第78話 才能
「加勢します、
「
【ピアス・ビーク】の羽を剣で切ったのは、
「
和人の目には、自信が溢れていた。
「わかった。撃ち漏らしはお前に任せる!」
◇ ◇ ◇
安田和人は、将来を期待された魔法師だった。
小さいころから周囲の同年代に比べて魔法の才能に優れ、それは和人自身も自覚していた。
その自信は、貴族の護衛隊の中でも最強とされる九条家護衛隊に入っても揺らがなかった。
自分より年下で、ずっと幼いころから正隊員で副隊長にまで上り詰めた
しかし、九条家が【
人数では劣っていたはずの【漆黒】に対して和人はほとんどダメージを与えられなかったし、
しかし、空也は違った。
彼は魔法が使えない状況でも一人で敵を圧倒し、それは侑斗が【絶対領域】を解除して全員が魔法を使えるようになってからも変わらなかった。
和人の自信の源だった無属性魔法の腕も、そもそもの魔法師としての強さも、明らかに空也のほうが上だった。
別格だ、と和人は思った。そして同時に、年下である空也に圧倒されてしまっている自分が情けなく感じられた。
だからと言って素直に教えを乞えるほど素直な性格ではなかったが、和人は一つだけ空也に尋ねた。どうしてそこまで剣を鍛えたのか、と。
空也は悩む素振りも見せず、淡々と答えた。
『剣を極めれば、その分魔力を温存できますし、今回のように魔法が使えない状況になっても戦えるようにするためです』
と。
衝撃だった。
魔力を温存すること自体はもちろん和人も意識していたが、それはあくまで魔法を使うことを前提とした話だったからだ。ましてや、魔法が使えない状況など、【絶対領域】を見るまでは想定も想像もしていなかった。
それから、和人はより一層修練に取り組んだ。
魔法はもちろん、剣術や体術もそれまで以上に鍛えるようになった。
その成果は、【ピアス・ピーク】との空中戦ではっきりと現れていた。和人は、
それらは和人には見向きもせずに九条家の屋敷へ突撃しようとするため、隙自体は多い。
それでも、これまでの和人だったら今ほど効率良く倒すことはできていなかっただろう。
今自分が戦力になれているのは空也のおかげだと、和人は痛感していた。
そこには悔しさもあったが、悪い気はしなかった。
和人ならできるよ——。
幼馴染——
◇ ◇ ◇
八城と和人を優作たちの援護に派遣したのは、皐月の指示だった。
二人がいなくなれば、その分だけ
しかし、皐月は自分の考えを曲げなかった。
【漆黒】に奇襲されたときのことを教訓にして、ヒナを筆頭とする【
そのため、地中から魔物が攻めてきているとヒナが気づいたときには、すでにそれらは優作たちの近くまで侵攻してきており、早馬で知らせる時間すらなかった。
そのとき、皐月は不安に思ったのだ。
ただでさえ厳しい戦いなのに、予想外の奇襲に対応できるのか。対応できたとしても、優作たちの負担が大きすぎるのではないか——。
深呼吸をしてみても、一度皐月の中に芽生えたその不安は、収まるどころか膨張するばかりだった。
だから皐月は主張した。
ここで万が一、優作たちが崩れて屋敷を襲撃されたらどっちにしろ危険であるし、空也とミサも近づいてきている。二人が来るまで耐えるのが、結果的に一番安全なのではないか、と。
その場の最高権力者である
頑張ってください、八城さん、和人——。
皐月は、胸の前で祈るように両手を合わせた。
基本的に皐月は司令室にいるが、ヒナを含めた【索敵】要員は『砦』内部やその周辺にいるため、ヒナたちから伝令が来ない限り戦況を知ることはできない。
それでも、皐月は二人の活躍を確信していた。
八城の防御力は冒険者で言えばSランク、国防軍隊員で言えば特級に匹敵するし、和人も最近は目を見張るような努力をしていた。
きっと、二人は大きな戦力となれるだろう。
そして、時間さえ稼げれば、空也とミサがやってくる。
今の陣容に歴代最強の冒険者という呼び声高いSランク冒険者の【光の女王】ミサ、そして、そのミサをして異次元と言わしめた空也が加われば、九条家だけを狙った魔物ハザードという緊急事態を乗り切れるだと皐月は考えていた。たとえ二人が手負いであろうとも、だ。
不意に、司令室の扉がノックされた。
「ヒナからの伝令です!」
「どうぞ」
慌ただしく一人の隊員が入ってくる。
その息を切らせた様子に、皐月は嫌な予感を覚えた。
——果たして、その予感は的中した。
「八城さんと和人のおかげで隊長たちは持ち堪え、
「なっ……⁉︎」
皐月は絶句した。
敵の多くがCランク以下でも耐えるのがやっとの今の状況で、Bランク以上の魔物の大群——⁉︎
「空也君たち助っ人組には、カイス沼とキース森の新手を手分けして相手してもらうしかなさそうですな」
佐々木の冷静な声で、皐月も落ち着きを取り戻した。
「……ええ、そうですね。キース森のほうにより多くの戦力を割くべきでしょうが、第五隊との関係を考えると空也君にはカイス沼の援護を、他の皆さんにはキース森に救援に行ってもらいましょう。光の女王が助けに来たとなれば、冒険者の士気も上がるでしょうし」
「ですな」
佐々木が頷いた。
「では、伝令役を一人——」
「私が行きます」
沙希が手をあげた。
「何を言っているの? あなたは——」
「二人は高速で移動しています。面識のない隊員はそもそも気付いてもらえないかもしれないし、
正論だった。
今の状況を考えれば、空也とミサへの伝令役には、なるべく二人が信頼している人物が望ましい。
今ここでその条件に当てはまる者は、沙希しかいなかった。
皐月は佐々木を見た。彼は小さく顎を引いた。
「……わかったわ。ただし、伝令が済んだら一直線で帰ってくること。良いわね?」
「はい」
沙希は司令室を飛び出した。
◇ ◇ ◇
「形勢は我々のほうが有利だっ、畳みかけるぞ!」
優作は周囲を鼓舞した。
和人と八城というそれぞれ攻と守に秀でた者が助太刀に来てくれたおかげで、戦況はだいぶ盛り返すことができた。
減らしても減らしても湧いてくる魔物たちに辟易はしつつも、まだ誰も闘志を失っていない。
「皐月様には軍師としての才能があったんだな……」
優作は皐月を見直さざるを得なかった。
もちろん、これまでも優秀であることは知っていたが、それは
皐月様、あなたの的確な人員配置のおかげで、何とか乗り切れそうです——。
優作は、何気なく和人のほうへ目を向けた。
その瞬間、
和人の脇腹に、【ピアス・ピーク】のクチバシが突き刺さった。
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