第7話 十回目
九回目はフィオナもリチャードも流行病で亡くなった。
フィオナは一歳、リチャードは七歳だった。
なぜフィオナは生きられないのだろうか?
『……今度こそ……生きら……』
泣きながら八回目のフィオナが最後に言った言葉。
……今度こそ?
カインはようやく違和感に気がついた。
毒入りスープ、リーネ川の氾濫、宰相の娘。
フィオナの行動が変だと思ったが『今度こそ』という事は『前回』があるという事だ。
まさかフィオナには記憶がある……?
真っ黒なカラスの姿のカインはウセキ国の上空を飛んだ。
十回目。
リチャードは少しやんちゃな王子だが生まれたばかりのフィオナを可愛がっている。
今度こそ物語を百年続けてみせる。
カインは再びカラスの姿から十三歳のリチャードの補佐官となった。
◇
またカインがいる。
柱の影から覗いたフィオナは今日から急に現れたカインを眺めた。
「フィー? どうした?」
くすくす笑いながら柱を覗き込むリチャードは今日もサラサラで綺麗な金髪。
「フィオナ姫、かくれんぼですか?」
黒髪のカインはフィオナの横に膝をついても音が鳴らない。
「カイン」
今のカインは十三歳。
まだ背が伸びる前の若いカインだ。
死ぬ直前の必死な二十二歳のカインを思い出したフィオナは俯いた。
「どうしましたか?」
「……なんでもない」
泣いてはダメだ。
「どこか痛いところでも?」
「なんでもない」
急いで手で涙を拭うフィオナの顔をカインは優しくハンカチで拭いた。
「擦ってはダメですよ」
フィオナの泣き顔が一瞬亡くなる前の顔に見えたカインは悲しそうな顔でフィオナを見た。
まだ七歳のフィオナは今回も婚約者にしてくれるだろうか?
「フィオナ姫、急な話で驚かれると思いますが私と婚約してくれませんか? 姫をお側でお守りしたいのです」
前回は守りきれなかったけれど。
カインはフィオナの両手を握った。
前回はイヤだと断られた。
何度かお願いしてようやくお試しの婚約者にしてもらったのだ。
「フィーとお呼びする許可を頂けませんか?」
優しく微笑む黒色の眼。
フィオナはあっさりコクンと頷いた。
「カインと婚約します。フィーと呼んで」
以前のように。
フィオナの目から涙がボロボロと溢れる。
カインは驚きながら優しく涙を拭き取った。
「あー! なんでフィーを泣かせているんだ、カイン!」
妹をいじめたら許さないぞ! というリチャード。
全部横で見ていたくせに。
「ありがとう、フィー」
カインはフィオナの手を持ち上げると手の甲に口づけを落とした。
毒入りの緑のスープ事件もクリア。
リーネ川の氾濫もクリア。
大臣達に賞賛されるリチャードを十歳のフィオナは嬉しそうに眺める。
後ろから近づいたカインに気づいたフィオナは振り返った。
「街が無事で良かった」
フィオナが微笑むとカインはそうですねと答えた。
氾濫が起きなかったので大災害も起きない。
兄リチャードをまた隣国の優しい姫と婚約させ、騎士ワイズに気をつければ今度こそ17歳になれるかもしれない。
今のところ、順調だ。
「一緒にクッキーでもいかがですか?」
「えぇ。頂くわ」
あとでお兄様の部屋に行きますと言うとフィオナは長い綺麗な金髪を揺らしながら部屋へと戻った。
「カイン、騎士のハリウスだが有能だと思わないか?」
お気に入りのクッキーをかじりながら兄リチャードが告げた名前にフィオナは驚いた。
えっ?
ワイズじゃない。
どういうこと?
「ハリウスは面倒見が良いのでリーダーに向いているでしょうね」
カインはリチャードに紅茶を、フィオナにはミルクティーを差し出した。
ミルクティーは少し甘めのフィオナ好み。
前回もカインが淹れてくれるミルクティーが大好きだったが、今も味は変わっていない。
「お前達幸せそうだな。俺も婚約しようかな。宰相の娘あたりで良いか」
「ダ、ダメッ!」
「ダメです!」
フィオナとカインの声が重なるとリチャードは「お前達はお似合いだな」と笑う。
フィオナの希望通り、リチャードはピンクが似合う可愛い系の隣国の姫と婚約。
ワイズもいない。
宰相の娘には刺されないし、騎士ワイズにも斬られない。
ホッとするフィオナをカインはジッと見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます