SS 人生で最高の誕生日
※注意※
このSSは、『第32話 ちょうだい?』で初めての夜を経験した二人の、その事後を描いたお話です。
「わぁー……すっごいなぁ。こんな感じなんだ」
ベッドに仰向けで寝転がりながら、先輩は使用済みのコンドームをつまみ中に溜まった液体を眺めていた。
水風船で遊ぶように指の腹で揉んだり、軽く指で弾いたり。更には中身を手の上に出そうとしたため、俺は急いで奪い取って口を縛りゴミ箱に放る。
「ちょっと、何するの?」
「それはこっちの台詞ですよ。や、やめてください。綺麗なものじゃないんですからっ」
「……私のは散々触ったくせに」
「い、いや、そりゃあ先輩の身体に、汚いとこなんてないので」
「糸守君にもないよ! 次は私もする! 私ばっか恥ずかしい思いするの、負けたみたいで嫌だもん!」
ぶぅーっと頬を膨らませながら、隣で横になる俺の腕にしがみついた。
黄金の瞳と目が合い、ぱちりと瞬いて、やわらかな熱を灯す。それが可愛くて、愛おしくて、そっと唇を落とす。
「……ねっ、腕枕して。私、憧れてたんだ」
先輩は頭を持ち上げて、ここに腕を差し込むよう言った。
それに応えると、俺の腕に頭を預けてニヘヘと笑う。やわらかくしっとりとした髪の感触と彼女の重みが心地よくて、こっちまで自然と頬が綻ぶ。
「あの……ど、どうでした? 痛みとか、だ、大丈夫でしたか?」
「んー、思ったよりは平気だった。糸守君がいっぱい優しくしてくれたからだよ」
「そ、そうですか。安心しました。……でも、俺ばっかりいい思いしてすみません」
お互いにこれが初めてだ。
最初から全て上手くいくなど思っていないが、それにしてもギブとテイクの割合がおかしい。痛みがない俺の方が、圧倒的に得をしている。
「ていっ」
「うが!」
思い切り鼻に頭突きをかまされ、俺は悶絶した。
先輩は少し怒ったように眼力を強め、ぎゅっと俺の手を握る。
「謝らないでよ。私の初めてを奪ったんだから、もっと堂々としてて!」
「いや、でも……」
「それに私、嬉しかったよ。ちゃんと糸守君が、私で気持ちよくなってくれて」
艶っぽい笑みを浮かべて、俺の胸に額を擦り付けた。猫が愛情を表現するように。
「……ねえ、ぎゅってして? 好きっていっぱい言って?」
「は、はい……! 好きです……大好きですよ、先輩」
「……私も好き。好き過ぎて、頭パンクしちゃいそう……」
先輩を抱き寄せて、足を絡めて、体温を交換して。
密着した肌と肌の間にじわっと汗が滲むが、不思議とまったく不快感がない。むしろ、ずっとこうしていたいと思う。
「……変な感じ。お腹の中、まだちょっと違和感ある」
「えっ。だ、大丈夫ですか!?」
「声デカ過ぎ。心配しなくていいよ。……何ていうか、まだ糸守君のが入ってるみたい。ポカポカして幸せだなぁ」
愛おしそうに下腹部を撫でて、その指先で俺の鼠蹊部に触れた。
淡い快感に襲われるも、これ以上はいけないと情欲を押し殺す。
その顔が面白いのか、先輩はコロコロと笑う。
「どうしたの? また襲っちゃう?」
「し、しませんよ。今日はもう、痛がる先輩を見たくないんです」
「そっかぁ。でも私、申し訳なさそうにしながらいっぱい気持ちよくなってる糸守君見るの、すごい興奮したんだけどな……♡」
蠱惑的な吐息が耳にかかり、甘美な誘惑に負けそうになる。
……だ、ダメだ。負けるな、俺。
あんまりがっついて、身体目的とか思われたくない。
「おふざけはこれくらいにして、今日はもう寝ましょう。先輩、疲れましたよね?」
「そりゃ疲れたけど……やだ、まだ寝たくない。もっと糸守君とお喋りするのっ」
「心配しなくても、俺は明日も一緒にいますよ。……明後日も、その先もずっと、好きなだけ俺を独占してください」
「だから、今日はもう休みましょう」と続けて、布団を引っ張り露出していた肩を隠した。
先輩はこくりと頷き、すっとこちらに身を寄せて口元を布団で覆う。
「今日はありがとね。人生で最高の誕生日だった」
「その台詞、来年も言って貰えるように頑張ります」
「えっ、次はプロポーズするの?」
「き、気が早過ぎますよ! いきなりハードル上げないでください……!」
わかってやっているようで、こちらを覗く瞳がニヤリと笑った。
「……一つ、お願いしてもいい?」
「一つと言わず、いくつでもどうぞ」
「私が寝るまで、お腹撫でてて。今夜はずっと、糸守君を感じてたいの」
「わかりました」
先輩は瞼を閉じ、意識を眠りへと傾けた。
その額に口づけをして、「おやすみなさい」と囁く。先輩から同じ言葉をもらい、そっと彼女のお腹に手のひらを置いた。
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