デッサンモデル

芽留 椎木

Ⅰ.プロローグ

 去年の8月の夏休みのことである。

 私と健太は北海道へ旅行へ来ていた。

 私たちは同じN大学工学部の4年生。

 既に卒業するのに十分な単位取得もほぼ確定し、就職も決まった。

 いわゆる卒業旅行というのを私たちは楽しんでいた。


 ペンションのチェックインを済ませると、私たち2人は風呂場へと向かった。

 山の中のペンションでは夜になると他にすることが無い。

 風呂場の浴槽は余裕で10人同時に入れる広さだった。


 他に人影はなく、貸し切り状態だ。

 そこで2人は疲れた体を癒す。

 広々としていい気持だ。


 ふと、私はまえまえから気になってっていたことを健太に質問する。


「旅行の費用ってどうした?」


 最初、健太にこのツアーを誘ったとき、彼は『金が無い』と言って断ったのだ。

 飛行機とペンションで3万以上するこのツアーの代金をどこから調達したのか?

 不思議に思うのは当然だ。


「バイトしたんだ」

「何の」

「美術部のモデル」

「モデル?そんなバイトあったのか?」

「ああ」

「時給は?」

「一回2万円」

「2万?高いな」


 そう聞くと、健太は湯舟に頭を沈めた。

 そして、顔を上げると、一瞬、間をおいた後にこう答えた。


「ヌードだったんだ」

「ヌード!フルヌードか?」


 私は驚き、思わず大声を出してしまった。

 健太はこちらの顔を見据えて頷く。


「女の子はいなかったの?」


 矢継ぎ早に問いただす私に、彼は静かに答える。


「全員、女だったよ」

「本当か?話をよく聞かせろよ」


 その夜、私は健太のヌードモデル体験談を聞くこととなった。

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