媒に使う。その角は、何か感じているの?」
「『ユニコーン』の声、ですね」
「じゃあ、聴覚なのね。聴くことで成り立つ呪術とか、あるかしら。遠くからの声を聞くとか……ああ、エルフの耳だと、風の声が聞こえるときがある」
「ディアロスは、冬の嵐の訪れを感じ取れる」
「他には、何か角で感じられるの?」
「……金属の音や、呼吸の音……」
「つまり、こういうとき?……武器を、振るときとか」
「ええ。聞こえますね。心臓の音、筋肉の軋み、骨と、鋼の……」
「貴方たちの種族で、最も呪術めいた行いは?」
「『ユニコーン』と連携……心をつなぐだけではなく、『霊槍』という、槍に『ユニコーン』を憑依させて、通常の数倍とか数十倍の威力を成す……あれも、そうか。呪術か」
「槍を、変形させられるの?」
「はい。とても感覚的ですけれど」
「じゃあ、敵の槍も?」
「い、いえ。自分のだけです……だけ……だけ、かな?」
「試してみればいいわ。こうして敵が、槍を突いてきたら……変えるとしたら?」
「鋼の部分、ここに……変われ、宿れ、そうつながりを深く聴き取りながら、さわれば」
「……え。わあ!?」
―――有能な戦士たちには、鋼を握力だけで曲げられる者も多いものだけれど。
それは、握力じゃなかったね。
ルチアの槍の先端についた、鋼。
その尖った鋼が、パロムが触ることでいきなり『変化』した……。
「ひ、ひええ!?ひん曲がりましたけどっ!?」
『ひ、ひひいいいんん!!』
「『曙』、ドン引きしないでっ。わ、私だって、こんな現象は知らないっすよ」
「……でも、これ。敵の武器破壊に使える呪術かも」
「な、なんですと!?」
『ひ、ひひいいん!?』
「まあ、その……ただ、そう思っただけなんだけど。槍がひとつ、壊れてしまったし?」
「べ、弁償させてくださいませえええええ!!ごめんなさいいいい!!」
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