第23話剣を学ぶ上




 3歳頃から日課にしている。子守女中ナースメイドのマリーネ・マグヴァレッジとのランニングと本格的な筋トレと軽い組手を終え、女中メイドに用意してもらった井戸水で濡らしたタオルで汗を拭っていると、30代後半と思われる男性が膝を折り目線を低くして話しかけて来た。


「お初にお目にかかりますユーサー様。公爵閣下の命により、本日より剣術指南を務めさせていただきます。ノーフォーク公爵騎士のデニス・ベルカンプと申します。恐れ多くも公爵閣下より大騎士の位階を賜っております。本日から剣の稽古を付けに参りました」


「今日からよろしく頼む。デニスは俺の先生……師匠になるんだ俺の事はユーサーとでも呼べばいい。他人の目がなければ呼び捨てでも良いぐらいだ」


 俺がイメージする武芸の師匠と言うのは、先生や師匠と呼ばないとキレてくる。脳みそが前時代で停止した頭の固いヤツと言うイメージだ。


「分かりました。基礎稽古から始めるか打ち合いから始めるかどちらが良いですか?」


 デニスは静かに返事をした。


「勉強でも何でもそうだ基礎を疎かにしては、どれだけその後に努力しようとも土台が不安定になってしまう。座学が必要ならば座学からでもいい。俺は兎に角一から学びたい」


 幸いな事に俺は、公爵の血を引いている。軍を率いる一軍の将や行政能力を求められる事があっても、前線で敵を斬る兵の役割は求められていないのだ。焦る必要はない。ゆっくりであっても、着実に強くなっていけばいい。


「ユーサー様の従兄弟殿は、基礎は好まれないので意外です。では騎士の階級を軽く説明します。騎士とは本来。高価な馬と剣や槍それに鎧などの装備を自前で、揃えられた富裕層の騎兵を指す言葉でした。

 現在では、騎乗し戦う指揮官や決戦兵種を指す。複雑な者になっています。現在では【小姓ペイジ】、【従騎士エスクワイア】、【騎士ナイト】、【大騎士アークナイト】、【聖騎士パラディン】の五段階が存在し、純粋な剣術の評価ではないので格流派でも位階があります。

小姓ペイジ】は別名騎士見習いとも呼ばれ、7歳~15歳程度少年少女が、指導役の騎士に着いて修行している状態です。主な仕事は雑用が多く、真面まともに面倒を見てもらえる事は極めて稀ですが、貴族の家臣になるために農民の次男以下の子供が名乗り出る事が多いです。従って今現在のユーサー様の階級は、小姓ペイジという事になります」 


 この世界でも騎士階級は騎兵から生まれた事が分かった。

 騎士はあくまでも兵種でしかないので、剣術や槍術だけの上手さで決まるわけでもないと言うのは、当たり前だが為になる話だ。デニスが俺に教える事の出来る最下級の【大騎士】だったとしても、剣だけを比較すればもっと上手い奴がいるという事だ。もし剣が物足りなくなったら新しい先生を見つけて貰おう。どうせ父の冒険者時代の伝手を使えば、良い先生は見つかるだろう……


「昇級するにはどうすればいいんだ?」


「魔法は目に見えて出来る事が変りますが、例えば剣は上級剣士にもなれば岩をも斬る事が出来ますが、騎士は剣以外にも弓や槍、乗馬技術、作戦立案能力が求められるため基本的には、自身の階級よりも上位の推薦者と試験官が必要になり、それを貴族家が追認する形式で階級が上昇します。なので昇級したばかりの騎士同士が戦ったとしても、同じレベルであるとは限りません」


 前世のテストのように、剣術50/100点。弓術50/100点。槍術50/100点。馬術50/100点。戦術50/100点。魔法50/100点。総合600点中300点取って昇級する奴もいれば、400点500点取って昇級する奴も居ると……しかも合格点に届けばいいので剣術や弓術、槍術はダメでも他で合格してくる。騎士とは名ばかりの魔法騎兵みたいな奴も居ると……

 

 しかも試験官の匙加減でその点数が変るとか……前世の悪習である。内申点や推薦入試見たいなもんだぞ? 騎士と言う将校の絶対数が増えなければ、軍を大きくしても命令が行き届かなくなる。より親が騎士や貴族の者が後を継ぎやすくなり、特権階級化し不正の温床となる悪循環に陥てしまう。


 今はまだ始めるつもりはないが、教育改革をしなければいけないのかもしれないな……

 統治し管理する為政者いせいしゃとしては、国民はバカで愚かである程いい。いわゆる愚民政策と言う奴だ。政治に不満を持ち反乱を起こされれば王政及び絶対王政は廃止され、民主主義や共和主義による政治運動が起り、公爵の孫として生まれた優位性は失われてしまう危険性が高い事を、フランス革命によって共和制に移行したフランス王国と、軍閥である薩摩・長州の同盟によって大政奉還に追い込まれた。日本の江戸幕府が証明している。


 現在の愚民政策を踏襲とうしゅうしつつ、軍関係者だけ頭を良くしたいが、そんな都合のいい事は不可能だ。


「どうされましたか?」


 デニスは心配そうな顔で俺に問いかける。


「デニスの言う通りだとすれば、本来必要な能力に届かなくても昇級出来るようになってしまう。コレは軍としては問題だと思ってな……」


 俺は今考えていることをデニス対して口にした。


「確かにそうですな……公爵になられてから改善されるか、そうですね……閣下に提言されるのはいかがでしょうか?」


「うーむ」



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