第25話『呪いの勇者は教会幹部と相容れない』
「エリィ、アリアを頼む」
「うん。任せて」
怯えるアリアドネを落ち着かせる為に、エリクシアに任せて休ませることにした。こいつの実力は計り知れない。いきなり現れたってことは、戦うつもり何だろうか。用心しないといけないな。
「そんなに身構えなくてもいいんですけどね。私は教会幹部、名をベズル。貴方のことはご存じですよ? 無能な臨界者ですからね」
「なんだよベズル君。俺の事よく知ってるじゃねぇか。ストーカーでもしてたのか? 聖堂教会なんかよりよっぽど向いてそうだけど」
どうやら親玉などではなく、教会幹部だったらしい。ヤバすぎるだろあれ、魔王軍幹部より強そうなんですけど。もしかして俺が呪われてるから、教会の人間の方が強く感じちゃうんですかね。
額に汗を流しながら、一触即発の状況が続いていた。均衡を先に破ったのはベルズの方で、敵意があるんだか無いんだか分からない態度だったが、冷静に言葉を並べていた。
「戦いに来たのではありません。私は信者達を返して頂ければそれでよいのですよ。そうすれば、今回の邪魔だては無かった事にします」
「リッチーの村に手ェ出さねぇってなら返してやるよ」
「それは無理な相談です。私達はリッチー共の殲滅の為に来たのですから」
「あぁ、そうかい。どうあっても相容れない訳だ」
どうやっても、譲らねぇってなら仕方がない。力尽くでねじ伏せてやる。覚悟しやがれ糞教会共。お前らのせいで悲しむ奴がいるんだから、それを俺は止めなきゃならないんだよ!
「マリエル、詠唱開始!」
「はい! スロー・ギアクル!」
「無能の攻撃が通る訳な……」
ーーブンッ!!
神速をも超える一閃は、ベルズに直撃したはずだ。手答えは充分にあったのだが、ベルズを弾き飛ばす際に俺の諸刃の剣は、何かを叩き割る衝撃を感じていた。
首狩りの王の時と同じだ。もしかして、分厚い盾でも出していたんだろうか。
「痛い痛い。解放もしていない剣に私の最大防御壁パワー・ウォールが破壊されてしまうとは、危うく即死するところでしたよ。まさに君は、イレギュラーだ」
蓮撃をかませるように、ポーションを飲み干し剣先をベズルに構える。今なら確実にやれそうだ。
「ノックアウトするまで殴り飛ばしてやるよ」
「その必要はありません。私たちは撤退するとしましょう」
「ストーキングする割には逃げんのか?」
「逃げる? 勘違いしないで下さいね。見逃すだけですよ。この件は、教会には黙っておきます。良いものも見せて貰いましたから」
「ーー、くそ! 待ちやがれ変態野郎!!」
完全に信者諸共、取り逃してしまった。見逃されたと取るべきなのか、殺し損なったのかは未だに分からないままだけど、今回で分かった事は、完全に聖堂教会が裏で暗躍してたってことだ。
ベルズの実力も気になるところだけど、今日だけは深追いは辞めておこう。いつか、必ず戦う日が来るだろうからな。
今回の妨害で、今週が初めて死体が出ない日となった。村のリッチーには、説明した方がいいんだろうか。報告したらしたで、暴動が起きそうなのが難点だ。
早くニーナの所に戻り真相を伝えてやりたいが、どういう結末を望むんだろう。結果はどうあれ、彼女が報われる選択をしてあげたい。
真っ暗だった夜空に太陽が差し込んで眩しくなり、一夜の抗争は一旦、お預けになってしまったようです。
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