俺たち「連星コンビ」
大田康湖
第1話 サダミツ、後輩のトキヒコにつきまとわれる
西暦2154年5月11日。太陽系警備隊所属
「先輩、キョウゴク先輩!」
ドアの向こうからトキヒコ・トリイの騒がしい声が聞こえてくる。休息中のサダミツ・キョウゴクはベッドから飛び起きた。肩までの長髪をかき上げ、しぶしぶドアロックを解除するとトキヒコが飛び込んできた。小柄で童顔のため25歳には見えない。
「通路でガアガア騒ぐなよ。戦闘シミュレーターを終わらせたら起こしに来いって言ったろ」
「だから、終わったんです」
胸を張るトキヒコ。
「まだ30分も経ってないじゃないか。大体、俺だって最高記録が40分ちょっとなんだぞ」
「そんなに疑うんなら、こっちへ来てください」
トキヒコはサダミツの手を引っ張るとブリッジへ歩き出す。長身のサダミツが小柄なトキヒコに引っ張られているのはまるで兄が弟に引っ張られているようだ。
二人はブリッジのコンピューターの前に立っていた。確かに、シミュレーターの設定はサダミツがセットした時のままだ。だが画面には「TIME 00:23:07 最高新記録」の文字が光っていた。サダミツは半ばやけ気味にトキヒコに命じる。
「分かった、分かったよ。分かったから寝室に行ってろ。俺が呼ぶまで来るんじゃないぞ」
「ハーイ」
右手を上げてブリッジを出て行くトキヒコを見送ったサダミツは、どっかとコンピューターの前に座ると命じた。
「シミュレーターのリプレイを開始してくれ」
哨戒艇によるアステロイドでの戦闘を想定したハードモードだ。ディスプレイに映し出されるリプレイは、トキヒコの非凡さを改めてサダミツに突きつけた。
(さすがは養成学校首席だけあるな)
そう思いながらも、サダミツは胸の中のしこりが膨れ上がってくるのを押さえられなかった。
(それもこれもトキヒコのせいだ。あいつがやってきてから、俺の生活はメチャクチャだ)
サダミツの心は、記憶の中に飛んでいた。
サダミツ・キョウゴク、日本風に言えば「
ところが、10日前に新しい部下としてトキヒコ・トリイ、日本風に言えば「
「せ・ん・ぱ・い! お久しぶりです!」
「お前など呼んでない!」
思わずサダミツは言い放ったが、トキヒコはかまわずサダミツの前に立つと誇らしげに話しかけた。
「ずっと会えなくて寂しかったんですよ。これからまた一緒に頑張りましょう」
二人の関係はまさに「腐れ縁」とでも言うべき物だった。なにしろ小学校から大学まで、サダミツの行くところには必ずトキヒコがくっついてくるのだ。28歳のサダミツとは3歳差だが、何回か飛び級をしているため実質1学年下になる。口の悪い友人たちは
確かにサダミツもトキヒコの頭脳には一目置いていたし、天文や地質、化学の話を
この時は今まで4日間艇内で顔をつきあわせてきた後だったので、ため込んでいた物がもはやサダミツの頭には収まりきれなくなり、全身を駆け巡り始めた。
(畜生、なんであいつがやってきたんだ。折角の養成学校主席なんだから本部勤めでもしてればいいのに。第一、本部も本部だよ。俺の能力に見合う部下を送ってくれってんだ。あーあ、これからずっとこんな日が続くのなら、一人の方がずっとましだったよ)
サダミツのぼやきは、通信機のコール音で遮られた。
(ひょっとして、トキヒコを本部に戻すって通信だったりして)
淡い願望を乗せて回線をつないだサダミツは驚いた。モニターに映し出されたのはいつもの火星基地通信員ではなく、整備員らしき作業服姿の女性だった。怯えきった顔つきで、背後から銃声らしき音や叫び声が聞こえる。
『緊急通信、火星基地が『改革隊』と名乗る反乱部隊によって占拠されました。至急救援を……』
その瞬間、名状しがたい叫び声と爆発が入り交じり、通信は途切れた。サダミツにはまだ、事の次第がつかめなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます