第8話 入学試験
…………。
なぜだろう、学校だ、懐かしすぎる感覚が俺を襲う。
別にいじめられたとかそういう記憶はないのだが学校にはなにか独特の緊張感があった。
中に入ると大学っぽい感じの教室で筆記試験はそこで行われるようだった。
周りをみると、緊張しながらノートをぶつぶつ言いながら復唱しているガリ勉風の子や、堂々としているお嬢様風の、あれはツインドリルか。
なるほど、彼女は入学後には見事、悪役令嬢ポジションを確立するのだろうか。他には複数人で談笑しているリア充っぽい男子など様々な子供たちがいた。
さて、俺はどうなのかというと実に堂々としている、俺はお嬢様側のポジションを目指すとしよう。
そうだな、ツインドリルの取り巻きポジションが理想だろう。きっと高貴な家柄で、情報に事欠かないだろうし。
貴族の情報網を簡単に得るには友達になることが大事だ。それに今から悪役令嬢だと決めつけるのも彼女に失礼じゃないか。
おっと、試験が始まる、筆記試験は今の俺にとってはなんの問題もない。なぜなら俺にはロボさんがいる。
百点満点も余裕だが。どうだろう、ここで俺は学院主席になるつもりはない。
なぜなら目立つ、おそらく主席になったら全校生徒の前で挨拶とか明らかにめんどくさいイベントがついてくる。
俺は無難なポジションでいいのだ。かといって劣等生は嫌だ。あれも目立つ、劣等生の癖にチート能力とかカッコよすぎて目立ち過ぎる。
よって、狙いはAクラスの真ん中辺りを目指すべきだろう。俺はあらかじめロボさんに100点満点中の95点をオーダーした。
これなら主席は回避出来るだろう。これで主席になったら、まあそん時はそん時で、諦めるしかないか。
どうやら同学年には名家のご子息がいるらしい。それに加えて公爵家の令嬢、さっきのツインドリルがそうらしいということを知った。というか周りの会話でわかった。
この身体の聴覚をなめてもらってはこまる。全ての噂話は筒抜けだ。だが、今後はオフにしようかと思う。だって陰口が露骨すぎておれの精神によくない。
そんなこというのかよ、こわいぞ。もしこれが俺の話題だったら引きこもりたくなる。
まあ、余談はその辺で、筆記試験は始まった。正直余裕だった。俺はロボさんの言うとおりに回答欄をうめる作業を繰り返した。
さて、次は実技試験だ。あれ、実技試験って聞いてないぞ?
俺は聴覚を再び強化し、周りの話に聞き耳を立てる、どうやら、周りは当たり前のように実技試験をうけるようだ。
自信満々といった感じだ、とくにツインドリルの声がでかい。
というか、お前の声しか聞こえないぞ? なんだお前は、入学前から悪役令嬢ムーブが過ぎるぞ。
いやいや、それどころではない。実技は当然、魔法を使うだろう。
俺は勇者の魔法しか使えない、つまりチートのたぐいだ。
この世界でいうところの無詠唱魔法というやつだ。頭で思った現象を具現化する能力で、無詠唱魔法が使えるイコール天才になってしまう。
「どどどどうしようロボさん」
(マスター、私は魔法が使えませんのでなんともできません)
まずい、このまま実技試験など受けたら、もれなく天才、勇者の生まれ変わりだとかもてはやされてしまう。どうしよう。
俺はおそらく青ざめていたのだろう。そんな俺にツインドリルが声をかけてきた、ちょうどさっき実技試験を受け終わって、その自慢のツインドリルを風になびかせながら。
「あなた大丈夫? お顔が真っ青よ?」
今、俺に声をかけるな、まずい、というか俺の身体は顔色が変わるのか。そういえば感情表現はそれなりに再現できるように設計したっけ。
感情表現は一つ間違えると化け物顔になるから苦労した記憶がある。結局は表情豊かなのは諦めて、目や顔色を微妙にいじるのが最適解だったっけ。
いやいや、現実逃避はよくない今はツインドリルが目の前にいるのだ。返事をしないと。
「……あの……私……緊張してしまって……その……ありがとう……」
なんだそれは、まるでコミュ障じゃないか。相手はツインドリルだぞ! いや、だからだろうか、こんなに堂々としたご令嬢オーラを前に萎縮してしまったのだ。
貴族相手に一般人はこうなるのだ。なってしまったのだ。
しかし、今はそれどころではない。
俺は試験官に相談した。そうだ、やってしまうまえに相談だ、考えなしに行動するのは若者の特権だがそれは違う! 俺は結構いい歳だ。
いい歳の癖に俺は泣きそうだった。声が震えていたのだ。認めざるを得ない。俺はコミュ障だった。だがここで頑張らないと。
「あの……私……詠唱魔法が使えません……その、魔力を……飛ばすくらいなら……できます」
詠唱魔法、先ほどのツインドリルは見事な物だった。実にカッコいい詠唱を披露していた。火の精霊の契約により……うんぬんかんぬん、だっけか。
なんだろう、昔の俺なら絶対覚えた中二ワードのはずなのだが、無詠唱魔法が使える現状ではまったく意味がない、無駄な言葉は頭に入らないのだ。
おっと、また現実逃避してしまった。今は目の前の状況に集中すべきだ。
俺の必死な訴えに試験官は笑顔で答えた。
「おや、たしかあなたはアール嬢、問題ありません。詠唱魔法が使えない新入生はたくさんいらっしゃいます。ここは詠唱魔法が使える貴族のご子息が受ける、まあ、言ってしまえば特別待遇の為の試験です」
なるほど、露骨に親のコネで特別待遇を得るよりは実力主義的な階級ができたほうがまだ健全だという学院側の判断なのだろう。
やや苦笑いを浮かべて試験官が言っていたのでそれも決していい風習とはいえないということだろうか。
というか聞いてないぞ、そうか、一般人はここに来なくてよかったのだ。なんだと少しほっとしていると。
この試験官はさらに俺に聞いてきた。今度は興味津々と言った感じで。
「アール嬢、詠唱魔法は使えないが、魔力を飛ばすことができるというのは興味がありますね。ぜひこの場で披露されてはどうでしょうか」
しまった。この流れは天才現るだ。ちょっと申し訳程度に力を抑えた無詠唱魔法でごまかせないかと口から出たでまかせだった。
どうしよう、汗が、あれ、ロボットの身体に汗が。そうだったこの身体は汗をかくのだ。俺の現実逃避は続く。
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