第25話 決着

 尻餅をついた状態でルディは両手を上げる。

「わ、分かった!降参だ!何が目的だ?金か、地位か?金ならいくらでも払うぞ!それに、ボクは学院長にも顔が利くから、頼めばそれなりの地位につくことも可能だ!」


 わめき散らすように交渉条件を持ちかけるルディを、俺はゴミを見るような目になる。


「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけれどさ。学院長とそんなに仲がいいの、お前?」

「あ、ああ。そうだとも。このパルシア魔法学院には、我が家が多額の寄付をしているからな。たとえ学院長といえど、ボクには逆らえないのさ」

「ふーん。それで、あんな年端もいかない女の子を散々いじめていたんだ」

「女の子?ああ、セレスティーヌのことか。そうさ、あんないけ好かないビッチ、死んで当然だろう?何が飛び級だ、何が成績優秀者だ。ボクのプライドを破壊しやがって・・・・・・」


 それから、ルディは口にするのも憚られるようなセレスティーヌの悪口を延々と述べ始めた。


 その醜い様子を目にしながら、俺は悟った。ああ、もうコイツは駄目だな、と。


 ひとしきり悪口を吐き出したルディは、俺に向けて言う。

「なあ、キミもこっちにつかないか?キミだって、セレスティーヌに身体売られて、それで仕方なく味方しているとかそんな所なんだろ?だったら、ボクの側について、一緒にセレスティーヌを成敗――」

「ふざけるなっ!!!」


 自分の内のどこにそんな力があったのかと驚くほどの大きな声が、俺の中から発せられていた。


 気がついたら、俺はルディの胸ぐらを掴んでいた。


「飛び級?成績優秀者?は、くだらない。お前にセレスティーヌの何が分かるんだって言うんだよ。あいつがどんな逆境にも負けないで、どれだけ努力してきたか、少しでも考えたことはあるのかよ?そりゃ、悔しいとかそういう気持ちはあるかもしれない。しかし、だからといって、ここまでのことをするか?セレスティーヌを誘拐して、挙げ句の果てに殺す・・・・・・しないだろ、普通」

「うるさい、黙れ黙れ黙れ!お前にボクの何が分かる!!」

 まるで駄々っ子のようにルディはわめき散らす。


「分かるかって?うん、まあそうだな、分からないかもな。だけれどさ、お前が少しはセレスティーヌのことを見習おうとか、そんな態度だったら、こういうことにはならなかっただろうな」

「は?ボクがセレスティーヌを見習う?冗談も大概にしてくれ」

 あー、もう。全然会話がかみ合わないな。


「あのさ、セレスティーヌは超上級魔法を難なく使いこなす同年代の俺を前にしても、てめえみたいに嫉妬なんかほとんどしなかった。むしろ、一緒に頑張っていこう、て言ってくれたんだよ。俺と仲間になろう、てさ。この世界にきたばっかりで心細さも感じていた俺が、その言葉にどれだけ救われたと思う?」

「きいぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 ルディは最早言葉にすらなっていない金切り声のような雄叫びをあげる。


「お前も、お前もか!お前も、ボクをバカにするんだな!ならば、まずお前から葬ってやる!喰らえ、【破光輪】!!!」


 うわ、こいつゼロ距離から攻撃魔法を繰り出そうとしている。死なば諸共、なんだろうな。じゃあ俺も遠慮はしない。


「【光雷神の裂波斬】」

 ピカァァァっと俺の視界が真っ白な光に包まれる。瞬間的に、静寂が訪れる。だがそれから凄まじいまでの衝撃波が俺を襲う。


「うおぉぉぉぉっ!」

 俺はなんとかギリギリセーフなタイミングで【防御魔法】を発動させて、衝撃波からのダメージを受け止める。


 だが、ルディはそうもいかなかったようだ。 俺とルディ、二人の渾身の攻撃魔法が衝突した結果、膨大なエネルギーの衝撃波が発生したのだろう。ルディの身体は、まるで風に舞う木の葉の如く、宙高く軽やかに飛んでいった。


「ぅゎぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」


 ルディの小さな叫びが耳に残る。だがそれも間もなく聞こえなくなる。ルディの姿も学院内に広がる火炎の波の中へと消えていった。


「これで・・・・・・勝ったんだよな?」


 俺は今ひとつ実感の湧かぬまま、勝利したことを認識する。


「いや、そんなことよりセレスティーヌだ。セレスティーヌは大丈夫なのか」

 俺は【瞬間移動】を発動させて、学院長室へと行く。


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