第44話 獣人の里2

アインさんはどこからか黒板のようなものを持ってきた。しっかりしすぎだと思う。見た目は12歳ぐらいなのに僕よりしっかりしてる。


「まずは、一つ、これは、徹さんになんですけど、徹さんは知らないかもですけど、多分私の方が年上です。人間は獣人族と比べると歳を取る速度が倍程度なので、逆の方が分かりやすいですかね。獣人族は人間の1年分の変化を大体2倍の時間かけて行うので、多分私のほうが年上です。別にどうでも良いんですけど。まあ、精神年齢は微妙ですけど、兄とかは、特に。多分知らないんだろうなって思ってたんです。」


まじで、つまり、いやこの国には獣人族の感覚でほとんど若い人しか残ってないけど、僕より年上はたくさんいるってこと。いや、どおりでしっかりしているのか。なるほどな。

「…………それで、いろいろ聞きたいんですけど。」

スルーすることにした。


「……そうですね、お二人とも、何故かは知りませんけど。この大陸のこととかを全く知らないようなので、まずはそこら辺から説明させてもらいます。」

するとアインさんは持ってきた黒板のようなものにいろいろ書き始めた。


「では、まず。この大陸でエルフと人間は凄まじく嫌われています。世界樹から遠ざかれば遠ざかるほど嫌われているので、中央大陸を移動するときはそこらに気を付けないとですね。そもそも中央大陸であまり見かけませんが、場所によっては普通に人攫いにあいます。めちゃくちゃ危険です。」

エルフはよく知らないが、人間は人さらいとかそういうところか?


「まあ、一応どうしてかを聞いても良いですか?」


「まずは、エルフは400年よりさらに前、まあ正確な時期は情報は何故か残ってないので、正確な時期は分かりませんけど、中央大陸を蹂躙して回ったからですね。まあ、その中心地が世界樹の近くにあるエルフの里だったので、世界樹に近い場所では比較的暴力的な行為はなかったらしいですけど。離れるほどに…………まあ、」


そういえば、ルナが道中に話していた、迷子になってた頃に話していた過去の話で………ルナを見るとバツが悪そうな顔をしていた。ああ、多分、これ関係あるんだな。


「それで、えっと人間は、世界樹って中央大陸の中心でしたよね、確か。ってことは沿岸部は………」

そう僕が言うとアインさんは、こっちを見て


「まあ、徹さんの予想は残念だから大方当たっていて、中央大陸の沿岸部特に、勇者大陸に近い場所では、よく人攫いが起きています。なので、まあ多くの人は人間に対する恨みは深いです。まあ、人間が中央大陸にいるのが珍しいので、徹さんは、獣人のふりでもすれば、バレないと思いますよ。ルナさんは…………どうしましょうか?」

なんというかリアルだった。異世界でもどこでも人間というのは結局自分も含めて愚かなのだな、そう思った。…………でも、だったら。


「じゃあ、エルフは何処にいるんですか?」

人間は多くが勇者大陸にいるのは分かる、だから中央大陸にいないのも分かる。じゃあ、エルフはどこにいる?なぜ、ルナはどうしようも無いんだ。


「それは、分かりません。少なくとも元々エルフの里だった世界樹の近くにはずっと誰も住んでません。ですが、エルフそのものはたまに確認されているので、中央大陸で多分隠れながら生きているのだと思います。あと、エルフは、エルフの見た目は中央大陸では有名なので、誤魔化し方が私にはすぐに思いつきません。………まあ、一つあると言えばあるのですが。」

アインさんは下を向きながらそう呟いた。あまり良い方法でないのだろ。なら中央大陸のダンジョンは諦めるか、つっかって来る人を全部返り討ちにすればいいだけだ。


「方法が一つあるんでしょ。言ってください、アインさん。」

そう少し下を向いているルナが呟いた。


「それは、………その、中央大陸でたまに現れるエルフは…………ほとんどは人攫いに捕まった人、つまり奴隷なので…………」

アインさんは、そうゆっくりと言葉を詰まらせながら、呟いた。彼女の言いたいことが分かった。でも


「私は、大丈夫ですよ。徹。大丈夫です。手錠とか首輪とかそういうのは慣れているので、それでいき」

それに、その提案を察したルナは、それを承諾した。

でも、絶対にそんなのはダメだ。


「嫌です。」


「ありがとうございます、徹。でも徹。そっちの方が安全に動くことが出来ますし、それに形だけですから、大丈夫ですよね。これで行きましょう。」

ルナがそう言って優しく微笑みそう言った。


「嫌です。たとえ形だけでも、嫌です。僕はルナと対等な関係でありたいんですよ。だから、嫌です。」

僕の決意は固かった。


「……徹、ちゃんと私を守ってくださいね。」

ルナが折れたことでこの提案を実行することは無くなった。でも意味が良く分からない。


「僕に守られなくても十分ルナは強いので一緒に助けあいましょ。」

そう僕が言うとルナは何故かこの上なく笑顔だった。なんでだろう?笑顔なのに何か殺気のようなそんな何かを感じた。何故かアインさんの乾いた笑いも聞こえた。


「「そういうことじゃないでしょ」」

そんな声とともに何故かダブルパンチをくらった。意味不明、理不尽の極みである。


「ふう、まあ私がこんな変なことを言わなければよかったんですもんね。責任を持って、安全な道を調べておきます。ごめんなさい、ルナさん。」

アインは僕をぶん殴ったことを悪びれることなく、ルナにだけ謝っていた。


「大丈夫ですよ。アインさん。」

そんな風にルナも返答していた。僕が殴られた理由を抗議しようと声をあげようとした時にドアが開いた。


「団長代理、謎の魔物が現れました。我々では対処出来ません。」

見たことのない人だったが多分騎士団の人だろう。


「ええ、死体が見つかったと思ったら、次は魔物、もう、兄が使えない時になんでこんなトラブルが起きるわけ。…………というわけで、話の続きはまた後で」

何かトラブルが起きたらしい。てか死体が見つかったって怖すぎでしょ。謎の魔物か、人手が足りていない、僕らはお金を持ってない。なるほど。


「アインさん、僕とルナで手伝いますよ。」


そう僕が呟くとアインさんは

「ありがとうございます、助かります。」

そう言って笑顔になった。


「お金をいくらもらうかは後で相談させて貰います。」

そう僕が言うと少し笑顔が減った。


「……まあ仕方ないですね。後で払いますよ、言っておきますけど、この里お金は対して持ってないので期待しないでくださいね。」

まあ、別に大金持ちになりたい訳じゃないから、それは良いよ。


「徹、お金を取るんですか?けち臭くないですか?」

そう言うルナに


「一文無しなんですから、僕ら、そんなことはないです。さあ、いきましょう。」

そう声をかけた。冷静に考えてて少し恥ずかしかった。



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