第8話メイド長に怒られた
「何事ですか!」
大きな声を出して一人の婦人が屋敷から飛び出して来る。
「げっ、メイド長……」
スヴェータは顔を青くしている。
この世界にはメイド長って実在するんだ!
「スヴェトラーナ様。私をメイド長と呼ぶのはお止め下さい。私の役職は
「は~い」
「返事は伸ばさない! どうしてただの中級使用人である私が、
スヴェの態度に
「それは……ごめんなさい?」
「いくら長命種だからと言って呑気すぎます。
それと、本日はユーサー様の「魔力の性質と簡単な魔法を使うだけ」とお聞きしていましたが……先ほどの爆発音は一体どういう事ですか?」
「実は……」
そう前置きして、スヴェータは事の経緯を説明した。
「
「理解して貰えましたか?」
「ですが、私どもの認識としてはてっきり初級魔法を使うモノとばかり思っていました。ユーサー様やスヴェトラーナ様にはご不便をおかけしますが、今後は郊外でお願いいたします。
先ほど驚いた
ベリンダと言うのは、俺の
そのため俺が世襲できるかどうかは、長男家の長子と言うリードがあっても微妙なんだとか……後ろ盾が古参家臣とは言え約100年も実績がないカルデコート子爵と、父の乳母をしてくれたソウルベリー子爵ぐらいのモノだと、アイリーン夫人が言っていた。
「え! リンダちゃん泣いちゃったの? それは後でリンダちゃんとアイリーン子爵夫人に謝りにいかないと! 本当にごめんなさい。次からは私もユーサーも気を付けるから」
――――と言って
スヴェータ。君の指導に従っただけだから、俺悪く無くない? 確かに少し想像すれば、分かる範囲だったかもしれないけど……
俺は心の中で不満の言葉を紡ぐ。
「はぁ……分かりました。スヴェトラーナ様今回は不慮の事故です。旦那様と奥様、それに乳母のカルデコート子爵アイリーン夫人と、そのご息女であるベリンダ様には謝罪してください。使用人には私から伝えておきます」
「ありがとうございます」
「では。ユーサー様、スヴェトラーナ様失礼します」
「いやぁ怒られちゃったなぁ」
失敗。失敗。見たいな雰囲気を出しているけど、そんな軽い話じゃないから……
「スヴェータ? 先ほど自分で言った言葉を覚えていますか?」
「え? 私何か言ったっけ?」
「「先ずはやってみなさい。もし制御に失敗したとしても私が何とかするから」と自分で言ったのにも関わらず。さも僕も悪いような雰囲気を出していましたけど、全部スヴェータの責任ですよね?」
「うぐっ!」
どうやら自分でも自覚があるようで、反論出来ないのか声を上げるしかできないようだ。
「ほら、何も言い返せない」
俺は勝利を確信してニマニマと笑う。
「ぐぬぬぬぬっ……そうだ。私の想像よりも魔法の効果が大きくなってしまったケド、魔法の制御には成功しているし、幸い人にもモノにも被害は出ていないじゃない。私は約束は守ってるわよ?」
「ぐぬぬぬぬ……」
俺が何も言い返せないのを見て、さっきのお返しとばかりにチェシャ猫のように笑っている。
まぁチェシャ猫のように笑うって、歯を見せて訳もなくニヤニヤ笑うって意味だから誤用だけど……何というかブリティッシュショートヘア見たいな含み笑いをした猫みたいな印象を受ける。
「大人気ないよ。スヴェータ!」
「私はオトナとして、世の中の厳しさを教えてあげてるの!」
「「ぐぬぬぬぬ――――!!」」
こうして俺の初めての魔法の授業は、波乱を伴いつつも無事終了した。
・【解説】 「チェシャ猫のように笑う」とは、イギリスの慣用句で意味もなくニヤニヤ笑うこと等を意味している。チェシャとはイギリスの地名であり、鏡の国のアリスや不思議の国のアリスで日本でも有名になった。その原本である地下の国のアリスには存在しないエピソード。本作では誤用を遭えて用いている。
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