第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その262


―――呪術の作り上げた感覚の交流は、こうして終わりを告げていた。


『曙』はゆっくりとした走りだったけれど、いきなり馬上に戻ったビビアナは驚く。


彼女の細い体はあらゆる感覚に対して、過敏になっていたのさ。


他者の感覚に割り込むという行いの副次的な代償、そんなところだろう……。



「わ、わわわ!?」


「大丈夫だよ、ビビ!」


「あ……ミアっ!」


「えへへ。ビビだね。リュドミナじゃない。本物のビビだ!!」




―――『曙』の背から落ちかけた親友を、ミアが背後から支えていた。


そして、今は全身を使ってギュッと抱きしめている。


ビビアナの大きく開いた背中にね、ミアは愛おしそうに頬ずりを捧げた。


伝えたいのさ、ビビアナの帰還に対しての大きな喜びを……。




「取り戻せたよ、ビビを!!」


「……うん。ありがとうね。ミアのおかげで、助かったわ」


「うん!私、ぐっじょぶ……っ。ビビも、がんばったね!」


「ええ。なかなかの挑戦だった。大冒険よ、商人の娘にしてはね」




「リュドミナは、どうなったの?」


「死んだわ。レイチェル・ミルラに、とどめを刺してもらった。最後の最後まで、リュドミナはリュドミナだったけど」


「生き様を、貫いたんだね。さすが、『カール・メアー』」


「あいつらを、認めているの?」




「私たちとは敵対するけど、あれも『正義』の一種だから」


「……ミアは、本当にスゴイ。でも……まあ、リュドミナは、そういうヤツだったみたいね。フリジアも、やさしい子だし……はあ、『正義』って、フクザツだわ」


「うん。だから、殺し合って決めるの。いつものことだね」


「……そっか。そうだね」




―――それが歴史の真実さ、勝者だけが『正義』の夢を叶えられる。


戦い殺して奪い取る、勝利の果てだけに『正義』は保証された。


いつものことさ、歴史の本のあらゆるページが証明し続けているように。


それは血生臭いが、どんなにがんばっても払拭できない人類の本能的選択だよ……。




「……だからこそ、こっちも戦って勝たなくちゃならない。叔父さまを、取り戻すためにも」


「おっちゃんの、情報を手に入れたんだね?」


「もちろん。そのために、色々な相手の視界に融け合ってきたんだから」


「どんな状況なの?もうすぐ、『オルテガ』に戻れるけど……」




「情報交換を、しておくべきね」


「うん。正直、私は何も分かっていない。リュドミナの企みに、私じゃ気づけないから、ビビに頼ったんだ」


「いい判断だわ。おかげで、どうにか……希望は残ったんだから」


「教えて、ビビ」




―――ビビアナはミアに伝えていく、自分がどんな作戦を成し遂げるべきなのか。


シンプルではあるから、ミアにも伝わりやすい。


『繭』の残骸を確保して、そこに回収したメダルド・ジーの臓腑を入れる。


単純ではあるが、さすがのミアも腕を抱え込んだ……。




「なる、ほど……お兄ちゃんに伝えるのが、第一っぽいね」


「ストラウス卿の協力は、不可欠ね。何とも不思議な行為だから。呪術師としての力を、借りたいし」


「……女神イースも、いるんだね。フリジア、喜びそう」


「そ、そうかしら?フクザツな心境になりそうだけど……今、フリジアはどこに?」




「後ろから追いかけて来てくれているはず!だよね、『曙』?」


『ヒヒイン!!ブルルルウ!!』


「肯定している、カンジだね!」


「うなずいているから、そうなんでしょうね。不思議な馬だわ」




「『ユニコーン』だよ。『水晶の角』のおかげで、ディアロスのパロムと連絡がつくの。パロムのとなりに、フリジアもいるんだ」


「なるほど。この子が、『ユニコーン』なら……もっと速く、走れるのね?」


「もちろん!!落ちないように、しっかり掴まって!そんなビビに、私は掴まるから!!」


「ええ。任せなさい。馬術だって、それなり以上にこなす!!『曙』、お願い!!」




―――乙女の祈りを聞き届け、『曙』は全速力を解禁する。


これまで、ゆっくりと走ってきたことでストレスがたまっていたのか。


かなりの速度で乾いた地面を蹴りつけ、疾風のスピードをまとってみせた。


ビビアナはニヤリと笑い、その高速を乗りこなしていく……。




―――エルフの身軽さは、たしかに『ハーフ・エルフ』の血に継承されていた。


ミアもその背に抱き着きながら、ニンマリと笑う。


ビビアナから感じ取れる、何とも前向きな決意が心地良いのさ。


女神に融けた叔父を、力づくで奪い返そうとしている少女の背中は偉大だよ……。




―――ミアはニンマリと笑いつつも、ミアは猟兵だからね。


アタマのなかでは戦術を練り上げていく、女神イースについて訊きながら。


六翼の翼であることに、ソルジェが参戦していること。


じつは兄の参戦は知っていたよ、『オルテガ』の上空にゼファーがいるからね……。




―――ゼファーの飛び方で、もう一つの事実にも気づいている。


『オルテガ』に対して、帝国軍の戦力が近づいているという事実だ。


北東を警戒した飛び方であり、ミアはゼファーが自分に見せつけていることにも気づく。


油断してはならないほどの敵戦力だと、示しているのさ……。




「さすがね、『曙』!!もう『オルテガ』に入れそうだわ!!」


「うん。戦士たちもこっちに気づいてくれている……」


「城塞の門を、開いてくれているわ!このまま、駆け込めそう!」


「……ちょっと、ストップ。戦士たちに、教えておかなくちゃ!」




―――『曙』はミアの命令に従って、土煙を高々と巻き上げながらブレーキをかける。


戦士たちも『オルテガ』内部での戦闘に、気づいていた。


もちろん彼らは不安げである、指揮官たちが迷っていたからだ。


街の内部に戦力を派遣するべきなのか、それとも……。




「みんな!!街のなかでの戦闘は、私たちがどうにか片づけるからね!!みんなは、このまま計画通りに、『オルテガ』に近づく帝国軍のことにだけ集中して!!大丈夫!!街に入り込んだ敵は、『パンジャール猟兵団』が仕留めてみせるから!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る