第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その254


―――残存する爆炎に突っ込みながら、ソルジェは女神の間合いに飛び込んだ。


竜太刀を振り回し、斬撃の五月雨を浴びせていく。


赤い六枚の翼どもが、それらを防ぐために機能した。


とても素早く、そして非の打ち所がないほどの正確な動きでね……。




―――それだけに、ソルジェは余裕が生まれている。


女神イースが使っていたのは、『カール・メアー』武術の哲学そのものだったから。


もちろん六枚の翼を相手にするのは初めてだけど、大した問題じゃない。


武術が内包してしまっている哲学、それが同じ質であることが重要だ……。




―――尼僧武術のそれは、あくまでも殺傷性が低くデザインされている。


『カール・メアー』の巫女戦士たちの目指したものは、戦場の英雄ではない。


敵に対して使うというよりも、究極的に彼女たちの武術は『自己鍛錬』なんだ。


それが悪いというわけではなく、ソルジェにとっては有利な事実だった……。




―――フリジア・ノーベルに、詠唱長リュドミナ・フェーレン。


彼女たちの武術を直近に見ているから、感覚のレベルで女神イースの動きも読解する。


じつに『カール・メアー』らしい、という発想をしながら。


竜太刀ひとつの攻めだけで、女神の敵意に赤くかがやく六枚の翼と打ち合っていく……。




「『こちらの、手を……読んでいるのか』」


「まあ、そんなところだよ。優秀なヤツは、ときどきアタマでっかちになる。本当に、素直な武術だ!!」




―――女神イースが持っている『権威』、神格というものに対しても容赦がない。


第二の幸運がソルジェにはあり、それは目の前にある女性の顔についてだよ。


ルクレツィアに似ているから、大して権威を感じていなかった。


ある意味で女神と世界一の錬金術師に対して、大きな侮辱ではあったけれどね……。




「『気安いぞ、ソルジェ・ストラウス』」


「ハハハ!!そうだろうな!!」




―――笑った、笑う。


嘲笑ではないが、余裕を見せつけてね。


こんな笑い声は、戦場によく似合うものだ。


『不謹慎な事実』ではあるけれど、戦場は心を高揚させる『楽しい場所』だから……。




―――極限の集中力と、死がもたらす恐怖。


それは大きな大きなストレスであると同時に、技巧と経験と知略を引き出してもくれた。


戦士たちの高揚と熱狂は、あまりにも『楽しいから生まれる』ものだよ。


おぞましいとしても、これもまた戦士の本質だ……。




―――女神イースは、その態度に嫌悪も抱いただろう。


彼女は戦士ではなくて、神さまだからだ。


しかも、『やさしくて慈悲深い』なんだからね。


亜人種を滅ぼすことで平和を生み出すという、受け入れがたいものだけど……。




―――ソルジェという戦士がもたらす、象徴的な死の気配。


『戦いを楽しむ者』を、彼女は許せないのさ。


世界を不幸にするような力だと、信じている。


死や破壊を伴うのが戦士だからね、やさしい神さまと仲が悪くてもしょうがない……。




「『お前は、殺しておこう!!私が、直接に!!』」


「やり合おうぜ、女神イース!!昔から、お前には文句があった!!」




―――イース教そのものと、ソルジェは仲が悪い。


イース教がユアンダートの手により、帝国の国教に選ばれたからさ。


厳律修道会のように、ボクたちと裏でつながっている宗派もありはするけれど。


『カール・メアー』の教義の化身とは、とくに受け入れがたい間柄だ……。




「オレの『家族』は、亜人種も多くてな!!」


「『……お前も、『狭間』の悲劇を生む根源!!』」


「『狭間』が悲劇だと?下らん!!」


「『悲劇だろうが、現実も見えないのか!!』」




「現実なら、変えられるだろう!!」


「『何を、ほざく!!』」


「今から、変えていけばいい!!」


「『千年、変わらなかったのだ!!』」




「だからどうした!!今までは、オレたちがいなかった!!このオレも!!『自由同盟』も、ここにいる『ルファード軍』も!!かつはいなかった!!だが、今は違う!!今は、オレたちがいる!!世界を変えられるオレたちが!!」




―――決めつけるほどの自信がある、千年の知見に対してもソルジェはひるまない。


非合理的な信念かもしれないし、狂気と言えばそうだろう。


間違いなく普通の精神では、ここまで信じ切れはしない。


ヒトは差別して、あらゆる種族はこの千年のあいだ殺し合ったのだから……。




―――学者も賢者も、黙り込むかもしれない。


精密な検証を持ち出せば、どうしたって不利になってしまうからね。


戦争がなかった年なんて、この大陸に一度だってないし。


その多くの戦争に人種が絡んでいるよ、ソルジェが参加したすべての戦場もね……。




―――そんな現実を、ありふれた事実を。


ソルジェはいともたやすく、否定してみせている。


マトモではないかもしれない、ありふれてはいないかもしれない。


それでも間違ってなどいないと、信じられる……。




―――『英雄』は、世界をぶっ壊す存在でもあった。


若い戦士たちの心に、求めていた言葉は届く。


誰かに示して欲しかったのさ、「我々なら世界だって変えられる」とね。


若い心は不自由だから、混沌とした『未来』に挑むときには誰かの強い言葉が要る……。




「『お前たちだけで、変えられるはずがない!!』」


「変えられる!!なぜならば、オレたちは、二度と、負けんからだ!!」


「『戦い、だけで―――』」


「力で、『未来』を奪い取る!!邪魔する敵を、全員ぶっ殺して!!それが、オレたちだ!!帝国も、女神も、倒してやる!!力尽くで、世界を変えてやるんだ!!」



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