第49話 壺女




と言う訳で俺は奴隷市場の周りに来ている。


市場と言っても何時もやっている訳でなく突発的に行う『市』に近いらしい。


今日で奴隷市は終わり。そういう情報もセカンドは教えてくれ、更に此処迄一緒に来てくれた。


「凄いだろう…まぁ此処は奴隷として価値が無い者ばかりだ…惨い状態の者も多いから俺は見ないようにしている…それじゃ頑張れよ…俺は市場のオークションに行くからな」


「ありがとう」


お礼を言うとセカンドは奴隷市場に消えていった。


確かに、この光景は凄いな。


奴隷市場の周りに檻が置いてあり人が入っている。


しかも、どう見ても真面な扱いをしていない状態だ。


「いらっしゃい...質は保証しないが安いよ…」


どう見てもやる気の無い奴隷商人ばかりだ。


意を決して聞いてみる事にした。


「化け乳女は居ないですかね?」


「化け乳…流石にこの辺りでも、あそこ迄質の悪いのは、扱わないな…無料でも引き取らないし…あんな醜女はもう存在しないんじゃないか?」


話を聞くと『扱った事も無いし、見たことも無い』そんな奴隷商人ばかりだった。


「化け乳…モドキなら…そこに居るけど」


そう言うから覗いてみたら…只のデブに近かった。


しかも、恐らくは胸も小さい、お腹が大きいからそう見えるだけ。


前世で言う、相撲取りみたいな感じだった。


「いや、俺が欲しいのは『本物の化け乳』だよ」


「本物なんて見たら吐き気がするだろう? もうこの世に居ないんじゃないかな? 間引き政策が始まってから…その…な」


セカンドの言う通りで、昔は居たが今は本物の化け乳は『間引かれる』から居ない。


口を揃えて奴隷商は言っていた。


もしかしたら、もう居ないのかも知れない。


暫く見て回って居なかったら諦めるか?


流石に四肢が欠けている者や火傷の酷い者を見て回るのも…鬱になってくる。


「そこのお兄さん『壺女』にチャレンジしてみない? 金貨1枚(約10万円)で高級奴隷が手に入るチャンスだよ! 1回どう?」


可愛らしい女性が客引きしている。


まぁ胸は小さいが…


しかし、壺女ってなんだ?


面白いから客引きの女の子についていった。


「お客さん連れて来たよ!」


そう言うと女の子は奴隷商人から銅貨を貰い走っていった。


前世でいう客引きの仕事をしているのかも知れないな。


「いらっしゃい…当たりは貴族令嬢が入っている…やってみるかい?」


壺に入って顔だけだした女性が20人位居た。


「壺女ってなんですか?」


「そこからかい? 簡単に言うとそこに居る壺に入った女奴隷を買う事だな…顔だけは見られるが、体は見られない。奴隷の購入とギャンブル両方が楽しめる遊びだ! 当たりだと貴族令嬢みたいな金貨10枚以上の価値のある奴隷も入っているぜ…だが外れは…まぁ金貨1枚だ、それなりだ…」


「話かけるのは駄目ですか?」


「当然駄目だ!」


これは前世で言う所のくじ引きかガチャに近いのかも知れないな。


「あの聞いて良いですか?」


「ああっ構わない、例えハズレを引いてもしっかり奴隷契約をして貰うから納得してからで良い」


「一番のハズレはどんな奴隷ですかまさか四肢の何処かが欠損とか…」


「ああっ、それも居るが、一番のハズレは『化け乳』だ、四肢のどれかが無い奴隷は二人…大ハズレは3人。20人中3人しか大ハズレは居ないんだ良心的だろう? しかもアタリは元貴族の令嬢だぜ!」


化け乳だと?


化け乳がいるのか?


それで顔が良ければ最高じゃないか?


◆◆◆


ふふふっ、この壺女にアタリは居ないのさ。


何故なら、アタリと言っている元貴族の令嬢こそが『化け乳』なんだぜ。


本当に元子爵の令嬢だから嘘じゃない。


子爵家に生まれ『処分したいと思っていた』が母親がそれを拒んだ。


何度も取り上げ処分しようとしたが、気が狂う様に暴れる母親に手を焼き、体面を恐れた子爵が母親共々監禁。


母親が病死した為に保護する者が居なくなったから…無理やりうちに引き取らせた…いわくつきの奴隷だ。


流石に自分の妻が死ぬまで大切にした娘。醜いとは言え自分の娘が、殺せなかったんだろうな…それが俺の考えだ。


つまり、アタリと言っている壺女が化け乳で一番のハズレでもあるんだ。


他の奴隷も全て真面に買えば銀貨5枚の価値のないクズばかり…


俺に負けは無い。


それがこの商売だ。


◆◆◆


「化け乳が居るのか?」


「まぁな…はははお客さんも化け乳は怖いか…なら良いぜ! 特別に化け乳の壺女は教えてやる! それでどうだ?これで大ハズレは1つ無くなるどうだ?」


これで俺は『化け乳』をピンポイントに選べる。


あとは、その子が綺麗かどうかだ?


壺20個の中には老婆も居る。


幾ら巨乳でも老婆じゃ意味が無い。


「先に『化け乳の壺』を教えて貰えないか? 気に入った子が居るんだ…只じゃ悪いから買わない場合は銀貨3枚払うから駄目かな」


「お客さんは本当に商売上手だな、危険を回避するのは商売のコツだ…まぁ良い…化け乳の壺女はこれだ! もう買う気は失せただろう…まぁこの勝負は痛み分けだな、ほら銀貨3枚だ」


金髪と銀髪を混ぜた様な綺麗なウエーブの掛かった髪。


見方によってはグリーンにもブルーにも見える湖の様な目。


端正な顔立ちに綺麗な白い肌。


貴族の令嬢…そう見えても可笑しくない。


だがこれで巨乳なら、前世で言うプレイガールの表紙を飾るようなセクシーな美女だ。


俺には最高のアタリじゃないか…


「金貨1枚で良いんだな! 良し…俺はこの壺…この壺女を選ぶ!」


「お客さん聞いてなかったのか? それが『化け乳』ハズレだ」


「確かに聞いたよ…だが凄い美女だ」


「確かに…美女だが体は『化け乳』だぞ! デブみたいな偽物じゃない…本物の化け乳女なんだ…」


「ああっ、それで良いんだ」


「そうか…あんた勇者だな…もう返品はきかないからな! 奴隷紋が銀貨3枚、本来は壺割代が銀貨3枚掛かるがこれはサービスだ…一番のハズレを自ら引いたんだからこれ位はするぜ。あと奴隷服もサービスだ」


壺割代って何だろう?


「壺割代って何でしょうか?」


「ああっ、壺に入れたら出られないから、中はそれはもう酷い事になっている、想像つくだろう? 臭いし異臭を放つから、こちらで壺を割って奴隷を水洗いするサービスだ…まぁ完全とは言わないがかなり臭みはとれる」


「そうか、それじゃお願いする…」


「お買い上げありがとうございます!」


俺は金貨1枚と銀貨3枚を払い、奴隷を買う事になった。









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