第14話  思惑

そこには、母が立っていた。

「お茶とお菓子を用意したから、1階にいらっしゃい。お父様も待っているのよ。」

母は微笑みを浮かべていたが、その声は機械的だった。

僕たちは互いに顔を見合わせた。何を言われるのか気になったが断る理由はなかった。

3人はぞろぞろと母の後をついていった。

テーブルにはアフタヌーンティーの準備がしてあった。

僕たちがテーブルにつくと父と秘書の佐藤が入ってきた。

一真は立ち上がって「お邪魔しています」と丁重に頭を下げた。

陸も一真と同時に立ち上がって一真の言葉が終わるのを待って「初めまして、陸と言います。よろしくお願いします。」と頭を下げた。

佐藤が「お二人ともお座りください。」といった。

久し振りに見た父は杖を突いていて少しやせたようだ。佐藤は椅子を引いて杖を父から預かると部屋を後にした。

父は一真に「お父様は元気かね。」と聞いた。

一真の父の勤めている研究所は父の経営する会社の一つだった。

「はい、変わりないようです。」一真は緊張している。

今度は陸に向かって

「2階に部屋を用意してある。ここから学校に通いなさい。」といった。

陸は目を丸くして「よろしくお願いします。」とかすれるような声を出した。

ちょっとの間,気まずい沈黙が続いた。

「新、陸の面倒を見てくれるか。」

父は僕の目を見ながらかすれた声で言った。

「はい。わかりました。弟ができたようで嬉しいです。」

僕は本当にうれしかった。特に最近はなんとなく家にいると息苦しかった。

この家に陸が来たことで心おきなく話せる仲間ができたようで一筋の光が見えるように思えた。

「それから、陸君のお母さんもここで暮らすことになる。明日にはこちらに来られるだろう。」

父は何でもないように付け加えた。

今まで父から感じたことのないような柔らかな言葉だった。

陸の表情がパッと明るくなった。

僕たちは互いに顔を見合わせるばかりだった。

父はお茶にも手をつけず佐藤を呼んだ。佐藤は厳しい顔をしていた。父に杖を渡すと2人は部屋を出ていった。

ぱたんと扉が閉じた時僕は思わず陸に駆け寄った。

「良かったじゃないか。安心してここで暮らせばいい。」

「うん、うん。」

陸は涙ぐんでいた。

一真は「僕も時々来てみるよ。3人で楽しくやろうぜ。」と笑った。

1時間程して一真が帰ると、佐藤は陸を新しい部屋に通した。陸の部屋は僕の部屋の向かい側に用意されていた。

2人はその夜遅くまで一緒にいて、そのままソファに眠り込んでいた。佐藤が掛けてくれたのか僕たちの上には毛布があった。

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