第16話 アシナボイン山(カナディアン・マッターホルン)ハイキング2
キャンプ2日目
ついにアシナボインにやって来た。アシナボイン山が眼前に見えるMagog Lake キャンプ場。それにしても間近に眺めるアシナボイン山の素晴らしき事。サンシャイン・スキー場のペアーリフト上から何度も何度も見ていたあの”マッターホルン”が今眼の前に聳え立っている。しばし見入ってしまった。
Og Lake で2日目の朝を迎えた。緊張の精かあまり空腹は感じない。小雨の朝、ゆっくり準備して11時に出発、12時半にMagog Lake に到着した。キャビンの利用の仕方を訊きに行くのも面倒だし、折角テントを持参してるので引き続きテント泊にする事した。
昼食はキャビンの近くにある小川の畔でインスタントラーメンで済ませた。キャンプ場にも流れている小川の近くにテントを張ったが、この小川も飲料水として使えるので便利だ。衛生指数は不明だが。夕食はこの水で飯を炊いた。この日はアシナボイン山を眺めながらのんびり過ごした。
キャンプ3日目。
夜中から朝方にかけてすごく冷え込んだ。流石にカナディアン・ロッキーの山中だ。アンダーセーター、セーター、スキーヴェストでも寒かった。でも朝は好天に恵まれ、実に気持ちが良い。テントが濡れているところを見ると、朝方雨が降ったようだ。
このアシナボイン山の麓には小さな湖がいくつかある。今日はフィッシングの為、Elizabeth Lake に行ってみる。道中からのアシナボイン山がまた見事な山容を見せてくれる。本家本元のスイスのマッターホルンとどちらがより魅力的なのだろう⁉
筆者の意見は、本家のはスイス側からのは男っぽくキリリとして美しいが、イタリアからだとただの三角形の山である(実はイタリアからの山容は2年後に確認したが、今回はまだ知りませんでした)。一方こちらのは全体がふっくらした感じで何か縦長の白桃を思わせる。未確認であるが、富士山やキリマンジャロと同じでどこから見ても同じ山容なのではないかなと思ったりする。
フィッシングの方は、予想通り戦果ゼロ。一匹も釣れなかった。そもそもどんな魚が居るのかも知らないで、ルアー釣りをしたって釣れる訳がない。雰囲気だけは十分楽しめたのでこれで良い。うん、これで良い。
キャンプ4日目。
連日連夜のラーメン定食にも飽きたし、アシナボイン山も十分堪能したので予定通り帰る事にした。一気にサンシャインまではきついので途中一泊する事に前日決めていた。
14時頃出発の予定で昼食の飯を炊いているとき、シングルバーナーのガスが切れた。ここで信じられない大失敗をやらかしてしまった。
焦っていたのか、ガス交換のときうっかりガスを漏らしてしまった。たまたま風が強かったのでテントの中での作業であった。ガスが漏れた状態で火をつけたから堪らない。当然の如く眼前で爆発してしまった。慌てて頭から外に飛び出した。窓を開けていたからまだ良かった。
一度テントに戻ってベースの火を消し一息ついた後チェックしてみると、右手の甲と親指の皮が剝けていた。テントは両サイドの窓の一部とベースに穴があいていた。
幸いにも、誰にもみっともない姿を見られなくて良かった。見ていたらさぞ面白かっただろうと思う、本人以外は。
その後、近くに滞在しているレンジャーに行き、応急手当をしてもらった。まだ10代の若い男女たちだったがこんなときは女の子の方が頼りになる。看護婦のイメージがある精か⁉
帰りに20ドルを渡そうとしたが彼らは受け取らなかった。それにしても、食料は米とインスタントラーメンだけだし、ファーストエイド(応急手当セット)は持参していない。グリズリーと闘うべく武器もだ。
テントをたたんで出発の間際に近くにいた白人さんに声を掛けられたので災難の旨話したら、自分たちのテントに来れば良いよと言ってくれた。何と親切な! とても有難かったがテントは使えるし丁重にご辞退申し上げた。
予定よりかなり遅れての出発になったので適当に見つけた無名の湖の近くのキャンプ場でキャンプする事にした。それにしても右手の指から甲を包帯で巻いただけでテントの設営が大変難しい。普段の4倍ほどもかかってしまった。水場が見当たらずまた夕食抜きである。窓が破れているので風が入る。夜中に雨よ、降らないで!
寒さで夜中に目が覚めたら、何やら、外で音がする。何か動物が飛び跳ねているようだ。好奇心と怖さと寒さと面倒くささが同時にやって来た。1vs.3で好奇心が負けた。あれは一体何だったのだろう? バンフを発つ前は散々グリズリーに遭うよと脅されていたが、飛び跳ねる動物と言えば…? 兎? トビネズミ? 鹿? 襲ってこなかったので草食動物だろうとは思うが⁉
キャンプ5日目。
朝、テントを畳み、荷造りしてたら白人男女二人連れが通りかかりアシナボイン方面への径を訊かれた。その時、右手の包帯について訊かれたので説明すると、女性が親切に包帯を巻き直してくれた上、自分たちの住所、氏名までメモしてくれた。
この時は薬指の付け根が思い切り水膨れしていたので、女性は『針で潰しても良いですか?』と訊いてくれたけど、何か痛そうだったので辞退させてもらった。二人はアメリカ・オンタリオ州からの新婚旅行だった。とても感じの良い若い夫婦だった。
この日は朝食、昼食抜きで6時間かけて、サンシャイン・ヴィレッジに無事到着。期待のグリズリーベアーには遭遇する事はなかった。
ゴール地点が近づいてくるにつれて、頭の中はサンシャインのレストランがオープンしている事を願う気持ちで一杯であった。到着してみると、電気も点いておらず営業中である雰囲気はまるでなかった。何か食い物はないかと引き寄せられるように薄暗い裏口から店内に入ってみた。フロアーも薄暗くガランとして人の気配はない。何だか食い物を漁りにきた野良犬になったような気分。食べ物はなかったが、カウンターにホットコーヒーが入れられてるポットが置かれていた。野良犬に図々しいもヘッタクレもない。傍にあったカップにセルフサービスでコーヒーを注いで窓際のテーブルで味わっていた。そこに50代ぐらいの従業員らしきおっちゃん登場。
”Hi!. I got a coffee. Can I another coffee?"
"......"
彼は何故か、驚いたような、妙な顔をして頷いた。
"I can pay . How much?"
”......"
彼は首を横に軽く振って出て行った。
私は2杯目のコーヒーを味わった後、2ドルを置いてフロアーを後にした。
波乱もあったが、こうしてアシナボイン山へのハイキングは終わった。
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