第55話

引っ越しの日。トラックはお世話になっている花屋からお借りした。運転もしてもらう。

細川先生はお仕事でしたが、杏さんが手伝ってくれることに。

現在、荷物をトラックへ乗せている。


「零くん、これ全部このちっこいトラックにはいるわけないじゃん。往復させんの?」


「いえ、徒歩で持っていきます」


「は?どうやって?」


「ダンボール4つくらいでしたら運べます。重ねて」


「あぶねーって。前見えないよ?」


「ご心配なく。この荷物全てを僕がここまで運びましたから」


ここというのは、アパートの前である。


「は?3人でしたんじゃないの?」


「1人ですが?」


「宝之華ちゃん手伝わないの?」


「花屋の方とずっと話してましたし」


「ふーん、今も手伝わずにね」


杏さんはちらっとトラック前で花屋さんと話す宝之華を見た。


「それに1人でやったほうが楽です」


「怪力すぎだよ」


これは褒められたのだろうか?それともけなされたのか?気にせずもくもくと作業をする。


「乗せ終わったので、車出して頂けますか?」


「あー私トラック乗る!いいでしょ?」


宝之華は無邪気である。もう既に乗ろうとしながら質問するとは…。断れないですね。


「はい、ではお願いします」


トラックは先に出て行った。


「で?杏はどーすりゃいいの?」


「ここで残った荷物を見ていてください。私は、運びますので」


5箱くらいダンボールを重ねて持つ。


「まじかよあぶねー。川中くんの家までけっこう歩くよ?」


「大丈夫です。では行って参ります」


「着物で行くんだね。ジャージとかがよさそうだけどー?」


「着慣れていますから」


一通りの少ない時間であったのでさっさと歩く。気配がないか確認しながら。


アパートに到着したら、既にトラックはあったが誰も乗っていない。

もう部屋で配置してるのか?そう思いながら二階の部屋へと荷物を運んだ。

ドアが解放されていたのですぐに入れた。


「あー零さん!お疲れ!中広いね」


宝之華はなにもない部屋ではしゃいでいた。花屋さんが見て笑っていた。


「あー。早くトラックの荷物おろさないと」


「はい」


宝之華の指示で、家具家電を配置し、全ての荷物を運び終えた。


「あの、もうこれで終わりですよね?」


宝之華は部屋に置いて、トラックへ行くと花屋さんが待っていた。


「はい。本日はお忙しい中お手伝い頂き誠にありがとうございます」


「いえ、躑躅さんすごい力持ちなんですね」


「柔道をしているので」


「そうなんですか。奥様、とてもかわいらしいですね。見ていて元気になれますね」


「あはは、うるさいくらい元気です」


「またいつでも頼ってくださいね」


「はい。ありがとうございます」


トラックを帰した後、再び杏さんの待つアパートへ戻る。


「遅くなってしまいすみません」


「おっせーよ!」


「トラックの荷物を運んでいたので。ではこの荷物で最後ですね」


ダンボールを再び重ねて持つ。


「杏も行くよ。何も持たずにね」


ということで、2人で歩くことに。細川先生すみません。決してやましい気持ちはありません。本当です。


「この箱何が入ってんの?」


「わかりません」


「てきとーすぎ。割れ物だったらどうすんの?」


「落とさないので大丈夫です」


「すげー自身」


くだらない会話をしながら、宝之華の待つアパートへ到着した。


「おーう、けっこう広いなこの部屋」


「あー杏さん!どーぞ上がって!」


「もう帰るしー。疲れたー」


「あの、杏さんはここに来たことはないのですか?」


「うん、川中くんは将希の友達だから」


なるほど。そうなのか。


「川中くんによろしく言っといて。じゃあね」


「はい、ありがとうございます」


ん?川中さんという人は隣の部屋なんじゃ?自分で挨拶したらいいのに。


自分の入れた荷物をダンボールから取り出す作業をしていたが、宝之華は飽きて雑誌を見ていた。


「あ!そうだ零さん」


突然宝之華は何か思い出したのか叫んだ。


「はい?」


「私、結婚してることばらしちゃったよ!」


「え、それは契約違反では?」


職を失ってしまったのだろうか?それで無邪気に騒いでいたのか?


「大丈夫。翼さんが言ったんです」


「え?なぜ?」


自分が決めた契約なのに。


「私に仕事がちゃーんと入ったし小暮さんたちちゃーんと働いたからだって」


よくわからない。


「私、隠し事って苦手だからさ、すっきりした!」


「よかったですね」


なにはともあれ、元気ならそれでいいか。


片づけに飽きてしまって2人でまったりお茶を飲んでいたところ、チャイムが鳴った。

チャイム?そうか、細川先生のいるアパートはチャイムすらなかったから、久しぶりに聞いて不思議な感じがした。


扉を開けると、そこには美しい長い黒髪の小柄な、とにかく美しいが似合う女性がいた。


「こんにちは。隣の川中です」


この方が細川先生のご友人?女性なのか?


「は、はじめまして…」


「うちでお茶でもいかが?」


「は、はい、喜んで」


「躑躅零くんと奥さんの宝之華ちゃんだよねー?」


「な、なぜ名前を?」


「零さーん誰?」


宝之華がのこのこと後ろからやってきた。


「うふふ、奥さん!家へいらっしゃい!」


「え?誰?」


「さ、靴履いて、ね?」


誘導されるがままに、2人共川中さんのお宅へと入っていた。


「さ、座ってね」


碧唯あおい、誰なんだそいつら?」


キッチンの方から目つきの悪い怖そうな男性が出てきた。恐喝されてしまうのでしょうか?


「隣の躑躅さんよ?」


「あー細川が言ってた」


「はいそうでーす。私は川中碧唯かわなかあおい。で、こっちの目つき悪いのが夫のしのぶ


「よろしくお願い致します」


「私は心理カウンセラーで忍は精神科の看護師。それで零くんは書道家でしょ?で、宝之華ちゃんは?」


「え、私!?ファッションモデルです」


「ふーん」


なぜか反応が悪い。

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