第11話 バンフ~ジャスパー 自転車一人旅2

 6月17日。

 今日で日本を発って丁度4か月、あっという間だった。当初の予定なら今頃帰国するはずだった。それが今こうして憧れだったカナディアンロッキーの麓を片道300㎞の自転車一人旅をしている。本当に夢のようだ。ヒロには感謝しかない。


 再び親切な未来の医学生に別れを告げて、9時半過ぎ、曇り空を出発。ピート・レイク経由で12時半に目的地サスカチェワン・クロッシングに到着。途中にジャスパーからのサイクリングの若者達何人かに遇った。こんなすばらしい土地に住んでいればバンフ~ジャスパーを自転車やキャンピングカーで旅をしないのがおかしい。


 ここでは初めてバンガローに泊まる。ツインルームなので高いが居心地は良い。

 相変わらず天気には恵まれず、翌朝も雨。空を睨んでいたら大雪になって万事休す。またまた連泊することになる。高い宿泊費を払ってただ泊まるだけと言うのはつらい。


 Brewster社の観光バスで日本からのツアー客が大勢やって来る。流石に中年のお客ばっかり。若者はこんな観光バスで効率よく観光地だけを観て回るだけの旅行をしてはいけない。スキーやマラソンのように目的を絞っている旅は別だが。

 15時頃、漸く雪が止み、少し明るくなってきたので近辺をサイクリングしてみる。サスカチェワン川沿いを歩いてて、水鳥が水面を気持ち良さそうに滑走するのが見られた。また、2種類の鳴き声を発する小鳥を見つけたが何という名の小鳥だろう?


 6月19日。快晴。昨日までの雨や雪から一転、最高の天気に恵まれた。

 朝、気持ちの良い快晴の中、暫くぼ~っとしてから10時前にゆっくり出発した。


 アレクサンドラ・リバー・バレイを過ぎた辺りで、前から来た車の兄ちゃんが後方を指さしながら、何か叫んで行った。『ベア、ヒア、ナウ』と言ったように聞こえた。よく考えてみた。「ン?」これはもしや、"Bear,Here,Now!" ? 緊張が走った。

 緊張を持続したまま、左右に目を凝らしつつゆっくりペダルを漕ぐ。暫く進むと、左側に停車している観光バスの前面が見えた。怖い物見たさで左側に寄り慎重に進むと、草むらに真っ黒い動物を発見。思わず、右にハンドルを切り直す。そのまま通り過ぎた後左側に戻し、振り返ると観光バスは去って行くところだった。

 バスが去った跡に黒い動物。正しくそれは黒熊だった。後から来たマイカーの人たちが降車して写真を撮っていたが、熊さんは彼らに興味を示さず、ただひたすら木の実か何かを漁っていた。

 自分も自転車を停め、カメラを取り出し少しずつ近づいた。この頃はまだ免疫ができてなかったので、10数メートルが限度だった。2枚撮れた。生後、1~1年半ぐらいかな?


 その後、シラス山のビューポイントでサイクリング中の若者に遇った。彼はバンクーバーから車(多分、レンタカー)でジャスパーまで行き、昨日サイクリングでジャスパーを出発し、10日ぐらいかけてバンクーバーに戻るそうで、宿は全てキャンプとの事であった。そうだ。若者はこうでなくっちゃ。

 彼はここからの5マイルが相当ハードだと教えてくれた。頑張って50分かけ、パーカー・リッジへのトレイル出発地点に到着。恐らくここからパーカー・リッジへトレイルする輩は殆ど居ないであろう。サイクリニストの中の一握りだろう。その一人、私は行きます。雪道を靴の中をびしょびしょにしながら、55分。その甲斐はありました。

 サスカチェワン氷河の、そこからの眺めは素晴らしかった。団体客には絶対に味わえない至極の景色を一人占め、感無量。

 

 6月20日。

 昨日、コロンビア・アイスフィールドに到着。地名はコロンビア・アイスフィールドだが、アサバスカ・グレイシャーが地名としては相応しい。

 アサバスカ・グレイシャーはコロンビア・アイスフィールドと言う名の氷原から流れ出る最大の氷河である。その先端にコロンビア・アイスフィールドと言う町がある。

 

 アサバスカ氷河では予定通りスノーモービルに乗った。期待外れであった。もっとずっと奥まで行くのかと思っていたが、スノードームの手前までしか行かなかった。この地点で氷河の厚さは200mと言う説明だった。


 6月21日。

 ジャスパーまではほぼ下り。楽なサイクリングになるであろう。


 到着までに3種の野生動物に遇った。

 最初に遇ったのは黒熊。2日前に遇ったのよりは小さかった。今回は事前連絡を受けてなかったので一瞬はドキッとした。道路の右端を気持ちよく走っていたら、すぐ右脇4mぐらいにやや小さめの黒い動物を発見。黒熊である。恐らく生後6~9か月ぐらいの子熊であろう。私が通り過ぎる間、首を回しながらずーっとこちらを興味深そうに見ていた。

 30m先で自転車を降りたら彼はまっすぐこちらに歩いてくる。子熊とはいえやはり怖い。距離を保ちながら自転車をつきながら歩く。カメラのレンズ交換をしようとしてリュックを開けてたら突然突進してきた。

「ウヮーイ!」 ビックリして、自転車に飛び乗って逃げた。距離ができたところで振り返ったら、後から来た車の傍で二本足で立ち上がったり愛嬌を振りまいていた。さっき、逃げなきゃ良かったかなあ⁉ 子熊は可愛い。だが残念ながら、この時もまだ免疫はできてなかった。


 次に鹿。ムースやエルクのような巨体でなく子鹿のバンビみたいに小柄で可愛いヤツ。ミュール鹿かな? 彼は道路の左脇の林の傍からじっとこちらを見ていた。自転車を停め、6~7mまで近づいても逃げなかったがやがてゆっくり林の中に去って行った。


 最後に、マウンテン・ゴート。バンフのミュージアムで観たものよりずっと小さかった。親子のようで、子ヤギには角の有るのも無いのもいた。雄と雌かな?


 そんな、こんなで無事ジャスパーに到着した。やれやれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る