第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その295


―――分かりやすく認識するために、あえて名付けるのならば。


それは『祭壇』だよ、死者で編まれた装置。


生贄にされた者たちは、命を燃やしながら女神イースに力を与えていく。


血と肉に遺るあらゆる魔力を、強制的な信仰の供物として捧げられているんだ……。




―――イース教の、とくに『カール・メアー』の教義においては。


このおぞましい犠牲は、許されてしまうだろう。


どんなに罪深く感じられたとしても、この『献身的な行い』は評価された。


女神イースの慈悲に満ちた世界を作るために、必要な犠牲なのだから……。




「ストラウス卿!!それには、叔父さまが……いるの!!」




―――多くの犠牲が、この瞬間までに起きていた。


ソルジェに追い詰められ、無数の戦士たちに包囲された女神イース。


その戦いの場に乱入したビビアナは、『曙』の背で叫ぶ。


竜太刀の動きが遅くなることはないが、その訴えはソルジェに届いていた……。




『……『狭間』か。供物の、姪……』




―――女神イースの言葉も、聞いていた。


ソルジェは怒りと共に、歯ぎしりする。


それでも、暴走はしない。


魔眼の力で、ビビアナのそばにミアがいることを察知していたからだ……。




―――ミアがそばにいるのなら、無意味な介入はさせないと理解している。


賢いビビアナがこの戦場にやって来たとすれば、何か意味のある訴えなのだ。


聞き届けるまで、女神イースの首を落とすことはすべきではない。


冷静になる、ソルジェは心理操作術の達人でもあるからね……。




「『繭』があるはず!!それに、叔父さまのカラダを回収して、ぶち込むの!!そうすれば、蘇生は出来る!!」




―――無茶なアイデアだと、その場にいたガンダラは思った。


だが、そもそも『ゼルアガ/侵略神』の権能は異次元の能力だ。


信じることにした、そんな奇跡があったとしてもおかしくはない。


神々が目の前に現れて、戦い合うという状況は価値観を大きく広げてくれる経験だ……。




「何でもあり、そういうことですな」




―――ソルジェは理解が早かった、魔眼で友人の痕跡を探り始めている。


竜太刀で打ち合うことで、すでに多くを感じ取れていたことも幸いした。


認識を改めて探ってみれば、女神イースの体のあちこちにメダルドの魔力がある。


それはわずかなものではあるが、魔眼とソルジェの才能ならば知覚が及ぶ……。




『……何を、笑っているのだ。ソルジェ・ストラウス』


「悪い報せには、良い報せも伴うものだと、思ってな!!」


『私から、あの男の肉体を回収することなど、不可能だ』


「やれるさ!!メダルドは、まだ生きている!!『蟲』に寄生された、おかげか!!」




―――賢さではなくて、いつものように直感的な推察だったよ。


それでも呪術師としての才能を磨きつつあるソルジェは、自信を持っている。


この土地で遭遇した『蟲』は、死者の記憶を保存する能力があったからね。


メダルドが死んでいたとしても、記憶は『蟲』のなかにありそうだった……。




「記憶がある。そのうえ、肉体も生きているとなれば!!『メダルドを作り直してやれる』だろう!!」




―――ビビアナの考えであり、ソルジェのアイデアでもある。


呪術師としての才能を持つ二人が、賢さと天性の直感で得た判断は信じるべきだ。


常識から大きく離れていたとしても、ありふれてはいない行いであっても。


それが不可能であると断定する理由になるとは、限らないものさ……。




「おっちゃんを、取り戻すぞー!!」




―――ミアもやる気に満ちていた、兄と親友の考えを信じているからね。


女神イースを倒して、『メダルドの部品』を取り戻せばいいと考えていた。


『曙』の背中を蹴り、戦場の誰よりも高い場所へと飛び上がる。


小石を弾丸代わりにして、『風』を込めたスリングショットを放った……。




―――これまでとは違う角度からの攻撃であっても、女神イースは対処する。


より正確に言えば、『ミアの戦術にハマり対処を強いられたんだ』。


大声で叫んだのと飛び上がってみせたのも、すべては誘導になる。


女神イースも『騙された』、ミアのいたいけな気配に潜在する知性の牙を見落とした……。




――――すべては、ソルジェとの連携を成すためだよ。


会話もアイコンタクトも、ストラウス兄妹には必要がない。


あえて言えば、ガンダラも参加していた。


突撃する気配を見せて、フェイントをかけていたからね……。




―――もっと言えば、ルチアも反応している。


ソルジェを視界に入れながら、戦い続けていた彼女は気づけたんだ。


背中から感じ取った、『援護』を求めているような気がした。


ルチアも成長している、若さは常に力を証明したがるものだ……。




「もっと、強く!!」




―――これは、とても高度な連携戦術だ。


猟兵三人と、それに追いつこうとするルチアのね。


女神イースが小石の弾丸を、六枚翼のひとつを使って弾いたとき。


猛者たちの殺気に射抜かれて、竜太刀の動きに後れを取らされた……。




―――魔眼が金色のかがやきを帯びながら、ソルジェに斬るべき場所を見せる。


メダルドの体が融ける場所を避けるようにして、斬撃の群れを浴びせていたよ。


三つの斬撃が、女神イースの胴体を深く切り裂く。


どれもがヒトならば致命傷であるものの、ソルジェは油断も過度な期待もしない……。




―――竜太刀に裂かれながらも、女神イースは構えていたからだよ。


カウンターを浴びせて、ソルジェを仕留めようと企んでいたのさ。


読み切っていた、それらはやはり『カール・メアー』の武術らしさがあったからね。


尼僧の武術らしく、自己犠牲的な反撃の相をもっていたんだ……。




『見抜く、か……』


「ああ。お前は、どこまでも尼僧らしいからな!!『カール・メアー』の女神イースよ!!」




―――すぐさま戦いは再開する、女神イースは傷ついたまま動いた。


ミアは戦場を駆け抜けて、戦士たちを追い抜きにかかる。


狙ったのは『繭』の確保だよ、ビビアナからの指示でもあった。


ビビアナも追いかけながら、周りにいる戦士たちの何人かに命じた……。




「そこの二人、私について来て!女神イースを、妨害するわ!!」


「りょ、了解です!!」


「お任せください、ビビアナ殿!!ぐ、具体的には、何を狙うのでしょうか!?」


「……『繭』を確保する!!あいつが生まれた『儀式の現場』を奪えば……あいつの

妨害にもなる!!」




―――敵の心を覗いたことは、大きな戦術的アドバンテージになった。


ビビアナは理解している、『繭』はただの抜け殻ではない。


大きな呪術の現場であり、それは『蟲』の力とヒトの呪術の複合装置だ。


『周囲から魔力を集めるための臓器』、賢いビビアナはそれを分かっていた……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る