第7話 デート後のホテル
ふかふかしている大きなベッドの上で思考を巡らせているが、奥の方からシャワーを浴びている音が聞こえて、何がどうなっているのか未だこの状況をよく理解できない。
デートして、その後寄っていい? と言われて連れてこられたのは防音設備が整っているホテル。
この段階で桜がナニをしようとしているなかはわかるが、その行為自体俺は催眠術中にしかしたことがないので緊張している。
「すぅーはぁ〜……」
無理やり深呼吸をして、落ち着きが戻ってきた。
これからすることは記憶こそないがもう一度したことがあるんだ。それに愛を育む神聖な行為なのだから、なにも緊張することなんてない。
「私上がったからシャワー使っていいよぉ〜」
落ち着きが戻りつつある俺の前に、バスローブ姿の桜がやって来た。まだ完全に体を拭ききれておらず、首元に水滴が残っている。
もちろん俺の心が台風が来ているときの海のように荒れる。
だが、桜に変なふうに見られないよう平然を装う。
「じゃあシャワー浴びてくるね」
「うん」
目をつぶり、シャワーを浴び、冷静さを取り戻した。
これ以上は何があっても一人の男としてどっしり構える。
そう決意し、俺はバスローブ姿でテレビを見ている桜が座っているベッドの横に腰を下ろした。
「來也、今日遊園地のお化け屋敷ですごいビビってなかった?」
「それはだって……桜がホールドしてたはずの場所に白いおばけがいたんだぞ? あの状況でビックリしない方がおかしいよ」
「え、それはさすがに私でもビックリするかも」
「桜のはもう本気の悲鳴だったよ」
「……もぅ。だってあんなにお化け屋敷が怖いと思わないじゃん。ばかばかっ」
桜はぽかぽかと優しく俺を叩いてきた。体を近づけてきて、普段しないような甘ったるい香水の匂いがした。
さっきまで緊張でどうにかなってしまうんじゃないかと思っていたが、他愛のないいつも通りの雑談でだいぶ気持ちがほぐれてきた。
らしくもなく、もしかして俺に気を利かせてくれたんじゃ――
「ふぅ。これから人生2回目のあれをスるとなると緊張ちゃう……」
どうやらそんなつもりはなかったらしい。
「來也は今どんな気持ち?」
顔を下から覗き込むように見て聞いてきた。バスローブが少したるんで、その中に隠されているもちもちとしてそうな真っ白な肌が視界に入ってきた。
バスローブの中の肌に吸い込まれそうになった。
「……そりゃあ、俺だって桜と同じでもちろん緊張するよ」
「ふ〜ん。そっか。私だけ緊張してるわけじゃないのならいいんだけど……」
「むふふ」と俺のことをからかうような目で見てきた。
静かになって、何とも言えない空気が流れる。
この空気は、積極的に質問してきた桜がつくったものだ。このまま桜に主導権を握られているもの難なので、少し攻めてみる。
「桜ってさ。ちょっと前から俺に対して『好き』っていう気持ちをあらわにしてくれたけどさ、それっていつから好きだったの?」
この質問は俺はもう知っている、催眠術中聞いた恥ずかしいことだ。
「え、えっと。んっと……恥ずかしいんですけど」
桜は真っ赤になった顔を両手で隠し、ベッドに仰向けで寝転がった。パタパタた足を動かしているのを見て、俺も同じように寝転がる。
横を見ると目があった。「えへへ」と蕩けるような顔で照れ、俺の右腕を腕枕にしてくっついてきた。
息をしているのが耳元で聞こえる。
「私ね。初めて出会った時からずっと好きだったんたよ」
「……
うん」
「覚えてる? 中学2年生の時、隣の席になったときだよ?」
「覚えてる覚えてる。だって、桜ってば初対面だったのにいきなり俺の家来たじゃん」
「あ、あれは好きで好きでたまらなかっただけだから……」
次第に声が小さくなってき、桜はくるりと体を転がし俺の体の上にまたがって来た。無言で甘えた瞳で見下ろしてくる。
唇がまるで何かを待っているようで――
「んっ」
俺たちは熱いキスを交わした。
これが俺の中での2回目。
俺の意識がある中での初体験だった。
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