第五章 転換期
第一話 新しい関係
「邪魔だよっ!」
ポニーテールがフリフリと動かしながらも未羽は街道のど真ん中を歩いていたゾンビを蹴りとばす。蹴られたゾンビはボーリングの玉にように吹き飛び、ゾンビの群れ達に突っ込んでいくのだった。
「なぁ、何でゾンビがあの壁の中から出てきてるんだ?」
街は大パニックに陥っていた。人々はゾンビに襲われ、店は暴漢達に荒らされた跡がところどころに残っている。そこかしこに死体は新たなゾンビとなり、次の獲物へと歩き始めていた。
守が先日お世話になった民家で観たテレビの映像では、頑丈な壁が用意されていた。周囲には自衛隊も配備され、警戒している様子も映されていた。あれだけ管理されていればそう簡単にパンデミックは発生しなさそうだったが、現実では既に感染が拡がってしまっている。守にはどんな状況になればこんな惨劇になるのか、想像も出来なかった。
「えっと……ねぇ?」
未羽は気まずそうな表情でナナコを見る。ピンク色の作業着を着たナナコは『血操』を自在に使いつつ、ハァっと艶やかな溜め息を吐き、自分の頬に手を置いて困った表情で答えた。
「あの眼鏡の仕業か、何か事故でもあったのかしら? 怖いわね」
白々しい芝居だったが、守はそれ以上言及する事はなかった。ナナコと未羽もそうだが、守もそれほど人間の生存に興味がないからだ。
仲間に対して敵意さえなければ何もしないが、積極的に助ける事もない。それが三人の共通意識である。
興味を失った守を見てほっとする未羽。あの時はナナコに感化され、あまり気にせずやってしまった訳だが、冷静になってからちょっとやりすぎたんじゃないかと反省していた。その反省の内容がゾンビを解き放った事より、守に責められるのは嫌なのが大半ではあるが。
「パパ! ママ! あっちなの!!」
一人先を小走りしているのは瑠璃だ。瑠璃も守の血が混ざっている為、死の匂いがしている。当時感じたよくわからない匂いもまだ存在しており、翼は漆黒に染まったまま固定化されてしまったようだ。綺麗な黒髪は風に靡いてキラキラと輝き、くりくりっと丸い目が興味津々に辺りを伺っている。
その姿はまさに家族で楽しくお出かけをしているようだった。これが日常であれば周囲の人達も温かい目で見守っていただろう。
だが、周囲はそれどころではない。既に生きている匂いはこの周囲に殆ど残っておらず、被害は拡大していく一方だ。避難所などもあるが、既に感染は拡がり、機能していない。自衛隊が必死になってゾンビ達を処理しているようだが、増えていくペースの方が遥かに早い為、対処しきれていないのが現状だった。
「るぅ、落ち着いてこっちで一緒に歩くんだ」
守に呼ばれると飛びつくように抱き着いてきた。それを守は恐る恐る抱き返す。守はまだこの関係に戸惑いを覚えていた。一方、ナナコは家族になれた事を喜び(主に守の夫になれた事に)、未羽もネェネと呼ばれてる事を嬉しく思っているようだった。
これには守と瑠璃、ナナコ、未羽と瑠璃との関係性にあった。守と違い、ナナコと未羽には瑠璃との接点がない。ただ、守の血が混ざった事で仲間として認識しており、守と離れたくない感情も相まって、家族として受け入れる事を選択したのだ。
しかし、守は違う。瑠璃が小さくなった時には混乱していた為、流されるがままだった。だが、冷静になり、改めて考えると、瑠璃は守にとって幼馴染であり、呪縛が解けたとはいえ、今も守りたい対象だと思っている。小さくなったからといって瑠璃は瑠璃なのだ。それが今ではパパと呼ばれ、他の二人はそれに違和感がないのか、それとも他に理由があるのか、何も言ってこない。守は現状に困惑しているのだ。
(何から聞けばいいのかわかんないな……)
守は一つ溜め息をつくと、青く澄み渡る空を見上げる。
(とりあえず、るぅの言ってる悪者とやらをどうにかするのが先か……)
瑠璃が行く先にはおそらく眼鏡男かけんじぃがいるのだろう、直感ではあったが守はそう感じていた。
そんな間にもナナコは『血操』でゾンビ達を力を吸収し、力を蓄え、未羽は縦横無尽に走り回ってゾンビ達をせん滅していた。
三人の歩いた後はゾンビすら歩いていない、無人の街並みが広がるのであった。
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