第三章 ~『パノラの暗躍★ルーザー視点』~
~~『ルーザー視点』~~
ルーザーは内庭を散歩しながら、夜風に震える。ウッドデッキに腰掛け、キョロキョロと周囲を伺って待ち人を探す。
「いつもより早い到着ですね」
「パノラ様の方こそ、いらしていたとは思いませんでした」
背後から声が届くが、決して振り返ることはない。パノラは人前に姿を晒すことをよしとしない。この現場を第三者に目撃されても、振り向きさえしなければ独り言で済ませられる。
「パノラ様のご命令通り、エルド領へと潜り込みました」
ルーザーがリグゼに助けを求めたのは偶然ではない。彼の兄が盗賊として暴れていることをパノラに相談した折、リグゼの元へ行けと命じられたからだ。
(パノラ様は恐ろしい人だ)
まだ子供だというのに、その力量は大賢者に匹敵する。逆らえば、躊躇なく彼の命を奪うだろう。
「状況は?」
「《武王》とアリアを戦わせ、共倒れさせる計画ですが、まだ彼女の信頼を得られていません」
「細心の注意を払ってください。アリアは私に匹敵する実力者ですから」
「まさか。いくら《時間操作》の魔術を使えるとはいえ、あんな子供がパノラ様に勝てるはずが……」
「とにかく油断しないように。あなたの夢を叶えるためにも、計画は成功させなければならないでしょう」
ルーザーの夢――それは邪魔な兄を始末した英雄として、領主代行ではなく、正式な領主へと就任することだ。領主ともなれば自由に使える金も増える。
彼は俗物だ。貴族に生まれたからには裕福に生きたいと願っており、食事も女も我慢したくはなかった。
(だが本当に欲しいのは……)
彼の希望を叶えるように、液体の詰まった小瓶がウッドデッキの上に置かれる。それは喉から手がでるほど求めたものである。
「ありがとうございます、パノラ様! 私はこの薬で得られる快楽のためなら、どんな命令にも従います!」
小瓶の蓋を開けて喉に流し込むと、頭に電流が奔ったかのような快楽が全身を包み込む。
(これっ、これっ!)
飲み終えたのが名残惜しく、小瓶を振るがもう一滴さえも落ちてこない。
「ふふ、アリアを始末できたら、あなたが一生困らないだけの薬を用意しますよ」
「か、必ずや、成し遂げてみせます」
ルーザーは目を血走らせながら、この快感を得られるなら、どんな悪事にでも手を染めると決意するのだった。
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