暴力
私は視力が悪かったことで黒板が見えない。
そうなると教えてもらっていることを理解が出来ない。
どんどん落ちこぼれていっているのだが、その時点ではそうは思っていないのが現実であった。
ある日の夜、私と姉は寝ていたのだが何やら茶の間で鳴き声がしている。
私はゆっくりと布団から起きて、茶の間へ続くふすまを静かに開けた。
オレンジ色の豆電球だけが付いた状態で、母親が泣いている。
私は心配になり「どうしいたの?」と聞くと母親は「お父さんに殴られた」と答えた瞬間、母親の前歯は何本も折れ、左目は紫色に腫れていた。
私は絶句した。
しかし幼い私には欠ける言葉も解決方法など持ち合わせていない。
それからしばらく父親は家には帰ってこないで店に寝泊まりし始め、母親は歯医者に通い歯を治した。
だいぶ時間がたったころだろう、母親はまた店に行きだした。
どうやら何かしらかの解決はあったのだろう。
それでも父親は時折暴力を振るっていた。
母親の怒りは、姉と私に向けられ始める。
ここからが虐待の始まりだ。
ある日、学校から電話が入る。
どうやら姉の担任のようだ。
母親はひたすら謝っている。
話が終わり受話器をたたきつけ母親は姉の部屋をあけて「お前なにやってんだよ!」といった次の瞬間、二段ベッドの柱に吊るしてあった白のフィギュアスケートの刃で姉の頭部を殴りつけた。
姉の頭から鮮血が飛ぶ。
私は幼いながら「死んだな」と思った。
正気を取り戻した母親は病院に連れて行くわけでもなく、湯沸かし器に姉を連れていき血を洗い流している。
とにかく血が止まるまで布で押さえているだけだ。
姉はぐったりしているが、なんとか血は止まった。
その後日、今度は私の振る舞いが癇に障ったのか、自宅の裏に川が流れていたのだがそこに髪を引っ張られながら川に連れていかれ私の足首を持ち、川に逆さづりにされ「今度やったら川に落とすからな」と脅された。
少しでも手が滑ったら私は死んでいた。
掃除機の棒で殴られ、湯飲み茶わんを至近距離から投げつけられ、こんなことは日常茶飯事だった。
秋が過ぎ冬が来た。
大雪が降った日、私に激怒した母親は薄着で裸足の私を玄関を開けて胸のあたりを前蹴りし「帰ってくるな」と締め出した。
私は「もう帰れないんだなあ」と雪が積もっている中、裸足で近くの倒産した魚の加工工場に向かった。
そこには魚を塩水につけておく自宅の浴槽の2倍大きい錆びた鉄の容器があった。
蓋もついていて、それを思い出した私は寒さを凌ぐ為にその容器に身を潜めた。
かなりの時間が過ぎたころ「どこ行ったの~、お母さんはお店に行ったからおうちに帰っておいで」と姉の声が聞こえてくる。
おそらく雪にかすかに残った私の足跡をたよりに探しに来たのだろう。
私は凍死せずに済んだ。
もし足跡がなければそこで終わっていたのかもしれない。
このことから私は母親の顔色を見て怒らないようにビクビクした生活を送るようになる。
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