第3話 お縄ちょうだいのムートとヒナ

 ロープでぐるぐる巻きにされたままのムートとヒナは、詰所で夜を迎えていた。

「ん? あー、まだ夜か……もう一眠り……」

 なんてムートが寝ようとしていた矢先だった。

 外が騒がしくなったのだ。

「なんだ? 祭りか?」

 しかし漂っているのは戦場の空気感だった。悲鳴や泣き声なんかが聞こえてくるのだった。

「ワイルドバンチとか言ったか。攻めてきたのかな?」

 このままここにいると、面倒臭いことになりそうだ。そう判断したムートは、脱出することにした。

「おい、ヒナ、起きろよ」

 ロープを力任せに引きちぎったムートは、ヒナを捕らえているロープを解き、優しく起こしたのだった。

「おはよう……って、まだ夜ね」

「そうだ」

「あらムート。ここはどこ? わたしは誰?」

「ここは兵士の詰所で、お前はヒナだ」

「そうだったわね」

「脱出するぞ」

「そうね。外も騒がしいし。止まっているわけにはいかないものね」

 ムートは「ああ」と返事をする。珍しく意見があったところで、ムートは剣を引き抜く。そして鉄格子を軽く斬り捨てたのだった。

「よし、いくぞ。暗視魔法使えるか? よし、いいぞ。じゃあ出ていくぞ」

 ワイルドバンチが来ていたおかげか、兵士たちは総出で戦っている様子だった。

 ムートとヒナは兵士の詰所を抜け出した。

 そして二人の目の前に広がっていたのは、町が火の海に沈もうとしているところだった。

「ヒャッハー、燃やせ燃やせ!」

「汚物は消毒だー!」

 調子に乗ったワイルドバンチのメンバーどもが、町に火をつけたらしい。

「ムート」

「ああ、逃げるぞ」

 それはヒナの選択肢には無かったようだ。

「助けなきゃ。アムルの町の人を」

「バカ! お前! 何言って……」

 そう言うムートを振り切って、ヒナは駆け出した。

「勝手にしろ!」

 そしてムートはヒナと別れ行動する。いや、しようとした。

 歩き始めたムートの頭に顔が浮かんだのだ。

「アマレ、オレは……」

 ムートはヒナの方へと駆けていった。


「おい、何匹潰した?」

「コイツで、十匹目だ!」

 場上にいたワイルドバンチのメンバーは、倒れた兵士にボウガンを向ける。

「待って!」

 ワイルドバンチのメンバーは、「ん?」と、ヒナに顔を向ける。

「狙いはわたしでしょ?」

 ボウガンを向けていたワイルドバンチのメンバーはヒナに気づくと、兵士に向けボウガンの矢を放った上で笛を吹いた。

「いたぞー!」

 そんな大きな声とともに、ゾロゾロと他のメンバー達が集まってきた。

「ようお嬢さん」

 その若い馬車の上で立っている男はワイルドバンチの頭だった。一見すると、頭とはとても思えない優男だった。

「また会ったな」

「狙いはわたしなのよね?」

 頭は顎でメンバーに「捕まえろ」と、指示を出す。

「さあお嬢さん。こちらへ」

「離して。わたし一人で行けるわ!」

 ヒナは恭しくお辞儀する頭を睨みつけながら、歩き出そうとした。

「え?」

 ヒナを捕まえていたメンバーの胸から、剣が生えてくる。

 そしてそのメンバーは頭上まで剣で切り裂かれた。

 宙返りして登場したのはヤツだった。

「プルス族の剣士ムート、参上……ってな」

「頭! 気をつけてください。ソイツ、ナリはガキですが、斧を素手で潰す力を持っています」

 頭は「へえ」と感心する。

「すごいじゃないか」

 ムートは剣に付着した血を払う。その背後にヒナがピッタリとつく。

「もう大丈夫だ」

「ムート……」

「だが、お前に勝機はない。何故なら」

 馬車のホロが外される。

「鎧に乗った俺は無敵だからだ」

 頭は背後のそれに乗る。そして起動させた。

「頭が鎧を出すぞ!」

「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」

 荷馬車を破壊して出てきたのは、エクスアーマーと呼ばれる魔力で動かす鎧だった。

 二階建ての建物ほどの大きさの、薄汚れたモスグリーンの人型機体がムートに襲いかかる!

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