逃亡
私は祖父母に引き取られることなくいつも通りの生活を送っていた。
母親は相も変わらず私を奴隷のように扱った。
学校から自宅に帰宅、お風呂を沸かし食事の準備とお茶を入れ母親を起こす。
祖父母に何かを言われたのであろうが自分を変えることなどできない人だった。
私の着ている服や下着はいつもボロボロ。
母親は自分の洗濯はするのだが、私や姉の洗濯はしてくれない。
だからこそ私の服がどれだけボロボロであったとしても気にはならない。
学校で遊ぶとジャージの膝が破れたりするものだが、その穴を祖母が継ぎ接ぎしてくれた。
膝の部分などまるで戦時中のようなデザインになっていて、ホッカイロぐらい大きな継ぎ接ぎだった。
下着も汚らしい、白いブリーフは黄ばんでいる。
そんな中、学校で身体測定があった。
私は学校のトイレに入り、鍵をかけ自分のブリーフを見てみた。
どう見ても汚らしい。
隠れていようにもそうはいかない。
私の順番だ。
誰も何も言わないのだが私はひどく恥ずかしかった。
お金はそれなりにあったはずだが「ネグレクト」が私を苦しめた。
いよいよ私は祖父母の家の方がよくなってきたが、幼少の私でも母親のことが心配
だった。
土曜日の夕方には祖父が私と姉を迎えに来ていたのだが、その頃から大きな段ボールに入ったお菓子を持ってくるようになった。
よほど心配だったのだろう。
私には学校に友達と言えるような人などいなかったが、祖父母の家に通っていくうちに祖父母の家の近くに友達が出来た。
この中に親戚が2人いた。
プロレスごっこが好きな年上の兄貴分。
親戚の家は祖父母の家のお向かいさんだったので気軽に遊びに行けた。
プロレスごっこではいつも泣かされていたが一人でいるよりは楽しかったのだ。
長期休みに入ると朝4時からカブトムシをとりに出かけ、自転車で遊んだりもした。
休みの日に近い年の誰かと遊ぶという経験の始まりだ。
そんな楽しい時間を壊してしまう出来事が発生する。
両親の店が定休日の夜、私と姉は茶の間に正座をさせられた。
両親は真剣な表情で「お母さんとお父さん離婚をするからどっちについていく?」という当時の私には離婚などわかるはずのない言葉を投げかけてきたのだが、おそらくもうみんな一緒にいることができないのだと察した。
私は大声で泣いた。おそらく現在に至るまでで一番泣いたと思う。
初めて両親にハッキリと自分の意見を言った。
「みんなで一緒にいたい」声を震わせ、声が詰まりながらも何度も訴えた。
その日は何も起こらずに終わった。
しかし、そのままで済むはずもない。
その後日、学校から帰ると母親は起きていた。
いつもは私が起こしているのだから不自然に感じる。
母は店にも行かずに家にいたのだが何事も起こらず就寝時間が訪れた。
ところが真夜中、私は母親に起こされる。
姉が起きないように小さな声で母は「リュックに大事な物を全部入れなさい」といってきた。
私は祖父母の家で作った宝物の剣と、眠るときに隣に一緒に寝ていたヨレヨレになったキティちゃんのぬいぐるみをリュックに詰めた。
すると母は大きなカバンを片手に私の手を引き家を出て歩き出した。
私は「どこに行くの?」と聞くと母は「もう帰ってこないから」とだけ言い、真夜中の道を歩いていく。
私はもう自分の力ではどうにもならないと悟った。
大人の足でも20分はかかる場所に在来線の駅があったのだが、ひたすら歩き駅に着いた。
真夜中なので駅の入り口は閉まっていたので入り口付近通路のベンチに腰を下ろした。母親は父親だけではなく姉も捨てようとしている。
私は姉がかわいそうだと心の底から思った。
荷物の準備の速さから考えると計画された逃亡だったのだろう。
どれだけの時間がたったのだろうか。
突然母親が泣きだした。
静まり返った通路はまるで山彦が居るかの如く響き渡る。
「やっぱりお姉ちゃんを置いていけない」と口にした。
思い直したのか自宅に引き返したが、私は母親のあらゆる本性をまざまざと見せつけられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます