33 温泉でリラックス……?
不味い。意識したら急に恥ずかしくなってきやがったぞ。心臓がハチャメチャにドキドキしてやがるんだが。顔が熱い。耳も熱い。赤くなってねえだろうな。お湯は半透明だから胸の辺りまでは見えているはずだ。やべぇ、動くにしてもこのまま動いて良いのか……?
咄嗟に腕で隠そうとしちまったが、向こうは気付かれてないと思っているみたいだから変に動くのは悪手か。妙な気まずさも出ちまうし、連れの方はまともそうだからあまり事を大きくはしたくねえ。
今もなおアイツは俺の方をちらちらと見ている。そりゃ見られるなら見るよな。その気持ちはわからんくは無い。が、だからと言って見せ続けるほどお人好しじゃねえ。
とにかく一旦移動だ。これ以上見られると体がどう反応するかわかったもんじゃねえからな。慎重に、お湯から体が出ないように移動しよう。
「……」
俺の動きに合わせ、男も動いた。なんでついてくんだよ。
後ろからの視線が強い。湯の色の濃さ的に下までは見えないはずだ。背中を見ているのか。それともうなじか。まあどうだっていい。さっきよりも心臓の動きが弱くなってきた。ただ見られているだけならまだ大丈夫みたいだ。
「おい、何やってんだ?」
「い、いや~別に?」
「そうか?」
もう一人の男が声をかけたことで、男は元の位置に戻っていった。ふぅ、ひとまずは安心か。それでもまだちょこちょこと視線は感じるけどな。
それからまた少しが経った頃だった。また足音が聞こえて来た。まったく、今度は何が起こるんだか。
「情報通り、良い景色ですね」
聞き覚えのある声だった。氷のように澄み切った声。紛れも無く、極氷龍のそれだった。いやなんでアイツがここに……。
「うぉっ……」
男が変な声を出したんでそちらを見る。男は、極氷龍の体を直視していた。もちろん彼女は人の体になっている。こんなところで龍の体になっていたら大騒ぎだ。……ってそうじゃねえ。大事なのはそこじゃねえ。さっきまで俺を見る時はチラチラと見てたのに、なんで今は直視してんだ? そもそも直視すんなよ。大問題だろ。
「……」
もう片方の男も言葉を奪われていた。そっちがその状態じゃもうどうしようもねえよ。
「ふむ、中々の景色ですね。飛んでいる時に見ているものとはまた違う何かこう……風情を感じます」
そんな二人を気にせずに極氷龍は景色を楽しみ続けている。何だこの状況? カオスか?
そういえば極水龍が人の姿になった時も超絶イケメンだった気がする。サラサラの髪にスタイルも良かったな。……待て、なんか記憶がおかしいぞ。そんなこと気にしたこと無かったはずだ。もしかしてとうとう性的趣向とかその辺まで体に引っ張られ始めたか?
いやいい。とにかくプライムドラゴンは人の姿になった時にもとてつもない美形になるってことだ。もしそれに何かしらのチャーム的効果があるとしたら、あの二人が何の躊躇いもなく極氷龍の裸体を直視しているのも、見られている彼女本人が全く気にしていないのも理解は出来ねえけど辻褄は合う。この状況を理解しちまったら何かが崩れる気がする。それだけ今この瞬間の絵面が狂ってやがる。
景色に満足したのか極氷龍は俺の方に近づいてきた。
「ショータさんではありませんか。貴方もこの温泉に来ていたんですね……っていうのは冗談です。実は魔力を探知して最初からわかっていました」
「そ、そうですか。でも何故そのようなことを……」
どうやら彼女がここに来たのは偶然ではないらしい。つまりは俺に直接用があるってことだろう。
「洗脳中にかけてしまったご迷惑の償いとして、お背中流しましょうかと思いまして」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ。気になさらないでください」
「いえ、これは私自身が納得するために行うので!」
そう言って極氷龍は俺を無理やり洗い場に連れて行った。戦闘中にも思ったが、彼女は中々我が強いというか芯があるというか、強引な部分があるな。
湯から出る以上、当然のように俺の裸を晒されたわけだが……視線は一切感じなかった。二人の視線は完全に極氷龍の方に注がれていた。それはそれでむかつくところがある。女じゃねえけど、女として負けた感がある。女じゃねえけど。
「龍の姿のまま水浴びをすると、纏っている魔力が濃すぎてすぐさま凍り付いてしまうんです。だから時折人の姿で水浴びをしているんですよ。その時に培った洗浄の技術を見せてあげましょう」
それからはもう凄かった。貴重な骨董品かというくらいに丁寧にピカピカにされてしまった。言っていることはよくわからなかったが、腕は確かなようだ。とても気持ちが良かった。ただ、それ以上に自分でも驚いたのは肩や首が凝っていると言われたことだった。今まで全くそんなこと気にしたことは無かったが、どうやらこの体ではそうもいかないらしい。
「かなり肩回りの筋肉がこわばっていますね。ですがご安心ください。私、人体の構造には少し詳しいので」
「言い方が怖いんですけど」
完全にバラす人の言い方じゃんそれ。一通り洗い終わった極氷龍は、今度は俺の肩をゆっくりと擦り始めた。
「不思議な方ですねショータさんは。貴方の精神は完全に男性のものだと言うのに、体はこうして女性のものなのですから。小さい背中に細い腕、それに肩幅も狭い……龍である私と戦闘をして勝利間際にまで追い込んだとはとても思えません」
「わかるんですか?」
「ええ。私は何となくですが対象の精神性がわかるのです」
そうか。中身がわかる者にとって、俺は異質な存在に映るのか。となると、今後心の中を読むような能力を持った者が出てきた時に厄介なことになりそうだな。というか極水龍のヤツ俺が男であること話さなかったのか。と思ったが、俺そもそもアイツに男であること話したっけ……?
「精神を見ればわかります。貴方のような強きものが味方として動いてくれていることには感謝してもしきれません」
「そんな、流石に過大評価し過ぎですって」
「いえ、私を追い詰められるんです。そんじょそこらの者とは格が違いますよ!」
ま、まあそう言われて悪い気はしねえな。期待されることは別に嫌いじゃねえ。……正之の奴は一族からの期待に押しつぶされそうになっていたが、それを乗り越えて人として成長していた。期待されているってことは成長出来るってことでもあるんだ。よし、俺もまだまだ強くならねえとな。
「それはそれとして、貴方の体は今大変なことになっていますので……それ!」
「ぐっぎぃぇぁっ!?」
肩の後ろ、肩甲骨辺りを指で押し込まれた瞬間だった。今まで出したことの無いへんちくりんな声を出してしまった。
「言ったでしょう? 私は人体には少し詳しいのです。有効なツボの場所や押し込む強さは完璧に把握しています」
「ま、待って……くださ……ぅぐぅっ」
痛みと気持ち良さが一斉に襲って来る。肩のツボを押されるたびに、温泉で温まって良くなっていた血流がさらに巡り始めるのを感じる。
「な、なんなんですかこれぇっ……」
「ふふっ凄いでしょう? 以前極水龍にやってあげたら、最上位種が出しちゃいけないような声を上げて悶えていました」
絶対ヤバイやつだろそれ。だが確かな効果を感じるのも事実だ。痛みに負けないだけの気持ち良さが常に襲って来やがる。これは耐えようと思って耐えられるもんじゃねえ……!
「ひっぐぅっ……ちょ、ちょっと一旦……あぎぃっ」
「ふふっ、なんだか楽しくなってきました」
俺の悶える様子を見て、極氷龍は笑いながらツボを押し続ける。まるで悪魔だ。善意でやってくれているのが余計に困る。
「な、なんか変な声が聞こえてこないか?」
「幻聴だろ……と言いたいが、俺も聞こえてくる」
抑えることの出来ない声が、とうとう向こうにいる二人にも聞かれてしまった。別に疚しいことをしているわけじゃ無いが、こんなみっともない声を聞かれるのはなんか、なんか……!
「とどめはこの一撃です!」
「はぐぁっっ!?」
う~ん、妙なエクスタシー。戻ってこられなくなっちまうかもしれない。幸い、新たな扉を開かれちまう前に彼女のツボ押しは終わったようだった。
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