第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その248


―――六翼が爆ぜるような勢いで、広がった。


金色の『繭』も大きく拡張され、その奥底から無数の羽根の弾丸が放たれる。


あらゆる包囲に向けての、半ば無差別的な射撃だった。


それでも女神イースの戦略的な思考が、そこにはたっぷりと反映されていたよ……。




―――ガンダラを始め亜人種に対しては、殺意に満ちた軌道であったけれど。


人間族に向けては、その足元を狙っていたんだ。


地面がえぐれてしまうほど威力ではあったけれど、ガンダラはもちろん弾いて防ぐ。


ルチアは回避してみせたよ、ギリギリだったけれどね……。




「かわせ、た!!軌道に、殺気が乗り過ぎている!!」


「な、なるほど。どうにか回避できたぞっ!!」


「何人か負傷しちまったから、下げろ!!」


「死ぬなよ!!オレたち人間族は、アレに狙われていない!!『盾』に使ってくれ!!」




―――負傷した亜人種の戦士たちが、運ばれていく。


それでも前に出ていた戦士たちの少なくない数が、この射撃を防いでいた。


腕に自信がある者たちが、多く前に出ていたからであるし。


射撃という攻撃手段を、すでに知っていたからでもあった……。




―――人間族の戦士たちも、献身的になる。


壁になるため、ますます前に出てくれたんだ。


何とも自然にね、その態度は亜人種たちを驚かせるほどだったよ。


戦闘は仲間意識を強める作用も確かにあるけれど、これほどとはね……。




「ヒトって、案外……単純なのかもしれないわ!!ガンダラさんの援護をするわよ!!一斉射撃だ!!」


「任せろ、ルチア!!」


「彼女に合わせるぞ!!人間族だとか、どうだとか!!そんなのはどうでもいい!!」


「オレたち全員で、あの女神を倒してやろうじゃないか!!」




―――腕利きの戦士たちが、一斉に矢を放った。


女神イースは六枚の翼で守りを作り、『繭』を貫いて襲い掛かる矢を防いでしまう。


頑丈極まる翼に、腕利きたちの矢は通じなかったけれど。


ガンダラに、強打を叩き込むための余裕を与えてくれたから十分だ……。




「はあああああああああああああああああああああッッッ!!!」




―――構えを深くして、力強さを帯びた踏み込みで作り上げた大振り。


隙だらけだから一対一の試合なんかでは、絶対に命中することもないだろう。


それでも、多対一もあり得る戦場だからこそ機能した。


金色の『繭』を切り裂いて、女神イースの本体があるべき場所に斬撃が達したよ……。




―――手応えがあった、肉を裂いて骨を割る重たい衝撃をガンダラは手に獲得する。


まともな生き物であれば、これは十分な致命傷になっただろうけれど。


ガンダラはあまり楽観視しない、『蟲』の見せた生命力の異常さは把握していたからね。


『繭』の向こう側に赤い色が混ざりはしたものの、女神は元気に反撃した……。




―――羽根の弾丸の一斉射を、ガンダラ目掛けて撃ち込んでくる。


ハルバートを振り回しながら、すべての弾丸を叩いて落とした。


代償はある、ハルバートがこれらの激しい衝撃に耐え切れていない。


刃が欠けてしまい、柄にわずかではあるが亀裂のひび割れが走るように刻まれた……。




「が、ガンダラさんの武器が!!誰か!!予備のハルバートを準備して!!」


「女神と打ち合えるような業物が、そうはないと思うが!?」


「何でもいい!!ハルバートが、壊されるかもしれない!!壊れてしまった武器より、マシなら何でもいいに決まっている!!」


「た、たしかに!!ガンダラさん!!用意します、下がって交代して…………」




―――叫びながら気がついた、はたして誰が猟兵ガンダラの代わりを務められる?


女神イースの力を大幅に削いでいるのは、彼女と接近戦をしているガンダラのおかげだ。


誰がガンダラと交代して、その役目を果たせられるというのだろうか。


ありえないね、世界最強クラスの猟兵の代役を成せる城塞のような強者は他にいない……。




―――だからこそ、ガンダラは引くことを選ばない。


壊されつつあるハルバートを振り回しながら、踏み込みわずかにでも打撃を加える。


ルチアは歯がゆさで、ギリギリと奥歯を鳴らすんだ。


自分がもう少し強ければ、代役をやれたはずなのにと……。




―――ルチア以上に、ギムリの感情はもっと強いものだった。


ガンダラを先輩と呼んで慕う男だ、それは憧れでもあり目標ゆえの親しみだ。


巨人族の戦士たちの中では、この場で最もガンダラに近い仕事がやれるかもしれない。


体格だけなら負けてはいない、技量はかなり差があったけれど……。




―――即答できなかったことを、ギムリは恥じていたんだ。


この場の誰よりも「オレが、時間を稼ぎます!!」と叫びたかったはずなのに。


目の前で繰り広げられる、あまりにも強烈なガンダラの戦い。


速さと早さと巨大さと強靭さ、技巧の鋭さと読み合いの見事さがある『それ』……。




―――比べてしまえば、あまりにもギムリは弱かったんだ。


悔しくてしょうがない、命が惜しかったというよりも。


弱さを天下に知らしめてしまう恐怖に、この若者の心は圧し負けていたのさ。


若さがもたらすいくつかある弱さのうちの一つであり、ギムリは自己嫌悪に陥る……。




―――それでもね、誰かにあこがれることも弱いことさえも成長の起爆剤だ。


自己嫌悪さえも、ときには役立つんだよ。


とてつもなく必死に、アタマを使わせることになるからね。


恥ずかしさのどん底で、ギムリは考えた……。




「オレじゃ、ムリだ。ガンダラさんの代役を、一秒だってやれやしない」




―――弱さを認められるのは、偉大な行いだと信じているよ。


ムリして前に出て、犬死にするのは戦略的に損だったからね。


ガンダラがハルバートを新しいものに持ち替えるタイミングさえ、作れないだろう。


下手すれば足を引っ張るだけに終わり、ガンダラまで巻き込んでしまうかも……。




―――それならば、すべき方法は一つだけ。


受け渡す方法なら、他にもあるよ。


ギムリは投げるのが上手い、縄投げもそうだけれど槍を投げるのもね。


若い戦士たちが用意した上等なハルバートたち、それの一つに腕を伸ばした……。




「ガンダラ先輩!!ハルバートをぶん投げます!!どうにか、使ってください!!」


「ギムリを、援護するわ!!ギムリを援護する!!露払いの矢だ!!」


「オレたちを『盾』にしながら、投げろ!!」


「おうよ!!いきますよ、ガンダラ先輩!!!」




―――ルチアたちの矢が放たれて、翼の動きに制限をかけた。


続けざまにギムリの巨体が、ハルバートを投げつける。


しかし、せっかくのハルバートも空中で羽根の弾丸に撃ち落とされていた。


ギムリは、笑ったよ……。




「そう来ると思って、二段構え!!」




―――すぐさま二本目のハルバートを、投げていたよ。


ああ、賢い。


戦場で叫ばれる言葉は、相手を騙すために使われるものだ。


二段構えは嘘だった、三段構えだよ……。




―――二つのハルバートは、ガンダラの手元に届かなったけれど。


三本目はちゃんと、届いていた。


ガンダラのすぐとなり、地面に突き刺さったハルバートが揺れている。


ガンダラの判断力は鋭さを保っていて、回転しながらの斬撃を放った……。




―――折れかけていたハルバートに、筋力と遠心力を込めた最大出力の強打だよ。


翼の守りごと、女神イースも『繭』も揺さぶるほどの威力だ。


馬車にでも放っていれば、浮かばせてしまっただろうね。


愛用のハルバートはこの威力に耐えられず、反動の強さで爆ぜるように割れた……。




―――大丈夫、ガンダラは回転しながらの斬撃を放っていたんだからね。


折れたハルバートを捨てながら、左手で新しいハルバートを掴んだ。


そのまま素早く、攻めに転じる。


達人以上、世界最強の戦士の一人だからこその隙のなさだった……。




「さすがは、ガンダラ先輩……ッ。いつか、いつか!追いつく!!追いついてみせる!!」




―――若い願いは、純粋だった。


周りにいる戦士たちを、勇気づける叫びとなっていたよ。


羽根の弾丸の恐怖から、戦士たちを自由にさせている。


選ぶのさ、危険な死地にさえ勇敢さで踏み込むための覚悟をね……。




―――ルチアは、それを肌で感じ取る。


無謀なまでの勇敢さと、この状況で選ぶべき最適解の道を。


戦いを長引かせるのは不利であり、敗北につながりかねない。


戦士たちの若さが同意して叫び、求めているのを若い彼女は誰よりも理解する……。




「ガンダラさん!!チャンスを、作ってください!!全員で、突撃したい!!私たちなら、それがやれます!!私たちを、使ってください!!」




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