第三章 ~『目覚めた力★アリア視点』~


~~《アリア視点》~~


 アリアの結婚に関してリグゼたちが話をしていた頃、扉の外でアリアは室内の声に耳を傾けていた。


(あの男の子と結婚なんて絶対に嫌です!)


 レンのことを特別に嫌っているわけではない。アリアには心に決めた人がいたため、それ以外の相手と結婚するつもりがなかったからだ。


(お兄様は私の気持ちに気づいているはずなのに……)


 もしリグゼが異性として好意を抱いているなら、アリアの婚約に同意するはずがない。暗に振られたようなものである。


 目尻に涙が浮かぶも、アリアはそれを拭う。


(泣いていては駄目ですね)


 アリアは聖女として認められてきたおかげで、人としても大きく成長していた。もう一人前のレディなのだ。


 強くなった自分は簡単にくじけないと、赤く腫らした目で現実を見据える。


(貴族の娘に結婚の自由はありません。でもそれは私が弱いから。立場が強くなれば、好きな人とだって結婚できるようになるはずです)


 立場を手に入れるための力は三つ。美貌・権威・魔術だ。


 美貌があれば、評判が増し、それが権威に繋がっていく。婚約を狙う殿方に囲まれれば、それは交渉材料とさえなりうる。


 しかし美を磨くことはできない。醜さの象徴である銀髪を変えることはできないからだ。


 だからこそ聖女としての評判を高めるため、アリアは魔術を極めることにした。その力の一端は兄であるリグゼにさえ秘密だ。


(いつか、この魔術でお兄様を驚かせてみせます)


 アリアの固有魔術――《時間操作》を彼女は発動させる。止まった時間の中、ゆっくりと扉から離れていく。


 窓の外を漂う雲が静止し、忙しく働く使用人たちが彫像のように固まる。廊下を進み、数十秒ほど経過した頃、時は動き始めた。


 この世界でアリア以外の誰もが、時が止まっていたことに気づいていない。最強のランクS魔術――《時間操作》を彼女は習得していたのだ。


(まだ止められる時間は数十秒ほどですが……いつかは制限なく止めてみせます)


 アリアは好きな人と結ばれるために、もっと強くなると誓うのだった。

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