第6話 クソ生意気なイケメン、略してクソ生メン
イマサラながら、自分の置かれている状況の意味不明さに
そしてその男の人は、ガヤガヤとした
「静まれ! 一体これは何の騒ぎだ」
その声に周りの喧騒は徐々に収まっていき、程なくして、その場には静寂が訪れる。
あーしは一声で周囲を黙らせた男の人の声に関心していたケド、すぐにハッと気がついた。そう——
「コイツ日本語喋ったぞ……」
「
その男の人は、丈のめっちゃ長いコートみたいなのを着てた。——いや、これはコートというよりローブってやつ?
ローブの男の人は、騒ぎの中心のあーしに気がついて、こちらに話しかけてくる。
あーしは今も人質のおっさんに剣を突きつけているというのに、男の人はそれをまったく意に介していないかのよーな態度だった。
「つーか、あーしの言ってること分かるの?」
「当然だろう。言葉も通じないのに話しかけたりなど、そんな無駄なことはしない」
何がトーゼンなのかは知らんけど、どーやらこの偉そーなローブの男の人はあーしの言ってることが分かるみたいだ。そしてあーしもこの人の言ってることが分かる。
それがナゼなのかは分からないケド、まあそもそもここには通訳のアレのためにきているのであって、それなら言葉のつーじる人がいてもおかしくはないやろーとは思う。
つーかそんな人が居るなら最初からソイツ出てこいよと思うんだケド。そーしたら絶対こんなことなってないじゃん?
つまりこんなことになったのはムコーのセーじゃん。やっぱりあーしは悪くなかった。
「だったらいいや。あーしは——」
「今すぐその人物を解放したまえ」
あーしが何か言おうとしたら、ローブの男の声に
「この程度の事態にわざわざ手こずりおって。まったく、言葉が通じないだけでなぜこれほどの騒ぎになるのやら」
まるですでに事態は解決したと言わんばかりの態度で、ローブ男は愚痴をこぼし嘆いてみせる。
あーしのことはすでに眼中にないかのよーだった。
「ちょっと! あーしは——」
「何をしている? 私に同じことを二度も言わせるな。今、お前がすべき事は、
「はぁ?! マジあーしは——」
「私はお前のような小娘に
いやオマエ!! お前が人の話を聞け!
つーかさっきからあーしの話をとちゅーで
つーかマジでコイツなんなの? 人のことイラつかせる天才かよ。言葉通じてもゼンゼン話にならないから意味ないんですケド!
こんなんだったら、こんなヤツ出てこなかったほーがマシやろ。チェンジしろチェンジ。これならまだ、あのボッタクリのおっさんのほーがマシだったわ。
さっきから何度も口を開いては邪魔されたので、さすがのあーしも口を開くのを
ただ、沈黙しつつも剣はしっかり人質のおっさんに突きつけられている。
こんなヤツが出てきた以上、今おっさんを離してしまうのも迷う。この
あーしが黙ったのを見て、ローブ男は最初はあーしが諦めたのかと思ったようだったけど、一向にあーしが動きを見せないのを見て
「おい、どうした。なぜ黙ってる。なぜ動かないのだ?」
心底分からないといった風に、ローブ男はあーしに話しかける。
あーしはとにかくイラついていたので、今度こそは遮られないように短くそれに応じる。
「うっせバーーカ」(`・∀・´)
憎たらしい顔と共に。
一瞬、何を言われたのか理解出来なかったようで、ローブ男はポカンとした顔をしていた。——しかし、その顔は見る見る真っ赤に染まっていき、表情はまさに憤怒! といった感じに変わった。
うっわー、こいつ
その顔を見て、さらにバカにしたような顔をしたあーしに気がつくと、ローブ男はもはや形容しがたい表情になって激怒した。
「おっ、おまっ、お前っ! ふ、ふざ……ふじゃけるんぬぁんくあん!!」
もはや
「いや何言ってっか分かんねーし。マトモに喋れねーの?」
さらに煽るあーし。
「——ッッ……、——ッ……!」
すでに言葉も失ったロブオ。
オイオイ、こいつダイジョーブかよ、とあーしが思っている間も、ロブオはずっと
こいついかにもエラソーにしてるし、今までこんなバカにされたことなかったのかもねー。はじめての経験にすごく
つまりコイツにとっては、あーしが初体験ってことか。今度はあーしがコイツの初体験奪っちゃったよ。
こいつよく見たら顔はけっこーイケメンだけど、あーしオレ様タイプのエラソーなやつとかムリだからコイツはムリだけどね。まあ、向こうも同じこと思ってそーだけど。
つーかいつまで俯いてんの? エリートは打たれ弱いってマジじゃん。こいつたぶんエリートだもんフインキ的に。
とか思ってたら、どーも様子がおかしいことにあーしは気がついた。
どうやら、口の中で何やらブツブツ唱えてるみたいなんだけど……何やってんのコレ? ショージキ頭がイっちゃったよーにか見えねーんすケド?
とか思ってたら、なんだかロブオの方から妙な気配が漂ってきた。これは別に俯いてブツブツ言ってるからってわけじゃなくて、もっと別のよくわからない気配。
そういえばさっき、おっさんの部屋で剣を抜く前にもこんな気配がしたような……。
とか思ったら、当人のおっさんが何やら騒ぎ出した。今まではいちおー大人しくしてたのに、なんじゃ?
これは、どーもおっさんもこの気配を感じているんか? なんで慌ててるんや……?
とかなんとか考えてたら、ロブオの気配が一気に膨れ上がった。
それからロブオは、顔をあげてあーしの方をカッ、と睨みつける。そして手のひらをこちらに向け、なんだかよく分からない言葉を発した。
それに連動するように、ロブオの方から目に見えない嫌な気配が、うねるように襲いかかってくるのを感じた。
あーしは避けることもできず、その気配に包まれていく。
すると、ふっ、と信じられないくらいに
——なん、だ、これ……う、ヤバ……。
人質のおっさんが床に崩れ落ちる。
その音がやけに、脳内に響くように感じる。
眠りに落ちる直前、あるいは起きてすぐのぼんやりしたまだ覚醒していない脳に響くような感覚。それが次第に遠ざかっていき、あーしの体の感覚も消えていく。
膝の力が抜け、体重がフッと重力に支配される。
このままだと床にぶっ倒れて爆睡する……!?
必死に
なす
それに反射で焦りを覚えて、一瞬だけ意識が
——ちょま、まさかあーしオモラッシしてないよね?
女子としての
——
一瞬よく分からなくて焦ったケド、すぐに悪いものではないと感覚で理解する。
どころかその暖かいナニカが体に広がっていくにつれて、体の感覚が戻ってくる。
足を踏ん張れば、崩れ落ちる寸前に体を支えることが出来た。
温もりは全身に広がり、
あーしは完全に謎の睡魔の影響から脱した。
それどころか、さっきまでより体の調子が良くなっているよーな気さえするくらいだった。
なんか鞘くんにも不思議な力があるっぽいのには驚いた。
ショージキまだ混乱していたケド、それよりも目の前のロブオだ。
ぜってーコイツが何かしたのは間違いない。問題は何をされたのかゼンゼン分からんこと。
当のロブオは、あーしが耐えて踏ん張ったことにかなり驚いてる。目を見開いて口をあんぐり開けて、
「バカな、
などと叫んでいる。
ロブオが慌ててるのを見てあーしは少し落ち着いたケド、ショージキどーしたもんかと思っていた。
だっていきなりなんか謎の能力とか使いやがったから、あーしとしても警戒心がひじょーにシゲキされるわけで。
てか人質のおっさんがなんの役にも立たなかったじゃん。たぶんあーしに起こったよーなことがおっさんにも起こって、おっさんはソッコーで寝ちゃったんだろーけど。
まあ、あーしも一緒に眠らせてしまえばおっさんも安全だから、巻き込んでも問題ねーってことなんだろーけどさ。
こんなに簡単に眠らせられんなら、確かに人質とか意味ねーわ。
つーかヤベーわ、これどーすんだよ。また来たら防げるのか分からんぞ。つーかジッサイ、防げてなかったし。食らった上で耐えてた感じだし。
体感上は長く感じたけど、ジッサイはネムケでグワってなってたの数秒も無かったと思う。
でもその数秒がまずヤバやん? さっきはトツゼンだったしムコーも反応してなかったけど、その時に兵士とか突っ込んで来てたらヤバかった感あるし。
数秒だけとはいえ、その間はマジでムボービになるんだかんな、ヤバいわ。
つーかヤバいわ。こんなワケわかんないこーげき受けてマジヤバいんすケド。
どーやって対処すりゃいーのか分からんのが一番ヤバい。剣くん任せのあーしは剣くんが動いてくれなかったらマジ何も出来んのやが。
けっきょく、慌てるだけで何も出来なかったあーし。
対してロブオは驚きから気を取り直したのか、
「ならば、これならどうだ!?」
とかなんとか言って、変なポーズしながらまた何事か唱えた。
すると今度は、
——ちょっ、何これ!? 今度は金縛りかよっ!?
マジで指一本動かせない。つーか
さっきと違って意識ははっきりしてるケド、その分、体がまったく動かないことへの恐怖が強い。
寝てる時に金縛りにあうのとはワケが違う。なんせ今ここは、敵地のど真ん中って感じの
やば、詰んでねコレ?
「今度は効いたな! よし、兵士ども。奴を捕らえるのだ!」
ロブオが余裕たっぷりといった感じで、兵士たちに指図する。
そして槍を構えた兵士たちが、こちらに少しずつ近づいてくる。
あーしはもはやテンパリパニックで、頭ん中真っ白だった。
ただただ体に——動け動け動け動け! とロボットアニメの主人公みたいに叫んでいた。心の中で。
すると
なんだか剣くんから力が流れてくる。それが体を押さえている力に拮抗して、なんかバチバチやり合った後、バチンッ——と金縛りが解け、あーしの体は再び動くようになった。
剣くん……、まじキミってさいこう。こんなに頼れる人(?)あーし初めてだよ。
どうも鞘くんも力を貸してくれてたみたい。ほんと、あーしの味方はキミらだけだよ。頼れるのが無機物だけって、あーしの
どっちかっつーと、友達とか多い方なんすケドね。でも今はあーしひとり。ぼっちかなしい。
いきなり動けるようになったあーしに、兵士たちはめっちゃビビった。そしてそのままズルズルと後ろに下がり始める。
体、動けー! と念じてたあーしの鬼気迫るよーすに、兵士と言えどビビったかー。
いやまあ、十代のオトメとしてはそれはそれで
「な、何を下がっている! お前らそれでも兵士か!」
とか何とか言いながら、自分だって下がっていくロブオ。
オメーだってビビってんじゃねーか。むしろ自分のワザ破られて一番ビビってんだろ。あー?
あーしもさっきまでは謎の技にビビってたけど、今はもうイライラの方がデカい。
つーかいつまでも受け身でいるのはよくない。むしろこっちから攻めるべき。
今のあーしはもうビビってない。今度はこっちから攻めてやる……!
手前の兵士が邪魔だけど、なるはやで蹴散らして、あの生意気なロブオをぶっ飛ばす!
と決意してロブオの方を見やれば、ヤツはなにやら手をバチバチ光らせていた。
「かくなる上は、コイツで……!」
とか言って、手の上にバチバチと光る謎の玉のよーなのを作り出した。
いや、待て待て。
何だよソレ。そんな目に見える形でヤバそーなん出すのヒキョーじゃね? せっかくこっちから行こうと思ったのに、こんなん出されたらビックリすんだろーでしょが。
それどーすんのよ? そのバチバチ。投げるの? あーしに投げるの? 投げたらどーなんの? 爆発すんの? 食らったあーしはどーなる? 無事では済まないでしょタブン。
オイオイ、お前そんな、光るやつとか、ダメじゃん。そんなことしちゃあ……。光るやつとか人に向かって投げちゃいけませんって、小学校で習わなかったのかよ。
しかも相手は女子だよ? 女の子相手にそんなの投げちゃダメ。ありえないよ、マジで。
マジで、こいつぜってー、ドッチボールとかでも女子ばっか狙うよーな
「ふっ、さすがの貴様もこれには驚いたようだな……」
やかましいわ。光る球出したくらいでチョーシ乗ってんなよ。
そんな球くらいあーしにかかれば……なんとかなるんか? これ、いけるやつなんか? 剣くん、どーすか、いけそうコレ……?
「この私にここまでさせたこと、後悔するがいい……。くらえッ!」
ロブオが光の球を投げた。
あーしはとりま、投げられた瞬間に
だって球の速度が速すぎて、認識出来るレベルを超えていたから。投げるって感じじゃなくて、レーザービームみたいだった。
くそっ、フインキに騙された! だって投げる感じのやつだったもん。
では球に当たってしまったのかというと……当たった。剣くんに。
認識出来ない速さで来た球を、剣くんが受け止めていた。
今、絶賛バチバチいいながら受け止め中。当たった後も、球は進もうと押してきている。
「んがががっ!」
あーしは変な声を出しながら、必死に球を押し戻す。
まるでマンガとかで、野球の球を打つ時にバットに当たってから数秒くらい拮抗する感じの表現みたいな感じで。
これを打ち返せなかったら、ストライクどころかあーしはアウトだ。色んな意味で。
くそっ、負けないッ! まだ試合は終わってないンだッ!
「満月大根斬り!」
あーしは叫んだ。
それと共に剣から力が一気に溢れて、その勢いで球を打ち返した。
——やった……!
打ち返した球は、ジャストにロブオの方に飛んでいった。
「うおっ!!?」
しかし、ロブオの周りには見えない膜のようなものがあり、球はそこで止まる。
しばらくバチバチいって膜にめり込んでたかと思うと、バチンッ、と前に弾かれた。
そして、ロブオの手前にいた兵士の人に当たった。
「んぎゃぁぁああぁあ!!?」
兵士の人に当たった球は弾けて、衝撃と閃光と稲妻を辺りに撒き散らした。
当たった当人はもちろん、周りにいた兵士たちも吹っ飛んでいった。
少し離れた位置にいたあーしや、膜で守られたロブオは無事だった。
衝撃から落ち着いた周囲には、惨状が広がっていた。
あーしはすかさず、
「あーあ、アンタのせいでみんなやられちゃってんじゃん」
ロブオのせいにした。
ロブオはすごくビックリした顔をして、すぐに焦りだした。
「わ、私のせいだとっ!?」
「どー考えてもアンタのせいじゃん。あーあ、やっちゃった。やっちゃったねー」
「ち、違う! お前が——」
「あーしは跳ね返しただけだしー。元はといえばアンタが飛ばした球のせいだしー。つーか最後に兵士クンに当てたのもアンタだしー」
「それは……それは貴様がっ」
「つーか兵士の人ら大丈夫なん? 死んでないコレ?」
「……今のは死ぬような術ではない。死んではいない……はず」
オイ今なんか最後付け足したろ。
……まーいいや。死んでないならよかった。いちおーあーしも間接的には責任あるし。
まあ、ほとんどはあのロブオのせいだから、何かあってもあーしはほとんど悪くないと思う。
「さて、と」
改めて状況を見回してみると、兵士の人らの大部分がやられて吹っ飛んでいた。
残りはわずか。
——アレ、これチャンスじゃね? 今行けば勝てるくね?
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