10 悪は裁かれるべき
「ふーん、よく見たらお前も結構良い女じゃん。どうかな、僕の女になってくれたら命だけは助けてあげるけど?」
「俺がその答えに『はい』と答えるとでも?」
「あっそ。じゃあせいぜい後悔するんだね!」
Sランクというだけあって動きも速い。だがここ最近もっと速い極水龍と戦ってたんだ。これくらいの速さでは遅く見える。
「獣宿し『
「はっは! どうだ、これだけの攻撃を受ければあっという間にひき肉に……おいおいどうなってんだ?」
攻撃力も凄まじく高いな。ドラゴンロードくらいなら瞬殺だろう。だが獣宿し『剛鎧』によって金属のように強化された俺の皮膚には一切のダメージは入らない。
「ふざけるな……僕はSランクなんだ! こんなヤツに負ける訳が無いんだ!」
「うぉっ!?」
短剣を隠し持っていやがったな。リーシャを守りながらだと戦いづらいが、何をして来るかわからない以上は俺の後ろにいた方が安全だ。
「どうだどうだどうだァ!! 獣人風情が僕に歯向かうとどうなるかを教えこんでやる! 散々いたぶってから奴隷として売ってやるから覚悟しやがれ!」
「どうしてお前はそんなに獣人を目の敵にするんだ?」
「どうして……だと? そんなの、獣人は俺たち人間に尽くすべき人種だからに決まっているだろう!」
「なるほどな。理由は分かった。だが残念ながら負けるのはお前の方だ」
「何……?」
逆上して状況が見えていないのか。何とも可哀そうな奴だ。
「お前の攻撃は俺には通用しない」
「何を言っている……そんなハッタリ誰が……」
「わかったか?」
クライムは一切傷のついていない俺の腕を見て、みるみる顔を青くさせていった。その気持ちわからなくは無いが、お前の場合同情は出来ねえな。
「嘘だろ……いや、ありえない。だって僕はSランク冒険者でレベルだって40もあるんだ……こんな獣人如きに……」
「お前に俺は倒せない。諦めるんだな!」
全力で蹴りを入れてやった。数メートルは吹き飛んだだろうか。これで戦意を失ってくれると助かるんだが。
「ふぅ……ふぅ……随分とアクティブなことをしてくれるじゃあないか。流石の僕もそんな短いスカートで蹴りを入れてくるとは思わなかったよ」
「こんな時に何を言って……ッ!?」
思わずスカートを抑えてしまった。
「いや、えっなんで……」
スカートの中なんて見られたって何ともねえはずなのに……体が……脳が勝手に……。
「フフッ……なんだ、思ったより可愛らしい所あるんじゃないかグボァッァ!」
「うるせえ! 変なこと言うんじゃねえ!」
妙な事を言いやがるからもう一発蹴りを入れてやった。
クソッ何かがおかしい。体に精神が引っ張られていやがるのか? 頬が熱い。恥じらいを感じている……俺が……?
「ゲホッ……良い足だ。やはり君が欲しくなったぞ。今一度問おう。獣人奴隷として可愛がってやるから僕のものになりたまえ」
「うわぁキモイんだよ! 誰が奴隷になんて、ましてやお前みてえなヤツのもんになんてなるかよ!」
「なら仕方が無い。ここで死ぬんだね」
何だ? ヤツの周りに魔力が集中していやがる……。
「僕の本気、見せてあげるよ。獣人風情では絶対に辿り着けない最強のSランクの力を!!」
こいつは剛鎧でも耐えられ無さそうだぜ。だが魔力の塊ってんならこちらにも策がある。
「獣宿し『
腕を触手のような形態に変化させ、俺とリーシャを守るように配置しておく。こいつがあればヤツの魔法攻撃を無効化出来るはずだ。
「今更何をしようが無駄だ! 食らいやがれ、アステロイドショット!!」
「ショータ様!!」
「心配すんなリーシャ」
ヤツの放った球体が妙な軌道で飛んできやがるが、俺たちにはとどかねえ。
「はっはっは! どうだ! 獣人如きが僕に歯向かった罰だぁ!! ……っはっは……は?」
「馬鹿笑いしやがって。お前の攻撃は一撃たりとも食らっちゃいねえよ」
「ふ……ふざけるな! 今のは僕の全力の魔法攻撃だぞ!」
そう、その魔法攻撃ってのがミソだ。俺の獣宿し『蝕命』は魔力を吸収する性質を持っている。純粋な魔力しか吸い込めねえから基本的には遠距離攻撃とかでしか恩恵を受けられねえが、それでも十分な程に便利な能力だ。
それに今回みたいに市街地で大規模攻撃をぶっ放す馬鹿がいやがるから、そういう時に被害を軽減出来て便利なんだよな。
「何だ今の音は!」
「ク、クライム!? どうしてあなたがここに?」
「アルバート!? それにアマンダまで!」
どうやら今の音は街中に響いたみたいだな。Sランクパーティのメンバーがやってきた。こういう時に行動が速いのは流石ってところか。
「こんな街中で大技を使うなんて何考えているのよ!」
「違うんだアマンダ! アイツらが……」
おいおい先に手を出したのはそっちだろうがよ。
「この獣人の嬢ちゃんたちがどうしたってんだ?」
「気づかないのか!? こいつらは獣人のフリをしてこの国に入り込んでいる魔族なんだぞ!」
待て待て、いくらSランク冒険者様だからって流石にそれは無理があるだろうよ。
「魔族……? そんなふうには見えないのだけど。それに魔族特有のドス黒い魔力も感じ無いし……」
「ああ、そうだろうな。何しろ巧妙に偽装している。俺じゃ無ければ気付くことも出来なかっただろう」
「どうしたクライム。お前なんか変だぞ?」
……仲間たちの反応から見るに、ヤツは仲間にバレないように影で色々やってきたってことか。恐らく今までも上手いこと言いくるめてきたんだろう。しかし厄介だ。輝かしい経歴を持つSランク冒険者と少し前にやって来た獣人では信頼度が違う。このままでは俺が何を言っても覆せない状況に持ち込まれるかもしれねえ。
「一体何事だね」
「国王様?」
「おお、ショータ殿か。それとそちらはSランクパーティの皆様方であるな」
「なっ……お前国王と面識あんのか!?」
目に見えて動揺しているな。俺がただの一般獣人だと思って強気でいたのだろうが、生憎と俺は龍殺しの英雄なのでね。
「何やらただ事ではない様子だな。話を聞かせてもらおう」
「彼……クライム殿は俺とリーシャのことを魔族だと言っているのです。ですが当然そのような事実はありません」
「うむ、そうであるか」
「い、いや……それは……ああそうだ! きっと国王様も操られているんだ! クソッ狡猾な奴らだ。既に国の内側にまで侵食しているとは……」
国王の前でもまだ嘘を貫き通すつもりなのか。流石に無茶では?
「いい加減にしろクライム。お前言っていることが滅茶苦茶だぞ」
「何か幻術にでもかかっているのかしら」
「……なら私に任せて」
「エイミー、何か出来そうか?」
「うん。……とりあえず解呪魔法と浄化魔法をかけてみる。あと」
エイミーと呼ばれた少女が俺たちを手招いている。一体何をしようってんだ……?
「……もしあなたたちが魔族なら浄化魔法でダメージが入る。だから確かめさせて」
「あ、ああ。それで疑いが晴れるなら頼む」
彼女はクライムと俺たちに浄化魔法をかけた。その結果、両者共に変なもんは確認できなかったみたいだ。
「……クライムは正常。でも彼女たちも魔族じゃない。……どういうこと?」
「それって、クライムが嘘をついているってことよね?」
「いや……俺は……」
「うむ、どうやら妙なことになっているみたいだな。どれ、あまり使いたくは無いが……尋問用の魔法を使わせてもらおう」
「や、やめろ……!」
あ、逃げやがった。
「待てクライム! お前のためでもあるんだぞ! もしかしたら新種の洗脳魔法や幻術かもしれないし、このままでは今後の活動にも影響が出る」
「放せ! 俺は違う!」
「では念のため、この場の全員に効果を付与させてもらおう。嘘偽りなき答えを神の前に……アイデワイト!」
うぉっまばゆい光が目に悪い! だがこれではっきりするな。ヤツが全て悪いのだと!
「では改めて聞こう。まずはショータ殿。貴殿とリーシャ殿は魔族では無いのだな?」
「はい。俺もリーシャも魔族ではありません」
「そうか」
「では次にクライム殿。貴殿はショータ殿らを魔族と言ったようだが、根拠は存在するのか?」
「ぅっぐ……いいえ、ありません」
良かった、Sランク冒険者とは言えど流石に抗うことは出来ないようだ。これなら俺たちの身の潔白は証明されそうだな。
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