26話 混乱の帰還〈side リュカ〉

 〜ソフィアと別れてすぐ〜


 

 俺は、ラビンス王国へ帰還した時、すでに、クーデターの準備は終わっていた。軍勢・1万(魔物含む)


 「ソレイユ。これは、なんだ?」

 「テオさまを見限ったものどもです。みな、リュカさまが王となることを望んでおられます」

 「テオは、どこへいる?」

 「寝室かと」

 「そうか」

 「すぐにでも、戦う準備は整っております」

 「・・・・・・軍勢は、1万もいらない」

 「と、言いますと?」

 「俺1人で、十分だ」


 意味が飲み込めていないソレイユを残し、俺は、テオの元へ向かう。


 途中で何人かの兵に道を聞き、殺し、たどり着いたテオの寝室であろう扉を蹴飛ばす。


 テオは寝ていたようで、ベッドの上にへたり込んでいる。


 「なっ、なんだ!?」

 「テオ、か?」

 「お、お前は、リュカ?」

 「ああ。そうだ。お前が殺そうとした、な」

 「・・・・・・っ」


 テオは、近くにある剣を取ろうとしたが、俺がそれを許さない。何人かの血がついた剣を身動きができないように、動いたらすぐにでも突き刺せるように、テオの首筋に当てる。


 「な、なにが望みだ!?」

 「・・・・・・平穏」


 俺の、平穏じゃない。ソフィアたちの、ソフィアの、平穏。ソフィアが、平和で、幸せな世界にいてくれたら、それだけで、いい。


 ただ、それを、壊すような奴がいるのなら、俺は、赦しはしない。


 「俺は、王位など興味はない。ただ、お前がいることで、ソフィアが不幸になるのなら、お前を、殺し、俺が王となる」

 「・・・・・・フッ。はっはっはっはっは」


 急にテオが、狂ったように笑い出した。


 「さすが、兄上の息子だ。そうか。そうか。かわってくれるのか!?この、血に塗れた王冠を。王位を!!」

 「なんのことだ?」

 「さあ、殺すがいい。この国の、王となったものは全員、前王を殺して、王になっている。王となる資格があるものは、王となるものを殺すのだ」

 「そうか。今までご苦労だった」


 血飛沫が舞い、頬に生ぬるい液体がかかる。ソフィアといたころは、人を殺すことに抵抗があった。殺した人にも家族はいるのだから。その家族は、悲しんでしまうから。


 だが、なぜか、今はなにも感じない。殺した兵にも、家族はいるのに。ただ、ただ、何かが空っぽになっていく。それだけだ。


 俺の足元と、血溜まりを作って倒れているテオの元に魔法陣が描かれる。


 王位継承のための、魔法陣だろう。光と魔法が俺を包み込み、やがて、消えた。


 バタバタと音がして、部屋の中に兵とソレイユが駆け込んできた。


 「リュカさま、これは・・・・・・」

 「お前は、を望んでいたのだろう?」

 「城内に兵は、少なくとも50はおりましたが」


 そんなにいたのか。


 「王妃は、どこへいる?」


 ソレイユとソレイユに聞くと、なぜかビクッと震えたように怯えて、こちらです、とソレイユは俺を案内した。


 下手すると、テオの寝室よりも広く、豪華な部屋で、目の前にいるのは、俺を憎らしそうに睨む継母。


 「お久しぶりです。王妃」

  

 ふんっというような鼻で笑う声が聞こえた気がする。


 「あの人を、殺したのね?」

 「ああ」

 「あなたじゃないわ。王となるのは。私の息子のルーカスよ!!」

 「別に俺は、王位なんかに興味はない。だが、あなたたちにこの国を任せたら、メチャクチャになるのは明らかだ。子供でもわかる」

 「なっ。お前、誰に向かって口を聞いていると!?」

 「あなたこそ、誰に向かって口を聞いている。俺は、」


 そう。俺は。


 「俺は、この国の王だぞ?」


 ラビンス王国の、国王だ。




 

 テオを殺し、王となったことを国民や、他国への報告。

 

 テオを殺したことを咎められるかと思っていたが、そうでもなく。ただ、新王即位に対する喜びだけが、俺に届いた。


 「リュカさま。縁談の話が届いておりますが」


 ソレイユか。


 「どこからだ?」

 「それが、カラサイム王国の、第1王女さまだそうで」

 「そうか」


 遅からず、そんな話が来るだろうと思っていた。


 「話を進めておけ」

 「は、はい」


 やるべきことはまだたくさんある。


 城内に残っているテオ派の貴族の清掃。俺に敵意を持っているであろう王妃、弟の対処法。一応、王妃は今は幽閉しているが。それに、国内の統治。


 「・・・・・・それが、1週間後にこちらへいらっしゃるようで」

 「それは、本当か!?」

 「ええ」

 「そうか」


 カラサイム王国は、軍事力、経済、ともに発展している国だ。そんな国の王女を、無碍にはできない。

 

 「後宮を、一掃しておけ」

 「はい」


 後宮。それは、とても恐ろしい場所だ。


 顔も声も知らない俺の母は、元々、父と母は政略結婚だった。よくある話だ。


 母は、俺を産んだ後、後宮の中で、賊に殺された。後宮は、王とその側近しか男は入っていけない決まりとなっている。警備は厳重だ。その中で、名も知らない賊が侵入し、母は殺された。母は賊に殺されたらしいが、多分、他の女が雇った刺客にでも殺されたのだろう。

 母が亡くなり、母の次に正妃となったのは、キーラだった。母の身分は、公爵令嬢で、キーラは伯爵令嬢だった。

 父は元々、恋仲だったキーラを正妃としたかったそうだが、身分の違いで、最終的に、母が正妃となった。さらに、第1皇子で、王位継承権1位となった俺を産んだ母を、キーラはとても恨んでいたそうだ。


 後宮には他にも、たくさんの女がいる。妃ではない、他の侍女にも、稀に王の目がかかる時がある。虎視眈々と、“その時“を狙っている女が、たくさんすぐっている場所だ。

 

 女同士のいじめは日常茶飯事。もし子を孕んだりしてしまえば、毒見が100人以上必要となる始末。女の欲と陰謀が渦巻く場所。そんなところに甘やかされて育ってきたであろう王女が入ってくる。心が壊れなければいいが。


 ただ、そんな場所でも、ソフィアは・・・・・・。


 ぐしゃりと自分の髪の毛をかく。決心したはずなのに、こんな時にでもソフィアのことを考えてしまう。


 大丈夫だろうか。ソフィアは。1回言ったことは、絶対にやり遂げてしまうから。俺に、会いにいくと言ったからには、絶対に、この国に来るだろう。そして、知るだろう。


 俺がどんなに、汚いか、汚れてしまったか。


 君が知っているリュカは、もう死んでしまったのだということを。


  

 

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