惜別の再会
惜別、そして再会、会話は終わる。無言の沈黙。
「いってらっしゃい」
「ただいま」
「おかえり」
「こんにちは」
そして僕たちは食卓を囲む。
一つの電球。LEDではない、裸の電球。
蚊がブンブンと唸りながら、僕たちの影を、陰らせる。
暗く落ちていく、鼓動の意味。
それから、再開へと向けて、僕らは走り出す。
時々、止まって、世界を止める。
呼吸を止める。
三秒、違う、四秒、そして、息を大きく吸って、はいた。
「痛む胸は、美しいコラール」
僕はこういう。
呼吸を止めないで。
十秒、いや、三十秒
そして苦しむ胸で息をはいた。
「さようなら、青春の孤独」
「お帰り、晩春の憂鬱」
僕は言う
「青春の孤独と、晩春の憂鬱は、交じり合うことはない」
でも、届くなら、こういうだろう。
「届かなくてもいい」
じゃあ、と君は言った。
「届くまで、何度でも、届ける」
そして、厳しい季節が、冬がやってくる。
冬を超えるために必要な灯。
それは、言葉、
言葉は、ゆっくりと、揺らめく、韻をふんだ呼吸。
本を手に取る。
一冊の本
それは、「銀河鉄道の夜」
手に取る。パラパラとなる紙の音。
時々、遠くを眺める。
LEDではない裸電球。
そして、僕らは言葉を交わす。
「この味噌汁おいしいね」
それで父がこう返す。
「肘をついて食わない」
僕は、ムカッとして、器を置く。
そしてそっぽを向いて、蚊の姿を追いかける。
姉がパチンっと蚊をたたく。
僕らの家族の肖像は、窓辺に立てかけられている、一枚の写真。
何とはない、旅の記憶の記録。
「このご飯はおいしいね」
と僕は言う。
そして僕たちの肖像は、今でも窓辺に飾られている。
美しいコスモスの横に。
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