第91話
初日からは志願者の数を減らしていったものの、そこそこの賑わいに商人以外からも手を上げるようになっていく。
ウェズトン最終日には十七名と少なかったが商人は最早三人とほぼ出尽くしており、残りが市民からと考えると段々と戦争も遠いものではない事を実感してきたのだろう。
また若くして食い詰めた奴などが手を上げており、こういう奴らが遠くない未来傭兵として世界を練り歩くのだろうと思うの少し感慨深い。
少なくとも騎士団上がりの傭兵は決して多いわけではない。一度でも騎士になった奴は騎士失格の烙印を押されることを恐れるし、騎士見習いは騎士になれるまで足掻き続ける。騎士の戦いかたを修めた傭兵などほとんどいない。それは今後も重宝される事請け合いだ。騎士団で一通り学んだ傭兵は今後いい生活を送れるだろう。
戦場で生き延びていたら、だが。
手持ちの麻袋一つが詰まるくらいの金貨がテーブルの上に置かれた。流石に悪い噂があるとはいえケリッシュでも名ありの騎士団、こういうことはきちんと守るようだ。
「当面は大丈夫のようですね」
「まぁ、いとも簡単になくなっちまうとは思うけどさ」
「今を乗り越えなければ明日はありません。それが消耗戦であっても、です」
「そんなもんかね」
ランスが柔らかいため息をついていた。騎士団でも重い立場にいる彼にとっては一つ大きな山場を越えたことに安堵したのだろう。
そこにアンがけちをつける。現実主義的な彼女らしい。ランスの気持ちも分かればアンの言い分も分かる。まだまだ俺達は不安定な立場なのだ。
宿を後にした俺達は馬車に荷物を積め直し、次の場所へ急いだ。これからは都市ではなく村々で活動をしていかなければならない。
ウェズトンのように若者が多い場所でもなかろうから苦戦は免れない。
「このまま順調に行けばいいですね」
「まぁ、ねえ」
ランスは無邪気にいってくる。しかし俺はそうとも言いがたかった。
今まであれだけしたたかだったフィランツの奴等が手をこまねいていないのか、と感じたからだ。
実際俺達は間者の入った村で襲われていたりする。それを今から攻めると判断した国に入れていないかと言われたら想像しにくいのが本音だ。
そういうフィランツに犯された村というのが出てきてもおかしくない。村一つ一つ、どこまで信用できるのかは分からないのだ。
「まあ、うまく行くといいな」
「行きますよ。絶対に」
その屈託なき笑顔が妙に眩しく思えた。
俺には二度と出来ない顔であろうから。
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