全三話の中で読者の感情を大きく揺さぶる、とても印象的な作品でした。
　独特のリズムを持った巧みな文章で、淡々ながら丁寧にサイモンさんの心の動きや所作の一つ一つが描写されていて、現実とはかけ離れたＳＦの世界観でありながら自然に没入していました。
　第一話の仄暗くどこか物悲しいディストピアに引き込まれ、第二話の優しく温かいエメさんとの交流に心和んだかと思いきや、第三話序盤で明らかになる真実による衝撃からの、中盤でのサイモンの声にならない悲鳴が聞こえるような凄惨かつ圧巻の殺戮描写、切なくも美しさを感じさせるラスト――そしてここから、まさかのもう一段階どんでん返し！　一つの短編作品の中で、これだけ落差の激しい感情のジェットコースターに乗ることは稀有なのではないでしょうか。
　不思議なことに、読者としてずっと寄り添ってきたはずの「サイモン」よりも、ラストシーンに出てくる「サイモン」にこそ、幸せになって欲しいと感じられてしまいました。「大人しく」、ではなく、「安らかに」眠ってくれることを祈ります。
　面白い作品をありがとうございました！

これはまた賛否の別れそうな結末に驚かされました。ただそんな結末を目にしてなお、思い浮かんだのは「可哀想なサイモン」のイメージ。二重の意味で作られた存在であるから可哀想と感じた気もするのですが、私自身にもよくわかりません。振り返ってみれば息づかいまで伝わりそうなほど細かに心の動きを描いているのに、周囲の輪郭はぼんやりとしているような、曖昧で想像の余地に満ちた世界観、登場人物たちだったように思えます。非常に興味深い作品を、ありがとうございました。

良かったです。
とても丁寧な作品でした。
『想像力を無限に実体化するエンジン』などのサービス精神溢れるガジェットも良かったです。

　最初は宇宙時代に舞台設定をしての蟹工船かなと思いましたが、密航者の娘との心のふれあいを重荷に感じて葛藤する辺りでは叙情ＳＦにまとまってきたなあと思い、しかし三話目の頭では、こりゃ攻機だと思い直し、そこから後のどんでん返しの連続になると、もうどう捉えていいものやら　笑。いささか荒っぽいセカイ系で一旦終わらせた後に、最後にメタで締めたのは、作者ご自身の照れ隠しなのかなと失礼なことを考えたりもしました。ただ、個人的にはナンセンスオチにしてしまうのはもったいないような気もして……などと書いてしまうのは、それなりに入れ込んで一気読みした私自身の照れ隠しであるかもしません。
　あるいは「rat rat」というタイトルが暗示するように、すべては支配者、もしくは製作者の意のままに悲劇を演じる、末端のアクターの悲哀が本作のテーマということでしょうか？　いずれにしても、ＳＦと呼ぶよりは幻想文学に近い、人間(の心を宿す者)の内面の大きなうねりのようなものを描いた作品であるように感じました。怪作と呼んでよろしいかと。楽しませていただきました。