勇者パーティーから追放された“元”解体師の、森羅万象バラバラ無双 ~ユニークスキル【解体】は、あらゆる防御を貫通する最強の攻撃スキルでした~

猫額とまり

第1章 ゴミ漁りのシテン

第1話 始まりは勇者パーティーからの追放でした

「シテン、お前は命令に違反しパーティーに重大な損害を与えた。よってこの【暁の翼】を追放処分とする!」


「……え?」


 突然拠点に呼び出されて、一体何の話だろう? と呑気な事を考えていた僕は、突然の宣告に理解が追いつかず、間抜けな声を出すことしかできなかった。

 最初は冗談か聞き間違いかと思ったがーー


「聞こえなかったのか? お前を追放するって言ったんだよ。クビだ、クビ!」


 微かな希望は無情にも砕かれてしまった。残念ながら聞き間違いではないらしい。


 僕のクビを宣言した彼は暁の翼、通称勇者パーティーのリーダーにして、聖教会から勇者認定を受けた男、イカロス。

 そんな彼が追放すると決めたなら、どんなに横暴な理由でもそれが通ってしまう。


 彼は明らかに僕に対して怒っていた。何か彼の怒りを買う事をしてしまったのだろうか? 記憶を探るが、まるで心当たりがない。


 周りを見れば、他のパーティーメンバーもこちらを睨みつけている。僕の味方は居ないらしい。


「ど、どうしてそうなるんですか、いきなり追放だなんて!」


「自分で理由が分からないのか? 自覚が無いとは、どうしようもないヤツだな……」


イカロスはもはや怒りを通り越して呆れている様だった。


「この間の迷宮探索の時、お前は命令違反を犯した。『邪魔になるから引っ込んでろ』と指示を出したのに、お前はそれを無視して前線に出しゃばってきた。そのせいで俺たちは魔物なんぞに後れをとり、やむなく撤退する羽目になったんだぞ!」


「勇者パーティーが敗走したって、迷宮都市中で噂になってるのよ!?

私たちの面子は丸潰れよ! どうしてくれるの!?」


 パーティーの魔術師ヴィルダが、若干ヒステリック気味に叫んだ。

 ……もしかして、追放の理由って、アレのことだろうか?

 ようやく心当たりらしき理由が思い浮かんだ僕は、先日の出来事を思い出す。



「戦場では俺たちが主役だ。間違っても援護をしようなどと思い上がって、俺たちの邪魔をするなよ? お前は雑魚らしく、死体漁りでもしてろ。俺が命令した事以外は何もするな」


 イカロスは、普段から僕によくこう言い聞かせていた。

 勇者パーティーは、迷宮に眠る魔王を倒すために世界中から選りすぐられた精鋭だ。一方僕はユニークスキルという、珍しいものを持っていたから孤児院から引き抜かれただけの、しがない冒険者だ。

 彼らの命令は絶対で、破れば容赦ない折檻が待っている。それに孤児院にも危害が加えられる可能性もある。

 だから僕は、ずっと命令に従ってきた。

 迷宮探索の際には、戦闘の邪魔にならないように、後ろの方で見張り番。

 戦闘が終わったら、魔物の死体が消える前に解体をするのだ。


 その日、僕ら暁の翼は異様な魔物と遭遇した。

 ステータスを見ても、正体を掴み切れない未知の存在。だがその体躯から発せられるプレッシャーは尋常ではなく、ただの雑魚モンスターではないことは僕にでも分かった。


「【ミノタウロス】……? 聞いたことのない魔物だ、未知のボスモンスターかもしれない。ここまでの探索で消耗しているし、無策で挑むのは危険だ。一度引いて態勢を整えるべきだと思う」


「黙れ! 死体漁り風情が、俺に指図をするな!」


 僕はイカロスに進言したが、彼は聞く耳を持たなかった。

 僕以外のメンバーは、戦う気満々だった。危機感を抱いているのは僕だけのようだ。


「だったらせめて援護だけでも! 僕のスキルなら皆の邪魔をせずに援護が出来る!」


「ハッ、今まで俺たちが負けたことがあったか? お前の支援なんか要らねえんだよクズ! 黙って後片付けだけしてろっていつも言ってるだろうが!」


 異様な魔物を前にして、今回ばかりは援護を申し出たが、やはり戦闘への参加は認められなかった。

 確かに勇者パーティーは強い。結成以来、魔物との戦いで敗北したことは無いくらいに。それが自信に繋がっているのだろうか、イカロスには一歩たりとも退く気配がなかった。


 これ以上言っても埒が明かない。どうか何も起こりませんようにと祈りつつ、結局僕はいつも通り見張りに徹することになった。


 だが嫌な予感は的中してしまった。

 ミノタウロスという魔物に正面から向かっていったイカロス達は、瞬く間に薙ぎ払われ全滅してしまったのだ。

 あまりに早すぎる展開に、助けに入る間もなかった。

 そして地面に転がる彼らに、容赦なくトドメを刺そうとする魔物。

 その直前、イカロスと目が合った。


「た、助けてくれぇぇぇ~~~~!」 


 その時僕は確かに、イカロスの悲鳴を聞いた。


「【解体――遠隔解体カットアウト】!」


 それを聞いた僕は、すぐさまスキルを発動した。


 僕の持つユニークスキル、解体。それを使って、魔物の足元の床と、天井をバラバラに解体・・する。

 魔物も足元の床が突然崩れるとは思っていなかったのだろう。足を取られ、迫りくる瓦礫を回避することも出来ず、生き埋めになった。


 魔物を足止めしている間に、僕は常備している回復薬をイカロス達に飲ませた。

 ケチらず高価な薬を買っておいたのが幸いしたのだろう。なんとか魔物が這い上がってくる前に、自力で動けるほど回復することが出来た。


「撤退しよう」


「あ、ああ……」


 イカロスは顔面蒼白で頷いて、僕の提案に同意した。他のパーティーメンバーも、今回ばかりは反対する者は居なかった。

 完全に戦意を喪失し、青い顔をしながら我先に出口に向かう勇者たち。

 瓦礫から脱出した魔物を、僕はあの手この手で足止めし、攪乱した。

 そして何とか魔物の追跡を振り切ることに成功し、通りかかった冒険者に救助を求め、なんとか犠牲者を出さずに脱出できた。

 しかし、勇者パーティーが設立以来、初めて敗北したという事実は、すぐに迷宮都市中に広まってしまっていた。



「……もしかして、この間の魔物から逃げてきた時の事を言ってるの?」


「そうだ! 俺たちは負けてなんかいなかった。お前が手出ししなければいつも通り余裕で勝っていた! お前が命令違反をしなければ!」


 イカロスは髪を振り乱して癇癪を起こした。とても正気とは思えない様相だ。初めての敗走がよほど応えたのだろうか?


「確かに僕は、魔物を足止めしたり、みんなに回復ポーションを与えたよ。それを援護というなら、確かに僕は命令違反をしたかもしれない。でも僕はイカロスの助けを聞いたんだ。あれは僕に、助けろって命令を出したんだよね? それなら僕は命令違反をしたことにはならない。そもそも僕が助けに入らなきゃ、きっと皆殺されていたよ!」


 僕は語気を強めて勇者イカロスに真っ向から反論した。

 もしこのまま暁の翼から追い出されれば、僕を送り出してくれた孤児院の皆にも迷惑が掛かる。

 彼の言葉を素直に受け入れるわけにはいかない!


「口答えするんじゃねぇ! そもそもお前がまともに戦えないせいで、本来勝てるはずの相手に負けたんだ! それに俺は勇者だぞ!? お前みたいな、親無しの死体漁りに助けなんか求める筈ないだろ!? だからお前の行動は全て命令違反だ! 全てお前の責任だ!!」


 顔を真っ赤にしてイカロスが反論してくるが、彼の言い分は滅茶苦茶だ。

 どうやら彼の中では、僕に助けを求めた事実は無かった事になっているらしい。

 あるいは、覚えていてもあえて無視しているのか。


「……普段から僕に何もするなって言ってるのは君だろう、僕はいつものように命令に従っただけで、それを負けの理由にするのはおかしいと思う。筋が通っていない」


「ハッ、お前の理屈なんざ求めてねぇよ! 暁の翼のリーダーは俺で、俺の言った事が全て正しい。それが筋ってもんだ。シテン、お前の追放は既に決定事項なんだよ!」


 取り付く島もないとはこの事か。僕の追放は既に決定事項らしい。見れば他のパーティーメンバーも、イカロスの意見に賛同するように頷いていた。

 ……そうか。イカロスは敗走の責任を、全て僕に押し付けるつもりなんだ。

 勇者パーティーが初めて敗北したという事実は迷宮都市でも結構な話題になっているらしい。その責任を僕になすり付けて、自分たちの名誉を守ろうとしているのか。


「シテンのヤツ、いい加減見苦しいニャ。さっさと諦めて出てけニャ〜。前から陰気で死体ばっかり触って、気持ち悪いから嫌いだったニャ。居なくなって精々するニャ〜」


「そもそも、私はコイツを勇者パーティーに加入させるのも嫌だったの。いくら珍しいユニークスキル持ちだからって、魔物の解体役だなんて勇者パーティーに相応しくなかったのよ!」


「……私は、勇者様のご判断に従います」


 勇者イカロス、盗賊のチタ、魔術師ヴィルダが、それぞれ僕に鬱憤をぶち撒ける。【聖女】のルチアでさえも、僕の追放に賛成のようだった。


 ……もうここには、僕の居場所はないみたいだ。


「……分かった、出ていくよ。今から荷物を纏めるからーー」


「アァ!? 俺は今すぐ出て行けって言ったんだぞ! クビになる奴の持ち物なんざ没収だ没収!」


「ニャハハハ、シテンの持ち物はアタシらが有効活用してやるニャ♪ 最後の献身ってやつかニャ?」


 クソッ! 滅茶苦茶な理由で追放しておいて、そのうえ僕の私物まで奪い取るつもりなのか!?


「ねぇ、いつまでそこで突っ立ってるの? そろそろ我慢の限界なんだけど。

あんたの顔なんてこれ以上見たくないの。――自分の荷物と命、どっちが大事?」


「クッ……」


 暗に危害を加えるぞと脅されて、僕はもう何も言えなくなってしまった。

 今の僕に出来ることは、これ以上彼らを刺激しないように、黙って拠点を立ち去る事だけだった――



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