幕間 日南愛莉の勘違いに神奈月楓怜は気づかない

第18話 「平坂くんは嘘をついていると思います」

 こんにちは、日南にちなん愛莉あいりです。

 みんなからは日南さん、日南ちゃん、にちなっち、にちなちゅ、にちゅにちゅなんて呼ばれてます。

 青葉台高校の2年6組に所属する女子高生です。

 私は今、メッセージアプリを開き、クラスのグループからとある男子生徒の連絡先を探しています。


「あ、あったあった」


 見つけました。

 クラスの男子、平坂啓斗くんの連絡先です。学校では何度か話したことがあるけど、メッセージ上でははじめましての相手です。

 そして突然ですが、平坂くんは嘘をついていると思います。


「たまたまなんて……ありえないでしょ」


 事の発端は、昨日のお昼休みです。

 私の後ろの席は神奈月楓怜ちゃんというお嬢様の女の子なんですが、彼女のお弁当がいつもと違ったので話しかけてみたんです。

 そしたら飛び出した爆弾発言。


『平坂くんが作ってくれ……あっ!』


 あっ! じゃないよ!

 あっ! じゃ!

 神奈月さんも、そして平坂くんも大慌て。

 クラスのみんなも騒然としてしまいました。

 話を振ってしまった以上、私も場を落ち着かせるために頑張ったんですが……


 私だって馬鹿じゃないです。

 たまたま神奈月ちゃんの引っ越した隣が平坂くんの部屋で、そこからお揃いのお弁当を食べる関係に急発展するなんて普通は有り得ません。

 私の見立てでは、平坂くんと神奈月ちゃんは前々から付き合っていたんだと思います。

 そして高校生ながら同棲を始めて、2人の愛の巣であんなことやこんなことを……


 って、私はクラスメイトで何を考えてるんだろ。

 とにかく、平坂くんは神奈月ちゃんと付き合ってるはずなんです!

 だから私は平坂くんに直接聞いてみるつもりです。

 あの時、場を収めるのに協力してあげたんだから、それくらい教えてもらってもいいよね?


「よーし、連絡するぞ〜」


 同じくクラスメイトの久保くんからメッセージが来てるけど、今はとりあえず後回しです。

 平坂くんを友だちに追加して、メッセージを送ります。


 ――こんにちは! 勝手に追加してごめんね!

 ――ちょっと聞きたいことあるんだけど……

 ――直球質問! 神奈月ちゃんと付き合ってるんだよね?


 クマのぬいぐるみが首を傾げているスタンプを送って、ひとまず返信待ちです。

 それにしても気になるなぁ。

 神奈月ちゃんに彼氏がいるかもなんて、うちの学校の人なら気にならない人いないと思います。

 数多くの男子が玉砕しまくった、鉄壁のお嬢様なんですから。


 ――大丈夫だよ! 気にしないで〜

 ――付き合ってないよ!?笑 本当にたまたまなんだよね笑


 返信が来ました。

 思った以上に、平坂くんはレスの速い人みたいです。


「付き合ってないわけないじゃん!」


 私は部屋のベットに転がり、1人でちょっと大きな声を上げます。

 でも、こういう話をしてる時ってすごく楽しい。

 私もすぐに返信します。


 ――えー?? そうなの??笑

 ――絶対に他の人に言ったりしないから!

 ――助けてあげた恩があるでしょー?笑


 ――いやいや! 本当なんだって!

 ――本当に昨日はお世話になりました笑

 ――うーんなんて言ったらいいんだろ……。とにかく付き合ってないのは本当なんだよね笑


「うぬぬ……強情な……」


 でも、ちょっと迷うような素振りが見えます。

 押せば行けそう!


 ――付き合ってないの“は”本当なんだ〜笑

 ――てことは他に何か隠してることあるでしょ!笑


 ――うーん……

 ――まあ、神奈月さんと相談して言える範囲で言うと……

 ――俺たちって、ひとり暮らしパートナーなんだよ


「ひとり暮らしパートナー……?」


 初めて聞く言葉です。

 何を言ってるんだろ。


 ――神奈月さんが自活するためのコーチングをするバイトみたいな感じかな

 ――ちょっと複雑ではあるんだけど報酬も貰ってて笑

 ――だから恋人とかそういうのじゃないんだ〜

 ――期待外れでごめんね笑


 うーん。

 何かよく分かんないです。

 でもまあ、付き合ってないってのは本当なのかもしれません。

 よく考えてみれば、あんまり隠す意味もないような気がします。

 ていうか、私が男子で神奈月ちゃんと付き合えたら、むしろ自慢するはずですし。


 ――そうなんだ〜

 ――じゃあそういうことにしとく!笑

 ――急に変なこと聞いてこちらこそごめんね!笑


 ――いえいえ!笑


 今はまだ、平坂くんは嘘をついていないと思います。

 でも。


 ――じゃあじゃあ、この先付き合う可能性は?笑


 ――うーん……ないと思うけど笑


 やっぱり、平坂くんは嘘をついていると思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る