16 獣王国の炎の龍

 王城前に辿り着いた時だった。


「うぉっと!? 何事だぁ!?」


 クソみてえにデカイ爆発音が聞こえてきたと思ったら、なんと王城の奥から火が出てやがった。明らかに異常な状況。俺に反応したわけでは無いと思いたいが……。


 とりあえず中に入ってみるか。追い出されたらその時はその時だ。


 正門をこじ開けて王城の中に入ると、そこは埃だらけで人の気配と言えるもんが無かった。やはりおかしい。少なくとも国の中心と言える王城の中がこんなにさびれることなんてあんのか……?


 とりま爆発があった奥の方まで行ってみるか。


 廊下には蜘蛛の巣が張られている。長いこと掃除されていないってのは確実だろうな。


 さらに奥まで進むと、扉が吹き飛ばされている部屋があった。内側から強い力で飛ばされたって感じだな。恐らく外から見えた爆発の正体だろう。何が起こるかわからねえし、警戒しながら見るとするか。


 ゆっくりとクリアリングしながら部屋の中を確認した。しかしそこには何も無かった。正直拍子抜けだ。ここで強敵と接敵でもすれば大分話が進むんだけどな。ひとまず何かしらの痕跡でもあれば良いが……。


「お?」


 爆発か何かで大きくぶち開けられている部屋の壁。どうやら見た感じ爆発によって開けられたというよりかは超高温で溶けたって感じだな。であればかなり絞れるぜ。この国に向かったっていう極水龍の仲間は極炎龍だ。この超高温もそいつがなんやかんややったって考えれば辻褄はあう。それにこんな狭い所で超高温を発生させれば温度差によって密室内の空気が膨張して爆発してもおかしくは無い。


 ふっ……尻尾掴んだぜ。ドラゴンだけに。


 恐らく俺が城内に入るのと同時にここから飛んでいったと考えられる。俺の魔力だか気配だかを察知して逃げたってことかね。だがそうなると何故逃げたのかが気になるところだ。極水龍と同じ最上位種なら戦っても良いだろうに。それに飛んで行かれたってなるとここから完全に詰むんだが。王城以外だと怪しそうな場所は無いし。


「ひいいぃぃいぃ!?」

「きゃああっぁぁああぁ!!」


 そう考えこんでいた時、外からめっちゃ悲鳴が舞い込んできた。どうやらそう悲観的にならなくても良さそうだ。どう考えたって関係あるだろこれ。




「ウゥゥゥウウゥゥウガァアッァァ!!」

「ひぃいぃぃ!?」

「肉だ……肉が喰いたい……」


 もう限界だ。獣人を襲うなと言われていたが、これだけ香しい肉の臭いが充満する国で耐えられるはずも無かろう。


「だ、誰か……助け……」


 ああ。その情けなく助けを呼ぶ姿が俺の食欲と嗜虐心を刺激する……!


 どのように食べてやろうか。どのように痛めつけてやろうか。腕から噛みちぎろうか。足から丸呑みにしてやろうか。考えれば考える程、涎が止まらなくなるぜ。


「あ……あぁっぁぁああっぁ!!」

「さあ、この世とおさらばする準備は出来たか?」


 獣人を掴もうと腕を伸ばした時、何か物凄く速い塊が目の前を通った。


「……ァ? ぐっああぁっぁあ!?」


 腕が、斬り落とされていた。見えなかった。一瞬何かが通った。それだけだった。


「ぅっぐ……貴様……何者だ」


 ありえない程の速さで俺の腕を一瞬の内に斬り落としたそれは、一人の獣人だった。


「うん? お前、なんか違うな」

「何だと?」

「お前からはアイツのような凄みと言うか、何と言うか圧倒的な強者感みたいなものがねえ」

「何が言いたいんだ貴様は……!」


 目の前の獣人は少し考え込んだ。隙だらけのはずなのに体が動かない。生物としての、龍としての本能が動いてはならないと警鐘を鳴らしているようだった。


「なんつうか、弱い。弱すぎるんだよななんか」

「き、貴様ァ! 俺を侮辱するかァァ!!」


 この獣人はあろうことか俺を侮辱する言葉を言い放った。それを軽く流せるほどに俺は優しくは無い。必ず殺す。いや、ただ殺すだけでは足らない。出来る限りの苦痛を与え、絶望に染まった所を喰らい尽くしてくれる!


 斬り落とされた方とは別の腕を、今度は本気で伸ばす。先程は抵抗して来ない標的だったから油断していたが、今度は本気だ。俺の本気の速さの前に獣人如きが勝てるはずは無い。


 そのはずだった。


「嘘……だ。嘘だ嘘だ嘘だァァ!!」


 本気で掴みかかったはずの俺の腕は、またも容易く斬り落とされたのだ。


「グアァァッッ!! 大人しく俺に喰われろ獣人風情がァァ!!」


 こうなったら自棄だ。俺のプライドをかけてこの獣人を殺して喰らう!!


「何と言うか拍子抜けだ」

「ァ……ァ?」


 一瞬。一瞬だった。ヤツが動いたと思った瞬間、俺の天と地は逆さまになっていた。


「アガッ」


 目の前に地面がある。どういうことだ。体が動かない。


「おお、首だけになっても結構ピンピンしてるんだな。流石は龍種だ」

「なん……だと……?」


 こいつは今何と言った?


「さて、ちょうどいいし色々と教えて貰おうかね」

「何をする気だ……」

「王城の爆発。あれはアンタがやったのか?」


 コイツ……まさかあの爆発を見て俺を追って来たのか!?


「状況的にお前が起こしたとしか考えられないんだが。何か反論はあるか?」

「いや……確かにあの爆発は俺が起こした」


 正直に言わなければ殺される。俺の本能がそう囁く。俺たち上位の龍種は首だけになっても数週間あればなんとかなる。だが今ここで粉みじんにされたら流石の龍種でも復活は無理だ。情けない話だが、ここは大人しく従うしか無いだろう。


「やっぱりか。だが俺が知りたいのはそれじゃない。アンタ、極炎龍って知ってるか?」

「ッ!!」


 なんで急に極炎龍の事を……まさか国内に情報が漏れていたのか?


「……ああ」

「なら話が早い。俺はその極炎龍に会いたいんだ。いまどこにいるかわかるか?」

「会う……だと?」

「ああ。まあ色々あってな。出来れば今すぐにでも会いたいんだ。そして話したいことがある」

「……残念だが俺の口から言うことは出来ない」


 これ以上のことは言えない。計画のことがバレれば俺は遅かれ早かれ始末される。そうなってたまるか……!


「そうか。なら実力行使に出るまでだが」

「ゥガッァアア!?」


 こいつ、動けない俺の目を……!


「流石の龍種でも目をほじくられるのは痛いだろ? 早く言ってくれれば楽になるぜ?」

「外道が……!」

「外道で結構。致し方ない犠牲だ」

「ぐっ……」


 本気だ。こいつの目は本気で俺を拷問する気でいる。……どうせこのまま殺されるんだったら、全部吐いて逃げるか。逃げ切れるかはわからねえけどな……。


「わかった降参だ全部話す。まず極炎龍についてだが、この国の地下深くにある研究施設にいる」

「研究施設?」

「ああ。もう全部ゲロっちまうが、速い話この国を乗っ取った輩が極炎龍で実験をしてるんだよ」

「乗っ取ったか……」


 何やら独り言のように呟いているが声が小さすぎて聞き取れないな。まあいい。


「そんで国民にはバレないように国王を始末し、その代わりとして俺『フレイムドラゴンロード』が国の重鎮として動いていたんだ。まあそのせいで喰っちゃいけない肉に囲まれる生活を強いられたわけだが」

「その見た目でか?」

「人化スキルと変化スキルを組み合わせて王のフリをし続けたんだよ。おかげで限界が来ちまった。理性じゃ制御が出来無くなっちまったんだ」

「なるほどな。それで国民を襲っていたと」

「そうだ。まさか貴様みたいなのがこの国にいるとは思わなかったがな」

 

 思えばこいつのせいで全てがおかしくなった。そもそもこんなヤツ、この国にいたか?


「それじゃあその研究施設とやらに行くとするか。そこにいけばもっと情報が得られそうだしな」

「なら俺はもう行って良いか?」

「ああ。とその前にその施設への入り口を教えて貰わないとな」

「それなら……ぐほぁ……何だ、これ……?」


 どうなっている……意識が……。




「おいっ!! クソッ!」


 一体何が起きたんだ。いきなり吐血して動かなくなりやがった……。


「……」

「誰だ!?」


 気配があった気がしたが、振り返るとそこには何もいなかった。研究施設の入り口について聞いたタイミングでこれだ。何者かが口封じをしたのだろうか。だがどうやってやったのかがわからねえ。村では毒を使ったものだったが、こいつにおいては毒と思われる症状は出ていない。それにこいつ本人には死ぬ気が無かった。自ら毒を服用したわけでは無いとなると遅効性の毒になるが、だとしてもタイミングがおかしい。


「……」


 まただ。また何かの気配がする。しかし振り返るとそこには何もいないし何も無い。いったい何がどうなってやがるんだ……。


「うぐぉっ!?」


 考え込んでいた時、何かに後ろから引っ張られた。


「何だ!? おいおいこれはどういう……」


 何が起こったのか確認すると、今さっきまで俺がいたところに何か光るものが舞っているのを見て取れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る