第5話 入国と近況情報

 高速で走る普通の狼っぽい魔物の“ウルフ”を追い駆ける。今は豹をベースに“ツインテールウルス”の尻尾を組み合わせた形を取っている。

 これにより【加速】スキルの魔力消費を少しでも抑える事が可能になる。

 ウルフはただ逃げているので、ひたすらに追い掛ける。


 そろそろ攻撃が届くと思ったら、今度は“キックラビット”に変身する。俺が向ける真紅眼がウルフの行動を遅くする。

【威嚇】である。

 高く跳んで、クルクル回転し、右手を短刀に変身させる。

 そして、【風斬り】を発動させて首を切断した。


 やはり、剣類で【風斬り】を発動すると、威力が上がる。

 だが、魔力消費は大きく成るので、使い所には注意だ。

 ウルフの肉は解体する事にする。まぁ、ヒスイが解体するのだが。

 肉は食べ、皮は他で利用するらしい。

 まずはこの魔物が蔓延る森から抜け出すのが目的だ。


「ここら辺の魔物は亜種じゃない場合はそこまで強くないんですよ」


「の、割には初めて会った時、すげービビってたよな」


「そ、それは急に出るのが悪いって言うか、なんて言うか」


「冗談だ」


 うさ耳を生やした俺とヒスイが会話をする。ヒスイは先程狩ったウルフの肉をむしゃむしゃ食べている。

 豪快だ。

 うさ耳を生やしている理由は周囲の音を聞き分ける為である。


 そして、魔物を倒したり、肉を食べたり、時には木の実を食べたりして、俺達は森を抜け出した。

 木々の隙間からしか見えなかった太陽がしっかりと見える。

 神々しい。


「太陽を直視してますけど大丈夫ですか!」


「あーうん。なんか眩しい程度にしか感じない」


「良くないですよ! ほら、目の前を向いて!」


 後は国に向かって進むんだった。

 と、言う訳で俺は現世のバイクに変身する。

 オンロードバイクのツアラーと言うのに変身した。

 後は事前に説明していた通りにヒスイが乗り、動かせば良い。

 動くは不明。


「動きました!」


 確かに動いた。魔力が徐々に抜けて行く感覚に苛まれる。

 長距離移動をこれで行うのは良くないと分かる。

 一時間走ったら終わりにしよう。だいたいそれで魔力の半分は消し飛ぶ。


「速い速い! 馬なんかよりも全然速い!」


 文明の利器ですからね。生物なんかに負けたら誰も使わんよ。

 そのまま直線的に行くと、すぐに城壁が見えた。

 歴史の写真を思い出す。

 弓兵がきちんと櫓や城壁の上から見ている。


「これ以上コレで進むのは良くないですね」


「そうだな」


「あ、瓜二つなので、これを羽織ってください」


 鞄からマントを取り出す。

 なんでも相手の認識を阻害してくれる力が込められているらしい。

 ヒスイが寝ている時とかにはこれを良く羽織っていた。


「あ、いや。小動物に変身するよ。緊急の時は【念話】で会話する」


 あれは扱いが難しく、違う体だと凄い勢いで魔力が削られる。しかも、【念話】スキルを持たない者相手だと、余計に魔力を使う。

 だから、成る可く使用は控えている。


「分かりました」


 リスに変身して、肩に乗る。ヒスイはそのまま門へと歩みを進めた。

 門番に止められ、身分の確認を問われる。


「里の風習で修練の旅に出て来たエルフです。入国料は銀貨一枚ですよね? どうぞ」


「⋯⋯今年は三人との噂、あんたが最後だ」


「あはは。得意分野が他の二人と異なって、ペースが遅いんですよ。他二人の所在はご存知ですか?」


「もう違う国に行ったよ。身分証はギルドでな」


「はい。私、一番遅いんですね」


 落ち込んだヒスイと共に門を進んで行く。

 文明はやはりと言うべきか、日本の方が進んでいると思った。

 主に木で造られた建物が目立つ。露店も普通にある。

 ガラスは無いようで、木の窓を利用していた。

 防具等を販売しているのだろう。そう見える店には鉄の檻の中に防具等が飾られていた。

 ヒスイを見ても思ったが、街中でも普通に武器を持っている。


「まずはギルドに向かいます。ギルドの中はさらに、商業ギルド、冒険者ギルドに分けられます。商業ギルドでは商売に関する事や物価の事から身分証や戸籍なども扱います。冒険者ギルドは魔物の死骸や遺跡から手に入れたアイテム、後は様々な仕事を受けれます。依頼と言う形で。ある程度の功績と貢献度を示す為にランクで分けられてます。そして、それをまとめるのがステータスカードです」


 説明に感謝する。

 ゲームのステータスなのかな?


「ステータスカードにはどう言う職業なのか、どこ出身か、自分の身分、種族、生年月日、名前、それら自分の身分を示す為のカードですね。これがあれば、入国料は取られません」


 成程成程。


 この国には獣人らしき生物も居る。

 て、普通にエルフ居るじゃん。


「あぁ、ああ言うエルフは修練の旅で店を持った人ですね。商売に手を出すエルフは賢い人です。ただ、ウチの里のエルフではないですね。シルフ様の加護を感じれません。或いは、里の外で生きると決めたエルフです」


 成程。

 にしても、頭が痛い。先程からズキズキと頭痛がする。

 この体に成ってから、痛みを基本的に感じた事は無い。

 なのに、強く感じる。


「ッ!」


「どうしましたか?」


 俺は首を横に振って、問題ないと示す。

 驚いた。森人族エルフ人間族ヒューマン獣人族ワービーストと分けられ、個体ごとにさらに分けられる。

 名前が分からないので、“???”で構築されているが。

 エルフの場合はスカイなどの里の名前、獣人では何種か示されている。

 人間にはそう言うのは無い。


 ただ、名前は分からなくても、どのような見た目なのか、どのような力なのか、一応分かる。

 魔物と人間、そして亜人との違いかもしれない。

 この情報量の影響で頭痛がしたようだ。


 エルフの場合、これは個人特定に繋がりそうだ。

 諸々の整理をしていくと、自然と痛みは収まっていく。


「見てください! ワタシの相棒である沼蜥蜴リザードマンのこの鋼鉄の鱗を! ただの鋼の刃では傷一つ着きませんぜ!」


 二足歩行のトカゲ⋯⋯にしては鱗がピカピカ光っている。

 ヒスイの目が輝く。


「あの使役者テイマー凄いです。リザードマンは中々人と心を通わせてくれません。なのに、腕を組んで笑い合える程に絆が深いとは。しかもしかも、あれ亜種ですよ! 亜種! 詳細な種族は分かりませんが、亜種と契約出来るなんて⋯⋯尊敬します! ドッペルさんはそれよりも希少レアかもですが!」


 本来、ドッペルゲンガーがどれか分からない。

 だから、テイム出来る機会は無いと言って良い。

 今更だが、俺もドッペルゲンガーの姿に一度も戻ってない。

 リザードマン、それも亜種か。

 中々に良い個体を観る事が出来た。これは、融合が楽しみだ。


「と、急いでギルドに行きましょう!」

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