第3話 理解しすぎる魔王

 俺はロボットメイドのアールであーる。いや、少しくらいふざけてもいいじゃないか。


 なんせ二度目の転生は自分の作ったロボットだった。しかも旦那のいる。だぞ?


 普通なら修羅場だ。


 俺はこの事件を解決するために外の世界に旅に出ることを少年、いや魔王に提案したのだ。


 当然、難色を示すはずだと思った。流石にいきなり現れて、嫁さん連れて外の世界に行くとか言い出したら、どうなんだと俺だって思う。……結婚したことないけど。


 しかしだ、彼はこう言ったのだった。「久しぶりに親子水入らずですから楽しんで行ってください」とのことだった。


 理解がありすぎるぞ。それに君の嫁さんは体が乗っ取られてるんだぞ? しかも男に!


 まあ話が速くて助かる。俺もやましいことなど一ミリもないのだ。


「ところでロボさんや、君は魔力切れ寸前だね。フル稼働であと100年くらいじゃないのかい?」


(流石はマスターですね。気付いておられましたか)


 気付かない訳がない、俺が作ったのだ。まして今は俺の身体でもある。


「……少年には言ったのかい?」


(いいえ、まだです……)


「どうするつもりだったんだい? このままだと、いずれ君は動かなくなってしまうよ?」


(その時はお別れをしてもらおうと……。 マスターともそうやってお別れしましたし。自然の流れに任せるのも良いかと思いまして)


 たしかに、俺は寿命で死んだ。しかし今回の件はそれとは別だ。魔力を補給すればよいのだ。


「それは間違ってる。君は寿命で亡くなるわけではないのだ。そうだな旅の目的はまず君の魔力を回復させる方法を探すというところから始めようか」


 彼女の魔力源である【太陽の魔石】は俺が一度目の転生のときに勇者の力で作ったものだ。


 だから今この体では不可能である。


 実際には魔力供給が出来ないわけではない。簡単に言えば一人の魔導士が一日分の魔力をフルで注ぎ込めば一日分の寿命を得る。


 しかしフルで注ぐというと、供給側は魔力枯渇により下手すると死ぬ恐れがある。死なない程度に供給したところで、当然、その魔導士は一日分の魔力を失い。


 それで得られる魔力量はせいぜい数時間ぶんである。


 まあ人権を無視して複数人の魔導士の人生を犠牲にして魔力タンクにすれば解決するのだが。


 だいたいそんなのは奴隷と一緒だ、いや奴隷よりもひどい、とてもじゃないが俺には出来ない。


 

 現実的な解決策としては、うーむそうだな、自然的に魔力が溢れる場所を探すか。


 当てはないが……、まあそれを目指しての今回の旅なのだ。前向きにいこうか。



 魔王城から外にでると、そこは大森林だった。おやおや俺がいたときは洞窟ダンジョンだったが、こんなに見事な大森林が。


 俺は感動のあまり、キョロキョロと周りも見まわしてしまった。まるで観光客のような動きをしていると。


(マスター私の体であまり恥ずかしい行動は控えてくれませんか? これから外の世界にいくのですよ?)


「いやすまない。そうだな、女性の体に対応したキャラ設定を今のうちに考えないとな。ところでこの森はどうやってできたんだい?」


(はい、この森は、マスターが亡くなられた後、エルフさんがこちらに住まわれたことがありまして、それで森が出来たんですよ)


 なるほど、俺が居ない間にそんなことがあったのか。5000年の重みを噛み締めながら彼女の話を聞いていたが。一つ気に入らないことがあった。


「なに? そのエルフさんが少年の第一夫人で、君が第二夫人だと? 順番が逆じゃないのかい? こほん、わたくし、アールが第一夫人であるべきなのだわよ!」


(彼女とは仲良しだったのでその辺は気にしてませんよ、順番など問題ではないのです。あと、そのキャラ設定は気持ち悪いので無しです)


「むう、気を付けるとしよう。しかし、改めてすまないと思ってるよ。知らないこととはいえ君の身体を乗っ取ってしまって……」


(いいえ、まあいつか返して下さればいいですよ。それに私もしばらくマスターとご一緒するのも悪くありませんし。……本当にお久しぶりですねマスター)



 森を歩いていくと懐かしい家があった。いや記憶上は死んだばかりだから全然懐かしくないのだが。


 あまりのダンジョンの変化の中で変わらない我が家を見て、懐かしい気がしたのだ。ちなみに転生直後はここに居たはずだが。それどころじゃなかったので覚えていない。


 さてと、旅立つ前に荷造りをしないとな。着替えが何着か必要だ。外の世界では人間として振舞うつもりだから。いつも同じ服はまずい。


 クローゼットを開けるとそこにはメイド服以外にも色とりどりの服があった。


「おや、君もいろんな服を持つようになったんだね、さすがに5000年の月日は経つか」


(ええ、マスターはメイド服がお好みのようでしたね、外の世界ではメイドとして活動されるのですか?)


 いや、さすがにそれはまずい、俺はメイドの仕事などよくわからない。新たなキャラ設定を考えないと。


「たしかに俺の好みだが、メイドとして働くわけでもないし……、そうだなメイド服は3着ほど持って行って戦闘用の服にする。

 あとは社交用にドレスが2着、私服にはそうだなワンピース辺りがいいだろう」


(珍しくまともなチョイスですね。しかし初めて知りました。メイド服は戦闘用だったのですね)


「いやいや、これは俺のこだわりだ。さてと、あとはまあ、【異次元ポッケ】に詰め込んでおこう」



 【異次元ポッケ】まるで無限に収納できるかのような魔法のポケットのこと。


 これは俺がかつて倒した先代の魔王の遺産である魔王の剣を改造したものだ。剣自体はスコップにして、その一部をポケットに移植したもので、いわばスコップと異次元ポッケは対のアイテムである。


 スコップは現魔王が所持している。スコップは魔王の剣の能力である次元を切り裂く能力があり、掘った物はこの異次元ポッケに収納される仕組みである。


 もちろん異次元ポッケは単独で収納用として使用できる、アール専用のアイテムである。



 ではなぜそんな便利な収納用アイテムがあるのにスーツケースに服を入れたのかというと。


 怪しいからである。手ぶらでの旅はどう考えても怪しいのである。


 まあ女性の一人旅も充分あやしいが、訳ありという感じでいけばなんとかなるだろう。手ぶらだと言い訳すらできないのだ。


 さてと、今着てるメイド服もだが、一人旅のメイドはおかしい。


 私服に着替えないと。あと自分の体にもなれておく必要がある。


 自分の裸でうろたえていては怪しい。そうだ、適応しないといけない。


 俺は自分に言い聞かせながら着替えを始める。


 おや、太ももに何やら不釣り合いな物がある。これは【グロック18c】懐かしいな。あ、そうだった随分前に作ったことがあった。


「これは随分懐かしいね、そう、たしか、拳銃のようなものとして君に渡したことがあったね。ずっとつけててくれたんだね」


(はい、もう弾はありませんので使えなくなりましたが。役に立ちましたよ)


 お、おう、拳銃が役に立ったのか……。どの場面でだ。いや、それ以上聞くのはやめておこう。


 俺はミリオタなだけで、人を撃つのは怖いというかそんな経験はない。勇者として転生したときも人は殺さなかった。


 いや、亜人種は殺したけど。あれも精神的に結構きつかった。


(なにか勘違いされてますが。それで人を撃ったことはありませんよ? あくまで防衛に使っただけです)


 それなら、安心だ。作った俺がいうのもあれだが出来れば人殺しは避けて通りたい。甘いかも知れないが強者としての義務だと思うからだ。


 そう、考えながら、スライドをカチャカチャさせる。動作は問題ないようだ。暇になったら弾でも作ってみるかと考えながら異次元ポッケにしまった。


 おっと、いつまでも裸はまずい。俺は白いワンピースを着ると。スーツケースを手に持ち外へと出た。

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