バーサクスプーン〜みなしご幼女と二人旅〜

ぴいたん

1章 夜明けの剣士

第1話 二人の出会い

 少女は一人荒野を歩いていた。

 荒れた土地、そこでは生命の息吹はおよそ感じられなかった。しかし少女は町を目指しひたすら歩いていた。

 このままでは飢えや渇きで死んでしまう。しかし少女は諦めなかった。

「いくのよヒナ、倒れるとしても前のめりよ」

 目の前で両親を野盗に殺されてから数日、それでもヒナは歩いていた。生きるために。

 しかしそんなヒナを見つめる影があった。

 下卑た笑いを浮かべながらそいつらは口を開く。

「見つけたぜ」

 十歳程度の少女を見つけたのは、またしても野盗だった。三人の野盗は、ヒナに向かって馬を走らせる。

「ヒャッハー!」

 三人の野盗は逃げるヒナの前に立ちはだかり、ダガーナイフ、棍棒、斧といったエモノを抜く。

「おい、チビ。探したぜェ……」

「じゃあ、ヤっちまうか」

 ヒナは腰に隠してあった最後の武器、ナイフを手にかまえる。それを見た三人組は大笑いする。

「そんなんで俺たちを殺そうってのか?」

「お笑いだゼ」

「おらよ」

 一歩前に出たダガーナイフの野盗は、ヒナの手を蹴り上げてナイフをどこかへ飛ばした。

「コレは渡さない」

「ヒャハハハ。いいよ渡さなくても。せっかくの美幼女だ、いただいて殺してからにするぜ」

 生理的嫌悪を感じたヒナはその場から走って逃げようとする。

 しかしヒナが走り出す前に、野盗はヒナの腕を掴んだ。

「ホラ、大人しくしろよ、今イイコトしてやるからよ」

 三人がかりで暴れるヒナを拐かそうとしていた。

 そこに通りがかったソイツは、レザーアーマーに剣という旅人姿。しかしその体は屈強と言うには程遠く、年齢もヒナと同程度にしか見えなかった。

「おい、アンタら」

 ソイツは野盗に声をかけた。

「あ? なんだテメエは」

「あー、なんだ? 四人でお楽しみなんだ。邪魔して悪かったよ」

 ソイツは立ち去ろうとする。

「おい待てよガキィ」

 野盗はソイツの前に立ちはだかる。

「しゃしゃり出てきた褒美だ。水と食料、あと金目の物全部置いていきな」

「もちろんその剣もな」

 ゲスな笑いを上げながらソイツを恐喝している。しかしソイツは微動だにしなかった。

「あー、オレ文無しなんです。それと、この剣はちょっと……」

「なんだテメエ、言うことが聞けねえってのか?」

「こっちは三人なんだぞ!」

 と、ヒナを抑えている斧の野盗以外がソイツに向かって来る。

「あー! 暴力反対」

 両手を上げたソイツを見て野盗は更につけあがる。

「殴られたくなかったら水と食料、金目の物を置いていけ」

「優しく言うのも最後だぞ」

「じゃあ」

 と、ソイツは剣をおろす。

「そうだ、そうやって言うことを聞けばいいんだ。さあ、ほらこっちへ渡せ」

 そしてソイツは、野盗が間合いに入ったのを確認すると、一息で剣を抜き棍棒を持った野盗の頭に剣を閃光のような勢いで叩きつけた。

「これでいいのか?」

「そ、そうじゃないるれ」

 そう言い残し棍棒の野盗は絶命した。

「なんだ違うのか」

 野盗には何が起こったかわからない。その事態に反応が追いつかない。

「テメエ! このヤロウ!」

「あ、そうだ、聞きたいことがあるのですが」

 ソイツはダガーナイフと斧をひらひら羽毛のようにかわしながら続ける。

「黒い鎧の魔剣士を知らないか? オーラをまとった魔剣を持っているんだが」

 なんて言いつつ、ソイツはダガーナイフと斧を剣の一撃で吹っ飛ばす。

「おいおい、じょ、冗談だって」

「質問の内容に答えろよ」

「ハハハ」

 そして野盗は馬に駆け乗り、負け犬の遠吠えにふさわしいことを吐きながら、その場からスタコラサッサと逃げ出した。

「あ、ありがとう」

 ヒナは乱れた小汚いグレーのローブを直し、ソイツの前に立つ。

「くそ、アイツら言わずに逃げやがった。知ってたかな? 魔剣士のこと」

「あの、わたしははヒナ。アナタは?」

「ん? ああ、襲われてた女のコか。よかったな無事で。オレはムートだ」

「もう一度言うわ。ありがとうムート」

 たんぽぽのような素朴な笑顔で感謝を表したが、ムートには届いたのだろうか?

「それよかさ、キミも黒い鎧の魔剣士知らない?」

 届いてなかったらしい。

「オーラをまとった魔剣を持っているのね?」

「よく知っているね」

「さっき言ってたのを聞いてたのよ」

 ムートは「なるほど」と、納得する。

「で? 知ってるの? 知らないの?」

 ヒナは思い出そうとしている。

「知らないなら知らないでいいんだぞ?」

「あなたにとって有益かはわからないけど、さっきの野盗の親分は相当な強さを持っているわ」

 ムートは「そうかい」と言って剣に付着した血を拭い去ったあと、その場を立ち去ろうとした。

 ヒナはその後ろをついていく。

「なんだよ」

 ムートの言葉にヒナは「わたしもこっちなの」と、ついてくる様子だった。

「そうかいじゃあ、次の町まで一緒に行こうか?」

「ごめんなさい。迷惑かけっぱなしね」

「そういうの慣れてないんだよなあ」

 ムートとヒナは荒野を歩き出した。

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