ヒーローの秘密物語⑦
フラッシュバックのような記憶の蘇りから数秒、そこそこな量の記憶だったはずだが現在は落ち着いて思考できていた。
ヒーローになった時の記憶が失ったことも、それが蘇ったことも不可解ではあるが、そもそもヒーローになる仕組みからして理解不明。
ならヒーローの組織にそういった特殊な機械があってもおかしくはないと思えた。 網膜どころか魂に焼き付いたような強い光。
それが記憶操作の引き金になっているのは明白で、そんな単純な操作で記憶を操れることに強い恐怖も感じた。
―――俺は咲良に姿を見られたからもう変身はできないっていうことか・・・。
―――じゃあもうアメーバに立ち向かうことができなくなるのか。
―――今の俺の状況はあの男たちが言っていた“事故”に当たる。
―――そしたら俺の記憶を消しにくるって・・・ッ!?
―――それもマズいけどまずは近くにいるアメーバから逃げないと!!
逃げようとした時、近くで誰かが戦っているような雰囲気と音を聞いた。
―――既に他のヒーローが到着したか。
こっそり様子を窺うと青色のスーツを纏ったヒーローがアメーバと戦っていた。
―――何気に俺以外のヒーローってテレビ以外では初めて見たかも。
スーツを身に纏った状態では一般人がヒーローを見ていても問題ない。 ただそれはあくまでスーツを着ているため。
事情を知っている自分でもヒーローの正体を知ってしまえば彼もヒーローとして力を使えなくなってしまうだろう。 試したことはないが、何となくそう確信していた。
―――普通の人だったら興奮して写メ撮り放題だろうに・・・。
ヒーローも細心の注意を払うだろうが万が一があるとマズい。 そう思い顔を背けたところでヒーローがアメーバに向かって声を荒げたのだ。
「おい! どうしてそんなに悪さをするんだ!? 答えろ!!」
―――アメーバに問いかけながら戦うっていうのも初めて見たな。
「活力を吸い取って何に使う気だ!? 人々の活力を返せ!! 活力を今すぐに戻す方法を教えろ!!」
―――言葉が何か子供っぽいんだよなぁ。
―――・・・って、あれ?
―――この声って・・・。
喋り方や声からして誰なのかすぐに分かった。 ただその正体を必死に否定している自分もいる。
「奨・・・? なのか?」
奨がヒーローだったなんて当然知るはずがない。 しかし、自分もヒーローだということを秘密にしていたのだ。 そういうことがあってもおかしくはないのだ。
―――奨がヒーローとか出来過ぎているだろ!!
―――こんなにも近くにヒーローがいたなんて考えられない・・・!
―――そう言えば俺がヒーローにスカウトされた理由って父子家庭だったからだっけ。
―――奨も確かに片親で・・・。
有り得なくはないが、確率としてみれば低い。 世の中片親の人間なんていくらでもいる。 ただ何か喋っているヒーローの声は聞けば聞く程奨のものだ。
―――マジかよ、本当に奨もヒーローなのか・・・ッ!?
―――早く奨のもとへ行きたいけど奨までもヒーローを解約されては困る。
―――奨がヒーローだと口に出さないように気を付けないとな。
目を背けしばらくすると静かになった。 どうやら無事アメーバを倒したようだ。
「結局答えてくれなかったし。 アメーバは意思疎通もできないのか」
露骨にがっくり来ているのは、咲良のことを何とかしようとしてくれているからなのだろう。 奨は心底いい奴だと思っていて、同じヒーローであったということが素直に嬉しかった。
―――・・・まぁ、俺はヒーローじゃなくなってしまったけど。
しばらく隠れ奨がいなくなってからその場を離れようと思っていたのだが、間の悪いことに奨が隠れている方へと来てしまった。
「・・・あれ? 栄輝?」
恐る恐る振り返ると制服姿の奨がそこにいた。
―――変身は解いていたか、よかった・・・。
―――つか、さっきのヒーローと声の調子が全く同じじゃないか。
―――どうして今まで気が付かなかったんだ?
―――まぁ互いに秘密にしていたことだし気付かないのが普通か・・・。
このままではあまりに不自然なため、少々演技することにした。
「あ、アメーバ! アメーバがいたんだ! 咄嗟に隠れたんだけど、もういないのか・・・?」
「栄輝を追いかけてきたんだけど、アメーバはいなかった。 もう大丈夫だから一緒に帰ろうよ」
「あんなにキツいことを言ったのに俺を追いかけてきてくれたのか?」
「うん。 ・・・栄輝の言う通りだと思った。 ヒーローだけに任せては駄目で一般人の僕たちも積極的に動かないとって」
それを聞いて栄輝は頭を下げた。
「さっきは当たっちまって本当に悪かった!! 奨がよければ手を貸してくれないか?」
「もちろん! 僕も咲良さんを助けたい!」
奨がすんなり味方になってくれてよかった。 もう変身ができない栄輝は正直足手纏いにしかならない。 だが本物の一般人が一人で何かをしようだなんて、その方が無謀なのだ。
ヒーローが一人でもいれば希望はある。
「じゃあどうしようか? 行く宛とかないんでしょ?」
「それなんだけど俺考えたんだ。 俺の作戦に協力してほしい」
「もちろんいいよ! どんな作戦?」
「もうじき黒いスーツを身に纏った男の人が現れると思うんだ。 俺は男の人の記憶がなくなるかもしれないけど、その人の後を付けてほしい」
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