第149話 子供達の救出 そして・・・

 フウカがローブとマントを幾重にも着込み、その上で更に顔全体を覆う仮面をかぶる。これがマコトの言っていた、顔も体型も分からない"影縫い"の外見か。


 「その格好、動き辛くないの?」

 「問題ありません。」

 「声まで変わるんだ・・・。」


 そう、驚いた事にフウカから発せられた声は男性とも女性とも思えるような不思議な、それでいてハッキリとした声だった。

 仮面越しだからくぐもった声が聞こえると思ったのだが、自然に発せられた声の様に聞こえたので、フウカがかぶった仮面は魔術具の一種なのだろう。正体を隠すにはうってつけ、と言うわけだ。


 部屋の扉が叩かれる。ヘシュトナー邸からの使いだ。


 「"影縫い"、指定されていた物を用意した。ついて来てもらおう。」


 そっけない口調でフウカに用件を伝えると、使いはフウカが部屋から出る前に踵を返していった。フウカは黙って部屋から出て使いの後を追う。

 ちなみに、フウカの傍にいる私も幻だ。姿を変えて、更に透明化している。


 自分で開発しておいてなんだが、この幻、内密に行動する際に本当に都合が良い。今後も多用して行くのは間違いないな。


 「以前からこんな感じのやり取りを?」

 「この状態では基本的に喋りませんので。」


 声も変化していると言うのに、随分と徹底しているな。

 まぁ、暗殺者と言う職を生業としている以上、万が一正体が知られてしまった場合、どういう扱いを受ける事になるのか分かったものではないのだ。彼女の振る舞いは理に適っているのだろう。


 ちなみに、使いとの距離はあまり離れてはいないが、私達の会話は聞き取られてはいない。私とフウカの周囲に一時的に防音魔術を施しているからだ。


 会話もほどほどに、搬送されてきた子供の元へと行くとしよう。

 尤も、私は既に『広域ウィディア探知サーチェクション』によって子供達の到着を確認しているし、どのような状態になっているかも把握している。

 連れて来られた子供は3人、年齢は14~11歳。年齢の割に非常に体が小さい。


 正直、あまり気分の良い話ではない。フウカは仕事を引き受ける際、いつもこんな状態となっている子供達を見ていたのだろうか?



 使いの後に続いて細い道を進んで行くと、ヘシュトナー邸の玄関の裏側に到着した。そこには大きな棺の様な形状の箱を乗せたやや大型の馬車が待機している。

 子供達はあの大きな棺の様な箱の中にいる。それも、三人纏めてだ。病人の扱いにしては、あまりにもぞんざいすぎる。


 「いつも通りだ。確認次第、要件を伝える。」

 「・・・・・・・。」


 使いがフウカに言葉短く伝えた後、フウカが大きな棺の元まで歩いて行く。このやり取りも、今に始まった事ではないのか。

 つまり、これまでも子供達はあの棺の中に入れられて運ばれていたのか。

 まるで死人の様な扱いだな。いや、彼等にとっては死人と変わらないのかもしれないな。少なくとも、彼等は子供達を助けるつもりは無い、と私は考えている。


 フウカが棺の傍まで行き、中を覗き込む。

 棺の蓋は開かれない。棺の蓋には窓が取り付けられていて、その窓から子供達の様子が確認できるようになっていた。


 「・・・・・・!」

 「確認は済んだな?用件を伝える。」

 「・・・・・・。」


 子供達は非常に痩せこけており、殆ど皮と骨の様な状態だ。体の至る所で骨の形が浮き出ていた。

 生きてはいるのだ。心臓は確かに動いているし、呼吸もしている。

 だが、それだけだ。この子達を見たら、誰もが何故この状態で生きているのか不思議に思う筈だ。


 フウカが怒気を隠そうともせずに使いの方へと顔を向ける。今の子供達の状態は以前よりも酷くなっていたという事だ。


 怒気どころか殺気すら隠そうともせずに、使いに詰め寄ろうとフウカが動いた。


 「待て・・・!五年間も音沙汰がなかったのだぞ!?本来ならば侯爵様に見捨てられていてもおかしくは無かったのだ!」

 「・・・・・・。」


 流石にフウカの殺気を浴びせれられては、落ち着いている事など出来なかったのだろう。慌ててフウカに弁明をしだした。


 「病状は悪化してはいるが、生きてはいるのだ。文句は言わせんぞ。それに、先に要求を断ろうとしたのはそちら側だ。これは警告でもある。貴様が侯爵様の意にそぐわないのは貴様の勝手だ、だが、その時被害を被るのは貴様ではない。そう言う契約だった筈だ。次は無いと思え。」

 「・・・・・・。」


 やはり予想していた通りになっていたか。

 尤も、フウカが招集に応じようとしなかったのはつい数日前だ。そんな短い期間で果たしてフウカが驚愕するほど痩せこけてしまうのだろうか?


 フウカの返答に関わらず、子供達は元からこの状態だったのかもしれないな。

 彼女が素直に招集に頷いていた場合でも、[生きているかも分からない者のために、家の秘薬をふんだんに使うわけにはいかない]、とでも言ってはぐらかしていたかもしれない。


 いかんな。ヘシュトナー侯爵に対する私の印象が、第一印象からしてほぼ最悪と言っても良いぐらい悪いので、彼の行動に関する可能性は無意識に悪い方ばかりに考えてしまっているな。

 現状、予測が当たってしまっている事が更に質が悪い。


 せめて最悪の予想である、[そもそも、村を襲った病がヘシュトナー侯爵が意図的に齎したもの]と言う可能性ぐらいは外れていて欲しいものだ。


 フウカが殺気を収めて一歩だけ使いから離れた。話を聞く意思表示なのだろう。今の格好のフウカは、とことん自分の正体を他者に教える気が無いようだ。


 「ふん・・・。仕事の内容を伝える。貴様には明日、ノアと言う名の"上級ベテラン"冒険者と接触して、侯爵様の屋敷まで案内してもらう。種族は竜人ドラグナムだ。服装は日によって変化するが、緑と紫に煌めく黒髪に、同様の光沢を放つ黒く、太く、長い尾が特徴だ。見目が極めて良いから、すぐに分かる筈だ。相手に不興を買われないのであれば、方法は問わん。」

 「・・・・・・。」


 使いの言葉にフウカは反応を示さない。

 暗殺者が貴族の使い走りをさせられるのだ。仮に実力に自信のある暗殺者が同様の仕事を言い渡された場合、顰蹙ひんしゅくを買っても不思議ではない内容だ。


 なるほど。一昨日の使いがアレだったからな。もしかしたら、あの連中は激怒したヘシュトナー侯爵に始末されてしまったのかもしれない。

 彼はそれぐらいの事はやってもおかしくない男だ。


 で、今度は確実性を持たせるために"影縫い"、つまりフウカを私に対する使いに出すという事か。


 ヘシュトナー侯爵は是が非でも私を自分の傘下に置きたいようだ。


 「使い走りの様な扱いが不満か?だがな、その竜人は宝騎士すら歯牙にもかけずに下すほどの力を持つ。例え貴様が全力で仕留めようとしても、まるで相手にならぬだろう。何せ、あのグリューナが放つドゥームバスターを真っ向から受けて無傷で済んだのだからな。」

 「・・・・・・。」

 「間違っても力で従わせられる、などとは思わぬ事だ。アレはおそらくてん騎士すら容易く凌駕する存在だ。良いか?くれぐれも不興を買うなよ?」


 親善試合の内容はしっかりとヘシュトナー侯爵の耳に入っているようだ。彼は私が一人自分の戦力になれば騎士など物の数では無いと判断しているのだろうな。

 もしも彼に情報を送ったのが私の予想通りナウシス騎士団の団長であるなら、あの後すぐにワイスワンの乱入とその後の依頼の受注の件も報告しているだろうし、私とシャーリィが接点を持つ事も知っているかもしれない。


 そうなると、ヘシュトナー侯爵にとってはまたとない機会となるのか?私が本格的に臨時教師の仕事をする前に是が非でも自分の傘下に私を置きたがる筈だ。


 こちらとしても都合が良い。彼の計画に乗ってやろうじゃないか。それに、報酬に要求するものも既に決めている。達成出来るものなら達成して見せると良い。



 内容を把握したフウカが短く頷いて影に潜る。それに対して使いは特に驚いた様子を見せていない。この光景も見慣れているという事か。


 フウカが影の中に潜ったのは、魔法では無く魔術だな。感心した事に、構築陣が現れる事は無かった。


 以前、レイブランとヤタールが言っていた事がある。私もそうだが、あの子達も魔術構築陣を見れば、それがどういった効果をもたらすのか、初見の魔術であってもある程度理解出来てしまう。

 それ故に、"楽園深部"に住まう者達は皆魔術構築陣を隠蔽した状態で魔術を発動させる。当然だが、私も出来る。練習したからな。


 驚くべき事に、フウカは、私達の様に魔術構築陣の隠蔽技術を体得しているのだ。



 フウカがこの場を立ち去った事でこの場所に子供達がいる理由は無くなった。誰がやるかは分からないが、再び子供達を隔離場所へと搬入するはずだ。つまり、ここからが私の出番だ。


 「はぁ・・・マジもう怖すぎだっての!死ぬかと思ったわ!何であの"ウィステリア"が殺す気で戦って、アイツ生きてるんだよ!?はぁ・・・今からまた"コレ"をあそこに戻さなくちゃならないのかぁ・・・。ヤだなー。でもやらねえと俺もあの馬鹿共みたくバラバラにされちまうだろうしなー・・・。あーしんどー・・・。」


 先程まで平静を保ち、やや高圧的な態度だった使いが、かなり砕けた口調で独り言をぼやき始めた。彼は現在の仕事に不満があるらしい。


 愚痴をこぼしながらも馬車の御者席へと移動して馬車を動かし始めた。


 では、折角なので子供達の状態を精査するためにも私も馬車に同乗させてもらうとしようか。




 「ふぁあ~~あ・・・。寝んむ・・・。ああ、クソッ!"影縫い"の奴、毎回毎回クソ面倒な条件要求しやがって・・・仕事のたんびに深夜に馬車を動かす俺の身にもなれってんだよなー・・・。」


 馬車で移動してから約3時間。使いはあくびをしながら終始愚痴をこぼしっ放しである。そうでもしていなければ眠気を抑える事が出来ないのだろう。


 彼は独り言をし始めてからというもの、一言もヘシュトナー侯爵を指す言葉を口にしていない。本来は非常に嫌っているからだろうか?


 ミスを犯した配下がバラバラにされたと怯えながら語っていたし、ヘシュトナー侯爵の事を恐れているのは間違いないな。

 となると、一言もヘシュトナー侯爵を指す言葉を発しないのは、何か理由がありそうだ。どれ、少し使いの装備品を確認してみるか。


 ・・・なるほど、音声収録が可能な魔術具か。これによって侯爵に対して不敬な発言をしたり、ミスを犯した際の証拠や言動などを確認しているという事か。


 という事は、一昨日私の元まで来た二人の使いは、やはり始末されたのだろう。先程使いが言っていた、バラバラにされた馬鹿共とやらがそうなのかな?


 この魔術具を配下全員に持たせていると考えた場合、ヘシュトナー侯爵は相当な財力を有している事になるな。

 それだけの富を持っていると言うのに、金貨3枚で将来有望な冒険者を手籠めにしようとするとは、随分とケチな事を考える人物である。




 それから更に馬車を移動させて2時間、ようやく目的地に到着したようだ。結局、彼は目的地に到着するまで終始独り言を喋り続けていた。


 目的地の外見は、まさしく収容所といった雰囲気を醸し出しており、外周は高さ30mにも及ぶ魔力が籠った石の壁に囲われてしまっている。

 入口は一つだけ。もしかしたら、元は本当に収容所だったのかもしれないな。


 馬車が入り口に入ったところで使いに門番らしき人物が声を掛けてきた。


 「おぅ、お疲れー。長旅ご苦労さん。で?久々に"影縫い"を見たんだろう?どうだった?」

 「おーぅ。お疲れー。どうもこうもねぇよー。マジ死ぬかと思ったっつうの!中身を見た途端、殺気をむき出しにしてきやがったよ。」

 「おー、怖い怖い。ま、そんなおっかない"影縫い"もコイツ等がいる限り俺達に危害を加える事は出来ねえってな。」


 この施設に勤めている者達は少なくとも、軽口が言い合える程度には余裕があるし仲も良いのだろう。尤も、自分達のしている事を理解している以上、善良な人間とは言えないだろうが。


 「だが、良かったのかねぇ・・・。進行を進めちまってよぉ。今は生きてるけど、もう長く持たないんじゃね?」

 「だぁからあの竜人を何としてでも雇うんだろ?コイツ等が駄目になって"影縫い"が侯爵様に牙を向けて来ても、あのバケモンがいれば問題無いってお考えなんだろうよ、侯爵様はよぉ。」

 「はぁーっ、十年近くコキ使われた挙句、最後にはあっさり格上に始末されるって?悲惨だねぇ・・・。ホント、侯爵様は恐ろしい方だよ・・・。」


 聞き捨てならないな。事は一刻を争う状況だったようだ。幸い、子供達の状態は把握できている。私ならば問題無く回復できる。


 問題はこの連中だな。


 子供達を治療し、マコトの元まで送って保護するのは良いとして、ここに勤める者達をどうするか、だ。


 非常に過激な事を言ってしまえば、全て始末してしまえば良い。

 自重する気は無い。盛大に施設を破壊し尽くしたとしても、とてつもないバケモノに襲われたとでも言っておけば、ヘシュトナー侯爵は激高するだろうが、納得せざるを得ない。

 そもそも、一人残らず始末してしまえば報告も遅れに遅れるだろうからしばらくはヘシュトナー侯爵も事態を把握できないだろうしな。


 それが一番手っ取り早いし、効果的なのは間違いないのだが、一応、悪戯に人間を殺さないようにすると、ルグナツァリオと約束しているからなぁ・・・。

 出来る事なら約束は違えたくない。


 先ずは施設の調査だな。数十人の子供達が同じ症状になっていると言うのなら、報告書の一つや二つぐらい、必ずある筈だ。


 尚、ヘシュトナー邸には子供達に関する書類は一つも存在しなかった。


 その代わりと言っては何だが、不正の証拠になるような書類や、法律上禁止されているような禁制品の密輸入の書類は大量に見つかったが。

 当然、押収だ。複製した物と取り換えてモスダン公爵に渡しておこう。

 と言うか、よくこれだけの悪事を行って罪悪感の一つも湧かないものだ。悪徳貴族なる者達というのは、皆こういう性格なのか?それとも、これらの行為を悪事と感じていないのだろうか?


 それと、ヘシュトナー侯爵の執務室に燃えカスの様な物がごく少量見つかった。これはアレだな。見られたら拙い報告書などは燃やして証拠隠滅を図ったな。見つからない筈である。


 こうなると、やはり子供達を収容している此方の施設が本命になるな。隈なく探すとしよう。



 隈なく施設内を調査した結果、私はこの施設を完膚なきまでに破壊し尽くす事にした。勤めている者も、全員始末する。ルグナツァリオも了承済みだ。


 ヘシュトナー侯爵は、私が思っていた以上に外道であった。


 よもや、私が予想していた最悪のケースを上回るほどに最悪な行為をしていたなどと、誰が思いつくだろうか。

 この施設には、ご丁寧にも全ての始まりから今に至るまでの経緯が、事細かに書かれた書類が残されていたのである。他にもこ、の施設で使われている複数の薬の製法などの多くの書類が見つかった。


 村を襲ったとされている流行り病、やはりこれ自体がヘシュトナー侯爵によって意図的に齎されたものだった。

 人知れず、井戸に毒を投入したのだ。ただし、その際の毒自体はそこまで強力なものではない。精々体が麻痺して身動きが取れなくなる程度だ。


 だが、それで十分なのである。村人達全員が身動きが取れなくなる以上、領主であるヘシュトナー侯爵が動く理由になる。

 名目は村を救うための医療班として、複数の人間を村に向かわせた。


 だが、村へ向かった者達は医者では無かった。彼等は魔術師に錬金術師や薬剤師、そして魔術具師だった。


 村人達は全員、強制的に人体実験の材料にされたのだ。


 実験の目的は、人間が労せずして人知を超えた強力な力を得る事だ。

 人知を超えた力。それこそ、一般の人間が巓騎士にすら迫るほどの力を、彼等は外的な要因によって得ようとしていたのである。


 実験内容としては、魔物や魔獣の血液を加工した薬物の投入、人間の心臓部に魔石の移植、魔力の強制注入、更には精神を蝕むような過剰な力を持った魔術具を強制的に装着するような行為すらも行っていた。


 実験の成果はそれなりに出ているらしく、そうして得られた知識や技術を用いてナウシス騎士団専用の装備や強化薬が製造されたのだ。

 ナウシス騎士団の団員達が他の騎士団と並ぶ力を持っているのは、装備だけでなく、これらの実験によって得られた薬物を使用してのものだったようだ。


 実験の被験者には激しい苦痛や負荷が掛かったらしく、村からは男女問わず悲鳴が絶えなかったと記録されている。

 そして実験に耐える事が出来ず大人達は皆、命を落としていった。

 いや、違うな。命を失うまで酷使され続けたのだ。実験体の対象になった時点で、村の人間達は生かしておく気が無かったのである。


 大人達がいなくなれば、次はいよいよ子供達の番だ。彼等は大人達の悲鳴を、自分の親兄弟達の苦悶の声を聞いている。

 自分達が同じ目に遭うと嫌でも知らされて、さぞ恐ろしかった事だろう。大人達と同じ目に遭わされた時は、さぞ痛く、苦しく、辛かった事だろう。


 フウカが村に訪れたのは既に実験が終わった後だ。大人達の実験結果を基に、ある程度負荷を抑える事が出来たらしく、半数ほどの子供達は生き残れた。

 それでも半数近くが命を落としているが。


 そして現在。完成した強化薬でも過剰摂取すれば体を損壊するという結果が出ているので、その治療実験のために、子供達は利用されている。


 だが、それもある程度の目途は付いたらしい。それ故に子供達の扱いはぞんざいとなり、今の様な状態となっている。

 ヘシュトナー侯爵にとって、"影縫い"を、フウカを従わせるのは、あくまでついでに過ぎなかったのだ。


 ヘシュトナー侯爵にとって、この施設の子供達は最早用済みなのだ。近い内に処分するように通達まで来ていた。


 更には自分の領地の別の村で再び同じ事を計画しているようだ。


 これだけ証拠があれば十分だ。子供達を治療してマコトの元まで送るとしよう。



 施設全体に睡眠魔術を展開する。子供達を治療して移動する際に騒がれても面倒だからな。


 職員達が全員眠った事を『広域探知』で確認したら、まずは転移魔術を利用して子供達を一か所に集める。


 全員、体が痩せこけているし、体組織がボロボロになっている。正直言って、本来ならば、もうどうにもならない状態だ。


 だが、私ならばこの状態からでもこの子達を健康な状態に戻す事が出来る。


 モスダン公爵やエリザに触れて人間の情報を知っておいて本当に良かった。おかげで、この子達の事を助ける事が出来る。


 マコト達には冗談のつもりで言ったのだが、まさか本当に肉体を再構築する事になるとは。

 だが、そうでもしなければこの子達を助ける事が出来ないのだ。少なくとも、今の私には。


 子供達の魂を認識。子供達をそれぞれ、魂の動きすら遮断する結界で個々に覆い、肉体を分解する。そして必要な栄養素や体を構築する物質を魔法によって増幅させ、実験によって与えられた、人間にとって不要ね物質や余計な魔力を除去したうえで、肉体を再構築させる。

 再構築された子供達の体は少しだけ痩せてはいるが、それでも健康と呼べる状態になっている。肌には張りもあるし、筋肉も年相応についている。順当に育てばこうなっていたであろうと思われる体をしている。


 魂は・・・良し。問題無く肉体に定着しているな。後はこの子達をマコトの元まで送るだけだ。


 時刻は5時30分前。マコトは起きているだろうか?『通話』で確認してみよう。


 〈くぁあああ・・・。んぁ・・・。んー。〉

 〈マコト、起きているかい?〉

 〈ん・・・?ぅんんっ!?ノアさんっ!?お、おはようございますっ!ど、どうしましたかっ!?〉


 どうやらマコトは今起きたばかりのようだ。私に言われたとおり、昨日はぐっすりと眠ってくれたようでなによりである。


 〈早朝に済まないね。子供達を治療したから、貴方の元に届けたいのだけど、今大丈夫かな?〉

 〈し、仕事が早いですね・・・。ええ、大丈夫ですよ。えっと、ノアさんは僕の現在地を把握していますか?〉

 〈ああ、問題無いよ。ただ、そこはマコトの自宅の部屋かな?子供達を送るにはちょっと場所が足りないね。〉

 〈ええぇ・・・そんなことまで分かっちゃうんですか・・・。大丈夫です。少し広い場所に移動するので、そこへ来てもらって良いですか?〉

 〈分かった。・・・うん。位置を把握したよ。それじゃ、送るね?〉


 子供達を転移させた後、本物の私自身もマコトの元まで転移する。

 子供達は全員眠っている状態だ。彼等の寝顔を見て、マコトが自然体の笑みを浮かべている。


 「ノアさん、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました。」

 「それじゃあマコト、後を頼むよ。私は最後の仕上げをしてくるから。」

 「仕上げ、ですか?」

 「まぁ、それは後でね。じゃ、行って来るよ。」


 そうマコトに伝えて、収容所にある私の幻と私の位置を『入れ替え』る。


 さて、仕上げをしようか。


 フレミーの糸で作られた私の普段用の服に着替え、角も翼も体の外に出現させる。

尻尾カバーも外して鰭剣きけんもむき出しだ。


 収容所の周囲10㎞の範囲に結界を張る。

 今回は魔力色数も七色全て使用するため、世界に対して私の魔力を感知させないためであり、また、破壊の規模を最小限に抑えるためでもある。


 一切合切の手加減抜きだ。あの子達と、あの子達の肉親達が味わった恐怖や苦痛、そして絶望を存分に味わわせてやる。



 覚悟しろ。

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