グラン・トピアの十戒 ~ 外延世界を覗くモノ ~
TamZo(たむぞう)
無限販売(チート)
グラン・トピアの十戒
嘘をついてはならない。
物を盗んではならない。
命を絶ってはならない。
自治区から出てはならない。
資産を持ってはならない。
職業を変えてはならない。
探求者を傷つけてはならない。
探求者を罰してはならない。
偶像を崇拝してはならない。
魔王の名を唱えてはならない。
リンネは道具屋へ向かっていた。
苔生した石畳の小道を歩いた先に、その道具屋はあった。小さいながらも立派なオーク材造りの二階建で、一階が店舗になっている。しかし町外れということもあって、客が来ることは滅多にないことをリンネは知っていた。ごく稀に『
シーカーとは、世界各地に現れる凶悪な魔獣から人々を救う役割を担う者ことを言う。
リンネはウーノスという田舎町で小さな鍛冶屋を営む両親の元に生まれた。13歳になってから仕事を手伝い始めたが、好奇心旺盛なリンネにとっては退屈そのものであった。そのため、世界を自由に旅するシーカーに人一倍の憧れを抱いていた。
入口の扉を開けると、薬草やアルコール類の入り混じった独特の香りが鼻をつく。薄暗い店内には所狭しと品物が並んでいる。
「お嬢ちゃん、今日も持ってきたのかい?」店主が訊ねた。
「まあね」
リンネは鞄から薬草を取り出してカウンターの上に置いた。
店主が鑑定用ルーペをかざす。
「8ミスルだ」
店主は銀貨1枚と銅貨3枚を掌に乗せて差し出す。
「おっちゃん、まいど」
リンネは硬貨を鷲掴みにして鞄に放り込むと、くるりと向きを変えて出口へ向かった。
店の外に出るとマルクが駆け寄ってくる。
「やっぱりここにいた」
「なんであんたがここにいるのよ……」
リンネは深いため息をついた。
マルクはリンネより2歳年下の幼馴染で、いつもリンネに付きまとっている。リンネと同じ『グラスビット』という種族で、この地域ではそれほど珍しくない。性格は温厚だが、職人気質で頑固なところがある。大人になっても身長は1メートルを少し超える程にしかならない。顔立ちがとても幼く、髪は金髪で大きくカールしているのが特徴的である。
「またあの実験をしてるの?」マルクが訊ねた。
「いいでしょべつに、マルクに関係無いし」
リンネは吐き捨てるように言って通り過ぎたが、マルクは背後から食ってかかる。
「いつかゴレムに連れて行かれちゃっても知らないぞ」
リンネはそっぽを向いたまま足取りを早める。マルクは諦めた表情でリンネの後を追った。
『ゴレム』とは冥界に巣食う悪魔であり、十戒を破った者の成れの果てである。創造神アーティはこの世界を創ると同時に、住人が遵守すべき絶対的な掟『グラン・トピアの十戒』を定めた。これを破った者はゴレムに冥界へ連れ去られ、遂には自身もゴレムに姿を変えられると言われている。
ただし、この世界に十戒を破ることを許された唯一の者がいる。シーカーである。
リンネは道具屋の真裏にある勝手口で足を止め、傍にある小窓から店内を覗いた。
「マルク、あっち側からおっちゃんに話しかけて」
「えーっ、またやるの?」マルクは不貞腐れた表情で抗議した。
「どうするの?」リンネが冷たい目線を向ける。
「……わかったよ。やれば良いんでしょ、やれば」
マルクは被りを振って店の表口に向かった。リンネは小窓から様子を伺いつつ、そっと扉を開けて店内に忍び入った。
暫く様子を伺っていると、マルクが表の扉から店内に入ってくる。リンネは素早い動きで店主の後に置かれている宝箱に手を伸ばした。鍵穴に何やら光るものを差し込むと、宝箱が静かに開いた。中には先程売った薬草が入っている。リンネはそれを素早く鞄に押し込むと、すぐに店を出た。
町の中心にある噴水の縁石に二人は並んで腰掛けた。リンネは近くの露店で買ったパンを頬張っている。
「おかしいことだらけだよ」マルクは苛立っていた。
「どうして? 自分が売った薬草を盗んで、それをまた売っただけだよ」
口をモグモグとさせながら平然と答えるリンネを見て、マルクは益々苛立った。
「それがおかしいって言ってるんだよ。人の物を盗んだらゴレムに――」そこまで言ったところで、マルクの口にリンネの食べかけのパンが詰め込まれた。
「ごぷっ」マルクが咽せ返る。
リンネは不意にマルクの腕を掴んで立ち上がった。
「あにふふんたお(何するんだよ)」
「いいからちょっとおいでよ。特別に教えてあげる」
リンネはマルクの手を引いて駆け出した。
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