第28話『呪いの勇者、パパになる!?』


 「久しぶりに街へ出掛けよう!」


 聖堂教会の一件以来、特に何事もなく平和にエリクシア達と日常を過ごしていた俺は、日頃の疲労に対する労いも兼ねて、皆んなで街に遊びに行こうと提案した。


 戦いばかり続いていたからな。たまには、みんなでゆっくりしたいものです。買い物がてら、プレゼントも買ってやりたいしな。


 マリエルが、いつものようにはしゃいでおります。今日は、あまりムカつきません。なんて微笑ましいのでしょう。身支度を済ませて俺とエリクシア達は、エルムーアの商店街に足を運ぶことにした。


 とても気分がいいし、何事も起こらない最高の一日にしたいと僕は思うのです。


♦︎♦︎♦︎♦︎


 「カケル、これなーに?」


 「おぉ、綺麗な髪飾りだな。エリィに似合うんじゃないか?」


 キラキラとした装飾が施された髪飾りが、雑貨店にならんでいた。色も複数あるようだし、みんなにこれをプレゼントしようかな。


 マリエルやアリアドネを集めて、好きな柄の髪飾りを選ばせる。それを全員にプレゼントした。あまり、こういうのは慣れてないからな。センスが無いものを選んだら、マリエルに怒られそうだしそれが無難であろう。


 「マリエルが金でアリアが蒼、そしてエリィが白銀か。俺が言うのもおかしいけど、凄く似合ってるじゃないか!」


 「カケル、褒め上手だね」


 「そんなことないぞエリィ。更に可愛くなってしまったな!」


 「カケルさんからプレゼントだなんて……。何か事件の前兆に違いありません!」


 「マリエル! 要らないなら返してこい!」


 「まぁまぁ、私もですがマリエルも照れ隠しなのですよ? カケル様に貰い物を頂けて幸せでございます」


 そう言われちゃ敵わないよな。俺だって喜んで欲しくて贈り物をしたんだ。みんな嬉しそうにしてくれて良かったよ。要らないですとか言われたら、俺は泣いていたかも知れない。


 これとは別に、ある物を用意していた。それは、首狩りの王の戦闘の時、ダンジョンに落ちていたクリスタルを、俺は採取していたのである。


 そのクリスタルを加工して、プレゼントするのが今日の計画だ。次の行き先を合成屋にしようと、エリクシア達に提案してみんなで目的地に足を運ぶことにする。


 すると、小さな女の子が笑顔で両手を振りながら俺の目の前を走って来た。今日も平和だなぁーと立ち止まるが、何故かその少女は、俺の目の前を一直線で走りスピードを変えずに突き進んでくる。ウリボーのようだった。


 「パパ〜。あいたかったょ〜」


 ーー、は? パパん? パパパパん!?


 ガッチリと足を掴まれ、重心無垢そうな小さい少女にパパ呼ばわりされました。いやいや! 違う、絶対違うよ俺の子じゃないんだ。何の冗談だよ。俺がパパな訳ないだろう! 心当たりなんて全く無い。全く無い! かもしれない。


 現実から逃げたくなるが、エリクシア達がそうはさせてくれないだろう。マリエルは怒り狂い、アリアドネは泣き出してしまった。隠し子とかじゃないんだよ? 信じてくれるよね?


 「はぁ、カケルさん。何やってるんですか?」


 「新しい世界に召喚される為に儀式をやってんだよ。邪魔しないでくれ」


 壁に雑な魔法陣を描いて、その陣に自分の頭を叩きつける。


 そうでもしてないと、現実を受け入れられないからな。俺の性事情を暴露する訳にはいかないし、酒で潰れて記憶が無い日も勿論ある。


 ーー俺は、まだ大人の階段登ってねぇんだよ!!


 みんなにどう説明するべきか、俺は深く考えるがまともな思考なんて出来ないのでした。助けて下さい、俺はこれからどうすればいいのでしょうか。


 一番平和に過ごしたい日に、俺は人生最大のピンチに見舞われていた。

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