神様の悪戯
魔法スキルの獲得
時は西暦二〇二二年九月某日。
この物語は何処にでも居るスーパーの店員がある力を手に入れる所から始まる。
週五日通勤とシフト制の休日を繰り替えず日々。
朝は四時半頃に起き、ご飯を食べて身だしなみを整えて出社。
七時前には店舗に着き仕事を始める。
そして毎日同じように仕事をすること十一時間。休憩時間も含めると拘束時間は十二時間になる。
店を出るのは十九時移行で、家に着くのは二十時頃だ。
朝四時半に起きるため、寝る時間は遅くても二十二時半までには寝たい。
その為に仕事の有る日は、自由に出来る時間は二時間程。だが、晩ご飯にお風呂に入るとその貴重な二時間も大半は使ってしまう。
実質的には三十分程の自由な時間があるだけだ。
そんな毎日を過ごしているため、シフトで入っている休みの日は疲れた身体を癒やすために惰眠を貪るように過ごす。
家を出るのは買い出しや、身体のケアをして貰うための整骨院に通う時ぐらいの物である。
今の仕事について早十数年。
立場は少し上がったが、給料は其程変わらず。
本来であれば立場が上がったことで、やらなくて良い仕事もやる日々だ。
今はまだ三十半ばという年だから続けていられているが、このまま年を取ったら同じ事は出来なくなるだろう。
そうなれば、周りからの評価は無能となる訳だ。
そんな未来を予想出来ながらも、日々の生活の為に給料を貰わなければいけないので、仕事をし続ける日々が無為に過ぎていく。
そんな日々を過ごしている中、午前の品出しが終わり昼休憩を取っていると、店長から声を掛けられた。
「柳田君。ちょっと良いかね?」
「はい、何でしょう店長?」
休憩室でお昼ご飯を食べようとしている柳谷に声を掛ける店長。
「これ、本年度分の能力検査の用紙ね。
今度の休みの日にでも適当な神社で受けてきてね」
「あー、もう、一年経ちましたか、解りました。
今度の休みの日に行ってきます」
「はい、じゃこれ、よろしくね」
何でも無い日常。
神から能力を与えられることがある世界での一般的な日常が繰り広げられいた。
数日後柳田は一人で暮らしているアパートから程近い神社に来ていた。
「すいません、能力の鑑定をお願いしたいのですが」
「はい、では此方の用紙に必要事項の記入をお願いします」
柳田は渡された用紙に生年月日等を記入し担当の人に渡す。
「では、準備が整うまで少々お待ちください」
その後恙なく宮司の手により能力鑑定が行われた。
「柳田さん此方が能力鑑定の結果になります」
そういって手渡された一枚の用紙。そこには今まで柳田が保持していなかったスキルが記載されていた。
柳田がそれを確認するのは見て取った宮司の人が言葉を続ける。
「それで柳田さんは新しいスキルを獲得しましたので、近日中に能力を扱うための研修を受けてもらう必要があります。
この研修は出来得る限り早く受けて欲しいのですが、都合の良い日は有りますでしょうか?」
「では、三日後に休みがあるのでその日でも良いですか?」
「はい、解りました。では此方の用紙に研修の希望日と必要事項の記入をお願いします」
「解りました」
柳田は渡された用紙に必要な事を記入するとそれを宮司に手渡す。
「はい、ありがとう御座います。
また、今回新たに取得しましたスキルは研修が終わるまで一切の使用を慎んで下さい。
研修が終わる前に使用を致しますと、どの様な用件での仕様でも罪に問われて島可能性がありますので、ご注意下さい」
「解りました」
「では、私共の方で対応は以上となります。
研修自体は区の施設の方で行われますので、当日は予定時間に遅れないようにお気をつけて下さい」
「はい、今日はありがとう御座います」
「いえいえ、柳田さんこそお疲れ様でした」
そんなやり取りをした後柳田は帰路に就き家へと辿り着く。
そこで改めて渡された用紙を見てみるとそこには、新たに獲得したスキルという項目に火球という文字が記されていた。
それを見ながら柳田は「さて困った」と思いながら自らが勤める店舗へと電話を掛けた。
「はい、いつもお世話になっております。ゴリンピック秋葉原店店長の斉藤です」
「もしもし、お疲れ様です。柳田です」
「おー、柳田君どうしました?」
「実は、先程行った能力の鑑定の結果攻撃系スキル火球を取得してしまいまして」
「それは…困りましたね~。
曲がりなりにも接客をしている人間が、攻撃系の魔法スキルを取得しているのは問題です。
解りました、取り敢えずこの件は一度本部に上げます。柳田君は本部から返答が帰って来るまでお休みで。」
「はい、解りました。因みに休みは有給扱いですか?」
「そうですね、本部との調整次第となるでしょうが、恐らく有給扱いでの休みになるでしょう」
「そうですか、解りました。では私は連絡が来るまで待機と言うことで」
「そうですね、長期休養です。ゆっくり休んで下さい」
電話を切った店長は、柳田同様に「さて困った」と思いながら本部へと電話を繋いだ。
三日後柳田が受けた研修内容は、攻撃的な魔法スキル保持者が法的にどの様な立場として扱われるかと言うことからだった。
詰まるところその身一つで銃器を保持しているのと同様、能力が上昇したならばそれ以上の効果を発揮する個人と言うことで、法律的に攻撃的な魔法スキル保持者は厳重に管理される…が、近年の個人の権利の尊重という観点からこれらは昔に比べれば大分緩和されているという説明を受けていた。
前科がなければ特段として、法的な束縛を受けることはない。勿論その力を安全に運用をしていることが前提となる話しではあるが。
そんな訳で、研修の前半は法的なあれこれを説明する事に終始したのであった。
そして後半は実際に魔法を発動する実習が行われた。
魔法スキルを獲得したとは言え初めての魔法行使。
複数名の防御系魔法スキル保持者立ち会いの下、安全を確保した上での魔法発動である。
防御系魔法スキル保持者が立ち会っているとは言え、余程のことがなければ問題は起こりえない。
基本的に問題が起りうる場合とときは、研修を受ける人の性格によるところが多いのだから。
つまりは、研修を受ける人の安全を確保するための人員配置ではなく、研修を受けている人が何かした場合に対応するための布陣であったのだ。
そして、柳田は特に問題なく魔法を発動させ、無事研修を終えることが出来た。
こうして晴れて柳田は、国に認められた魔法スキル保持者として認定されることになったのだ。
後の問題は、職場でどの様な扱いを受けるのかだが、これに関しては本部の対応待ちである。
先にも柳田と店長が会話していた通り、国の認定を受けているとはいえ、攻撃魔法スキルを持っている人が接客業を行うというのは、やや問題視されている世の中であった。例え現在表向きには個人の権利の尊重が謳われているとしてもだ。
こればかりは何ともしがたい問題であった。寧ろこれを問題として捉えている人々からしてみれば、何故こうも安易に攻撃的な魔法スキル保持者を野放しにしているのかとデモ活動が起る程には、これを問題視し活動している人々が相応にいる状態だ。
そんな事情もあり、柳田は今後自分がどの様に会社に扱われるのかと戦々恐々としながら日々を過ごすのであった。
とはいえ、特にすることもなかったので、滅多に取れない長期休暇を満喫し、趣味のゲームに没頭する日々を送った。
一方その頃柳田が勤めている会社の重役が一堂に会して頭を抱えていた。
「スーパーの店員が戦闘スキル持ちというのは、外聞が悪い」
「だからといって、柳田だったか、この人を解雇するというのも問題になるだろう」
「そうなると接客から遠退かせる必要があるが」
「他の部門も難しいのではないか?」
「確かにいっぱんてきにな感覚として直ぐ隣に魔法を使える存在が居ることは気が気では無いだろう」
「それは確かに、自衛の手段など一切持ち合わせていないのだからな」
「となるとだ、彼一人で完結するようにすれば与野ではないか?」
「ほう?それはどんな方法でかな?」
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