第53話 アンデッドの国、潜入
「この辺でゾンビになるか」
ゾンビになるって言葉に出して言うと凄く変だな。
自ら死ぬのかよって感じで。
ヒスイは指輪の力でゾンビのような見た目に変わる。
後は他のゾンビの視界に入らないように中に入り、成り切るだけだ。
夜の戦いで動きは覚えているし、侵入するのが一番難しいところだな。
「一応俺だって分かるように、左手をこうするね」
小指と薬指を曲げて、親指、人差し指、中指を立てる。
この形をキープして俺だと分かるようにしておく。
そして城壁をヒスイの魔法で跳び、中に侵入した。
気配的にゾンビは存在しない事は判明している。
着地の音を出さないのがポイントだ。
まずは宿を目指す事にする。
安全圏を確保したいからだ。
路地裏から少しだけ顔を出して周囲を見れば、やはりゾンビだらけだ。
生気の感じられない白色の肌をしたゾンビ。
まだゾンビになったばかりだからか、緑色に腐ったゾンビは居なかった。
中をゾンビっぽく念の為に進む。
ゾンビに変えた犯人がこいつらと感覚を共有していたらバレる可能性があるからね。
宿に向かったけど、手を使う訳にも行かないので体全体を使ってドアを押した。
開けた後はヒスイが風の魔法でキープして、中に入って来る。
受付の人もゾンビで、ただ鳴き声を出して立っていた。
俺達は金を出さずにゆっくりと階段を登り、一番上の奥の部屋に入った。
そして俺は元の人間の姿に戻り、ヒスイもエルフの姿に戻る。
「⋯⋯防音魔法貼りましたよ」
「ありがと。さて、これからどうするかだね」
この宿に来るまでの間は一切人の気配を感じなかった。
どこもかしこもゾンビだらけ。視界に映るのも感じる気配も。
俺達が帰ってから調査隊が調査して帰ってくる時間的に一日は流石に経過している。
だけど、それでも僅かな時間なのには変わりない。
だと言うのに、そんな時間で全ての民をゾンビに変えるなんて⋯⋯凄いってレベルでは無い。
アイシアさん達もゾンビになっている可能性はあるな。
その場合は⋯⋯。
「どうしましたか?」
「いや。なんもないよ。⋯⋯それよりもどこから探るかだね」
「宮殿は確実ですけど⋯⋯あそこに居るとしたら当然防備は固めているでしょうね」
「だろうな。ゴリ押しで行くのも危険だし⋯⋯これ程の規模を短時間で行える奴だ。どれ程の強敵か分かったもんじゃない」
「ですね」
流石に分断して調べるのは怖いので、一緒に行動する。
そうなると当然効率は下がってしまう⋯⋯ヒスイには隠れて欲しいが、しかたあるまい。
あまり時間もかけたくないし。
「いるか、悪魔」
「はい。こちらに」
ヒスイの影から悪魔が出て来ると、部屋の壁際まで移動して驚く。
なぜ自分の影に悪魔がいるのかと。
「すまんヒスイ。君を守る為に悪魔を忍ばせていた」
「⋯⋯え? え? そ、それは構いませんけど。凄い魔力を感じるんですけど」
「まぁ、確かに」
憤怒の悪魔だしね。
と、言うかなんか違和感がある。
⋯⋯分かった。なんかこいつ凄い腰が低い。膝づいてやがる。
へりくだっているって言うか、敬って来る感じがする。
「なんか変じゃないか?」
「先日の件は誠に申し訳ございません。ワタクシは真の主である貴方様にあのような立ち振る舞いを。この罪を償えるまで、償えたとしても、この魂がある限り忠誠を誓います」
膝を床に付けて頭を下げる。
なんと言うか、我とか貴様とか言っていた悪魔の姿とは思えない。
しかも、黒髪の隙間から覗いている瞳には嘘偽りがない。
寧ろどこか敬愛しているような視線だ。とてもキラキラしている。
少しだけ気味悪さを感じた。
ごめん。正直言おう。キモイわ。
いきなり偉そうにしていた上司が、自分よりも立場が上の人が俺のバックに居る事が分かるとゴマをする感じの嫌悪感がある。
まぁ、良いや。
「この国の事を調べたい」
「畏まりました。主様」
キモイキモイ。
なんでだろう。
鳥肌が立ちそうだ。
「ゼラニウム、ゼラで良いよ。寧ろそれが良い」
「おお、固有名詞をお持ちでしたか。畏まりましたゼラ様。我が眷属共に調べて、ワタクシめはこの方を今後も護衛したいと存じます」
「あ、あぁ。うん。頼んだよ」
ヒスイも少しだけ冷静になったようだ。
ん? 頭の中に何かが入り込んで来た。
でもなんか嫌な感じじゃなくて、寧ろ嬉しい感じがする。
この流れなら⋯⋯この悪魔のスキルか?
チェックチェック。
お、なんか全部理解度マックスになっているんだけど?
これってこの悪魔が俺を完全に信頼した証か?
「にしても流石はゼラ様。既にネームドクラスになっていたとは。名ずけ親が気になりますね」
「な、なぁ。なんで急にそんなにへりくだってるんだ?」
「ワタクシは愚かだったのです。本来ワタクシの上に立つべきお方なのに、それに気づかず、魂の繋がりを持つハイエルフの影に入ってようやく気がつく。長年生きていたのにお恥ずかしい限りです」
「どゆこと?」
「その解説はまた今度に致しましょう。魔界から眷属を呼びました故、この国の事を調べてまいります。今はこの事に集中しましょう」
「そ、そうだな」
悪魔はヒスイの影に入って行った。
もしかして、誤魔化された?
気になる事を増やしやがって。
なんだよ固有名詞をお持ちとか、ネームドのランクってさ!
めっちゃ気になる事置いてさ、上に立つべきとかさ!
しかもハイエルフって何! ヒスイの事?
後で変身先のチェックだな。
分からない事を増やすだけ増やして逃げやがって。
でも、実際にその通りなんだよなぁ。
逆に情報を得ると考え込んでしまうし⋯⋯今はこの事に集中しないといけない。
無駄な情報は全てが終わってからだな。
悪魔の眷属? とやらが調べているなら俺達はここで潜伏しようかな?
ヒスイを守るなら一箇所に留まっておく方が効率が良い気がする。
それに俺なら姿を小動物に変えられるからゾンビに気を使う事無く調べる事が出来る。
《ザザ───ラ──》
頭に流れるノイズ。
だがすぐにそれは収まった。だけど、それと同時に嫌な感じが身体中に溢れて来る。
それは宮殿の方にあり、宮殿を見れば『殺せ』と言う意欲が湧く。
他者に言い渡された使命と感情に怒りが湧いて来る。
「ゼラさん?」
「ッ! 大丈夫」
怒りは収まった。
少しだけあの悪魔が笑っていた気がする。⋯⋯だけど、その笑みを想像したら鳥肌が立った。
ダメだ。
さっきのが頭から離れない。
なんでいきなりあんなに従順になったのかも分からないし。
よし、忘れよ。
悪魔はあの傲慢な感じの悪魔だった。うん。それしか知らない。
知らないって言ったら知らないんだ。
憤怒の悪魔なのに傲慢ってなんか変だけど。
「そういや。俺も眷属関連出来るな」
理解度がマックスだから扱い方が分かる。
だから言えるのだが⋯⋯今は使えないな。
使えるとしても【眷属召喚】で悪魔を召喚出来るくらいだ。
眷属かは怪しいけどね。
「取り敢えず、情報が集まるまでここで待つか」
「⋯⋯あの、少しだけ行ってみたいところがあるんですが」
「どこ?」
「この国の中心にある教会です。当然人間絶対主義です。崇める神も人間を溺愛した神です。⋯⋯気になるのは」
「生存者が居る可能性か?」
「はい。神聖な場所である教会にゾンビ達は居るのか。居ないのなら生存者はいるのではないか。悪魔達でも入れない可能性があるので」
本人は何も言わないが、多分そうな気がする。
俺がどっかの教会に侵入した時もそんな感じな事を言っていた気がする。
確かに、行ってみる価値はあるな。
「分かった。なら行こうか」
「はい」
一人で行く事はしない。
俺はヒスイを信じているから。
ヤバくなったら絶対に守るし、逃げる。
この悪魔が居るから問題ないも思われるがな。
そして俺達はアンデッドの国を調査する事にした。
◆
悪魔と契約して少しした頃、悪魔さんはゼラさんを主として認めた。
魂の繋がりが太くなった。
悪魔が持つ魔界エネルギーの『純粋魔力』がヒスイに入った。
わーい進化だぁ。(めっちゃ強い)悪魔に取り憑かれたエルフのヒスイ。
ハイエルフ
エルフの中に稀に生まれる、魔力量、魔力制御が本来のエルフよりも数十倍上。
しかも弱い筋力も補われている。
精霊から寵愛を受けやすくなる。
長い時を生きたエルフが悟りを開いて進化する。
ヒスイは超絶例外のイレギュラー。自覚は無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます